好きまでの距離感〜第四十六話〜


桂一郎の手を離したくはない。
でも、あいつを受け入れる事も出来ない。
友達としては好きなんだけど、それ以上の感情なんて持ったことなんかなかったから。

あいつはいつから俺をそう言う目で見ていたんだろう。
あまりにもずっと側にいすぎて、側にいることが当たり前になりすぎていて、あいつの変化に気づきもしなかった。
あいつだってそんなに変わらないと思うんだけど…。

それともあれかな?
たんに俺が気づかなかっただけなんだろうか。あいつの感情に。あいつに思われているって事に。

まぁ確かに、他の友人とかよりも桂一郎と俺の距離感っていうのはちょっと違うと思うんだ。
たまに言われるんだよね。
「お前らって、ホント仲良いよな」って。
人に指摘されるまで気づかなかったけど、俺と桂一郎の仲の良さは特別みたいだから。
俺としては普通のつもりだったけど、男同士で一緒の布団に寝るなんて他の奴らはしないみたいだし、あまりべたべたくっつかないみたい。
それを指摘されて、俺も初めて気づいたんだけどさ。桂一郎には幾らでも触ったりくっついたりしてるけど、他の友人にはあんましないかも。

ただ…。どうも俺は結構、くっつき魔らしいのね。
平気で男にも抱きついたり、肩組んだり、べたべたしちゃうみたい。
だから人に甘ったれって言われるのかなぁ。
自分じゃ、そんなつもりないんだけどなぁ。

あ、そーいえば。
かなり大きくなってからも桂一郎と風呂に入ってたなぁ。
でも、いつの間にか一緒に入らなくなっていた。
何でか、あいつが一緒に入るのを嫌がってたんだよな。あれは…中学生の頃だったっけ?

一緒に入って背中の流しっこしない?とか誘っても、頑として入らなかったんだよね。………って、あれ?
もしかして…。
もしかしてそのころから、あいつは俺の事を意識してたって事?
で、でもあれは中学の頃だし…。

ああもう、嫌だ。
考えれば考える程、ドツボにはまっていきそう。

手にしたサンドイッチを口に放り込み、牛乳で無理矢理に流し込む。
俺、昨日からあいつの事ばっか考え込んでいる。
この感情の持って行きようが分からない。
自分がどうしたいのかも、分からない。

もそもそと味気ない昼食を続けていたら、微かに屋上の鉄製のドアが開く音が風に乗って聞こえてきた。
誰かが俺と同じようにここで昼飯を食いにやってきたのかな?
知らない奴だと気まずいし、知っている奴でも何となく今はしんどい。
何気なく視線を上げてみれば…。

そこには桂一郎が立っていて、俺を見付けて近寄って来るのが見えたんだ。

う、嘘ぉ!
咄嗟にどうすればいいのか分からなくて、慌てふためいたところへ持ってきて、口に入れていたサンドイッチが器官に入り込んじゃったみたいだった。
「げほ、ごほ、がほ………!」
喉が詰まって、その場で盛大に咳き込んでしまったんだ。

喉は詰まるし、桂一郎はそこにいるし、逃げたくても、足が動かない。
もうどうすりゃいいの?って感じ。

俺が体を二つに折って咳き込んでいるところへ、いつのまにか近寄ってきたらしい桂一郎の声が頭の上から聞こえてきた。
「大丈夫か、和?」
心配げなあいつの声。
咳き込む俺の背中をあいつが触れてくる。

そのとたん、体が無意識に強張ってしまって、俺はあいつの手から大きく体を離していた。
「あっ…」
「和」





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