好きまでの距離感〜第四十五話〜


午前の授業の間中、ずっと首に貼った湿布薬が気になってしょうがなかった。
何度となく首に手をやったりして、我ながら挙動不審だと思わざるを得なかったくらいだもの。
それに何となく、首がチリチリする感じもしてきたんだ。

もしかして、これってやっぱり湿布薬に負けちゃったかな〜という気もしてきた。俺、この手の貼り薬系のって苦手なんだよね。
これは後で痒くなりそうで嫌だな〜と思っちゃった。
湿布薬を剥がしたら、赤くなってるかもなとも考えた。…でもまぁ、そうしたらキスマークも誤魔化せていいのかな?
誤魔化せるには誤魔化せるけど、その代償が肌荒れかぁ。痒いのを我慢するのって、しんどいんだよね。嫌だな〜。辛いな〜。

なんだかさ。
午前中、ず〜っとそんなことばっか考えて、全然授業なんか頭に入らなかったんだ。
昨日からの出来事で、頭の容量がいっぱいいっぱいになっちゃってこれ以上はなんもはいりませ〜んって、感じ?
惰性で授業を受けて、ぼんやりしたまんまで午前をやり過ごした気分だった。

そして昼。

隣の三村が「一緒に飯食わねぇ?」と誘ってくれたけど、今日は何となく喋りたい気分じゃなくて、「悪い、ちょっと…」と適当に言葉を濁して教室を後にしたんだ。

向かった先は、校舎の屋上。
くしくも昨日と同じ場所。
でも手には母さんが作ってくれた弁当ではなくて、調理パンだ。
途中の購買部で買った物。
いっつも弁当派だったから、たまにはパンもいいかなって。
それに学食にいって、みんなと喋りながら昼飯を食う気にはどうしてもなれなかった所為もあったんだ。

屋上のフェンスに背中を付けて、買ってきたサンドイッチと牛乳を飲んでいた。
空は青空。
快晴ってやつ。

「はぁ…」
我知らずため息が出ちゃう。

こんなに天気は良いのに、どうして俺ってば鬱になってんだろうね。
まぁね。原因なんて、考えなくても分かってんだけどさ。
つまりあれだ。あいつの所為。
あいつが…その…俺のことを…す、す、好き…だとか、ぬかしやがった所為なんだ。

うわっ。
や、やばいって。
思いだしただけで、何だか顔が火照ってきちゃったじゃねぇか。
落ち着け。落ち着け俺。
こんなところで一人百面相なんてやっている場合じゃないんだって。

大きく深呼吸して、手にした50ミリパックの牛乳を一回口にした。
もう、俺ってばホント夕べからおかしいよね。
桂一郎の事を考えるだけで、どうにもこうにも冷静じゃいられなくなっちまうんだからさ。

桂一郎…。
今朝は母さんと姉貴が揉めていたから、あいつに弁当を届けてやれなかった。
一応ね、通学のバスにあいつと同じクラスの奴を見付けて、彼に今日は弁当が無いからって言付けを頼んだから、桂一郎には弁当の事は伝わっていると思うんだけどね〜。

まぁどっちにしろ、今朝はさすがにあいつの顔を見るのは気まずかったから、弁当の宅配をしなくて済んだのはラッキーといえばラッキーなんだろうけれど…ね。
でもこれからずっとあいつを避ける訳にはいかないだろう。
あいつと俺とが幼なじみだっていうのは周知の事実だし、家もスッゴイ近いし、何より母さんとか姉貴も桂一郎の事は実の家族同然な付き合い方をしているから。

それに…。
俺だって、あいつにあんな事をされたのに、どうしても桂一郎の事を嫌いにはなれないでいるから。

そうなんだよね。
昨日は咄嗟の事に驚いて「嫌いだ!」とか口走ったけれど、俺はあいつの事を嫌いじゃあなかったんだ。
嫌いになんかなれないっていうのが、本音かな?
そこ辺り自分でも不思議でもしょうがなかったんだ。
あいつがそばにいるのが当たり前になっていた。っていうか、そばにいるのが当然っていうか、何て言うか…。

やっぱあれかなぁ…って思ってしまう。
小さい頃に交わした約束。
「ずっと和の側にいるからね」っていう、おままごとのような約束の言葉が俺の中に結構大きな部分を占めているっていう気がするんだ。
あの言葉に救われた自分を知っている。
だから俺は桂一郎を嫌いになれないんだろうか。
あいつを…。あいつの手を離したくないんだろうかって。






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