好きまでの距離感〜第四十一話〜



分からない頭を抱え込み、俯せに寝ていた体を起こし、仰向けになった。

見慣れた天井をぼんやりと眺めていた。
桂一郎の顔が頭から離れない。
あいつの言った言葉が耳に残って、俺の気持ちをかき乱す。

「…くそっ」
誰に言うこともなく、悪態を付いていた。

どうしてこんなにも胸がざわつくんだ?
桂一郎の言葉や態度に、捕らわれてしまう自分がいる。

考えても、考えても、自分がどうしたいのかが分からない。
そして、分からない自分自身が一番分からなかったんだ。

明日っから、どんな顔して桂一郎と会えばいいっていうんだ?
普通に何もなかった顔なんて、出来るわけもない。
きっとそれはとても卑怯な事に違いないから。
あいつの真剣で真摯な思いを無かった事になんて、しちゃいけない。
それをしてはいけないって事だけは分かるから。

でも…あいつを受けいるれことも出来るはずがないんだ。
だとすれば?
おれは、本当にどうしたらいいんだろう。

考え込みすぎて、頭が疼いてきそうだった。
なのに、結論は一向に出そうもない。
そうこうしているうちに、あいつの声とか抱きしめられた腕の強さとか舐められた耳の感触とかすら思い出しちゃって、一人ベッドの上で意味のない呻き声なんて出してしまっていた。

「和」と俺を呼んだ、あいつのちょい低めの声。
高校生にしては低めで、耳に心地よい音。あいつに和って呼ばれるのは、実のところ好きだったから。
でも…。
今まであんな熱っぽく呼ばれた事は無かった。
ただ「和」って、いつものように名前を呼ばれただけなのに、背筋がぞくりとしたんだっけ…。
って、何を考えているんだよ俺は!
「ああ、もうっ!」
一人、部屋の中で自問自答しながら身もだえしている自分が馬鹿みたいだと思った。

もう一度体を反転し、俯せになって目を閉じる。
あいつの言った事とか、あいつに抱きしめられた事とかが頭から離れないでいる。
初めて見る、桂一郎の男くさい表情とかがどうしても忘れられない。強い眼差しさえも…。

そのままどのくらい考え込んでいたのかな…。
自分的には、かなり長い時間起きていたんだと思っていたんだけど、いつのまにか寝入ってしまっていたのだろう。
気が付けばカーテンの外が白々と明るくなっていて、俺は普段着のままで着替えもしないで寝てしまい、朝を迎えたのだった。

ぼんやりと目を開けると、ベッドボードに置いてある時計が目に入った
「んっ…」
考え込んだままで寝てしまっていたらしかった。
布団を掛けた覚えなんかなかったんだけど、無意識のうちに自分の体の上に引っ張ったんだろう。上掛け布団の中に潜り込んで寝ていたのだった。
でも、服の昨日のままだ。
学校から帰って、いったん着替えたまんま。
パジャマにすら着替えていなかった。

昨日、桂一郎の部屋へ行って、その後部屋に戻って考え込んでいる間に寝ちゃったのか。
その所為かどうか知らないけど、何だかとても頭が重かった。
目の奥あたりがずきずきする感じもする。
しかも不自然な格好で寝ていた所為もあるのか、体のあちこちが強張っている。

もう、最悪。
自分の頭を抱え込みながら、のろのろと頭を起こしベッドボードにある時計を見てみたら…。

「嘘…」
結構、良い時間になっていた。
ヤバイとばかりに跳ね起きて、俺は部屋を飛び出し、階下へと駆け下りていったんだ。





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