好きまでの距離感〜第五十話〜


「それは…夕べ、聞いた」

桂一郎から好きと告白されて、どれだけ驚いたことか。
頭が真っ白けになっちゃったもんな。
でもって、それを今蒸し返すわけ?
何で?

「和を好きなままで、側にいてもいいのか?」

あ、それを言いたかった訳ね…。って、俺はそれに対して何と言えばいいっていうんだ。
「和?」
隣に座ったあいつが俺の名を呼び、体を寄せてくる。
その瞬間、昨日の記憶が蘇ってしまい、つい俺は怖じ気づいてしまったんだ。
我ながら情けないとは思いつつも、びくりと体を震わせて後ずさってしまう。
「あっ…」
「やっぱり…駄目か?」

あからさまに桂一郎が目を伏せたのが分かった。
俺がちょっとビクついただけで、簡単に落ち込むんじゃねぇ。
お前はよぉ〜。

「だ、駄目って言うか。その…夕べの記憶がちょっと…。で、でも嫌いとかじゃないから…」
「本当に?」
「う、うん。ホント、ホント」

…何で俺が桂一郎を慰めているんだろう。
これっておかしくねぇか?
でもさ。ここで桂一郎を拒絶しちゃったら、またあいつが離れていっちゃいそうで嫌だったんだもん。
「俺を嫌いじゃない?」
再度、あいつが尋ねてくる。
普段は抑揚のないしゃべり方をする奴なのに、その言い方が妙に不安そうに聞こえてくるのは俺の気のせいじゃないんだと思う。
こんな言い方をする桂一郎が、あまりに彼らしくなく思えて、俺はわざと明るく言ってやったんだ。

「嫌いじゃないって。何年俺と付き合ってるんだと思うんだ?ガキの頃から、ず〜っと一緒にいるじゃん。気が合わなきゃ、とっくの昔に縁が切れてると思うぜ?お前は俺の一番の友達だからさ」
俺の明るい物言いに、桂一郎が眼鏡の縁を押し上げて思わしげな瞳を向けてくる。
「それは俺が、このまま和の側にいてもいいって事?」
「当然じゃん」
「俺がお前のことを友達以上に好きでも?」
あ、やっぱりそこは外せない訳なのね。このまま上手く誤魔化せたらいいな〜とは思ったけど、無理なのか。
「それは…その…まぁ、うん」
曖昧に言葉を濁す俺に、桂一郎が瞳で先を促してくる。
どっちかずは駄目なのか。
「別に好きなのは…いいけどさ…。うん」

うわぁぁぁ。
なんか、恥ずかしい。恥ずかしいぞ。このシチュエーションは。
どっかのありがちな青春ドラマのノリじゃねぇか。
しかもだよ。これが可愛い女子高生とかじゃなくて、相手は幼なじみの桂一郎なのよ。
こんなのってありなのかよ。
なんかこう…どっか、間違ってないか?って気がしてくるぞ。

しどろもどろになりながらも答える俺に、桂一郎が微かに笑んだのが見えた。
どうやらこれでこの会話も終わりかな?とか思ったけど、これだけじゃあいつは許してくれなかったんだ。
「俺の好きには、お前に触りたいの行為も含まれているんだけど?」

ぐぐ。
お、お前はそこまで言うのか?
なんかさ。桂一郎ってば、開き直ってねぇ?
自分の気持ちをさらけ出しちゃったもんだから、後はもうここぞとばかりに言いたい放題…みたいな。
しかもだよ。言い方はやんわりなんだけど、逃げを一切許してくれないみたいな感じもするんだ。
無言の圧力も感じるしさ。
まるで自分が追い込まれているような気もする。

「さ、触るのは…」
俺が答えるのを桂一郎はじっと見詰めてくる。
ここでまた拒絶したら、桂一郎は俺から離れちゃうんだろうか。
それは…どうしても嫌なんだよな。
やっぱり、桂一郎が側から離れるのだけは我慢出来ないから。
「無理矢理じゃなければ…別に…」
「別に?」
「いきなりは嫌…だ」

俺の答えに桂一郎が眼鏡の縁を押し上げ、僅かな間をおいて問いかけてくる。
「それは、同意があればいいって?」

あ、あれ?
そう言うことになるのかしら。





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