好きまでの距離感〜第三十八話〜


だ、だからぁ。嫌だじゃねぇだろうが!嫌なんて!!

「待て、止せ。落ち着け。お、お前自分のしていることが分かってんのか?」
「ああ」

んが!
こ、こういう時にお前のその口の重さが本気で腹立つぞ!
しかもだよ。
桂一郎が俺の首筋にすいついて…。って、なんか柔らかいこの感触ってばーーー!

く、口?口なのか。口なんだろうか。
えーっとだよ。俺の首筋にあいつの顔がありましてぇ。でもって、やーらかいものが当たってるってぇのはぁ。
や、やっぱ口?唇…ってこと?

それはつまりあいつが俺に口で触ってるって………。
「!!!!」
そこまで考えて、俺の頭はもう真っ白け。
ぐわんぐわんと耳鳴りまでしてきそうな感じ。

そのうえにだよ。
すいついた口が動くんだ。ねっとりと。俺の首筋をアイスキャンデーか何かみたいに。
あ、あのですね。俺ってば、その…くすぐったがりなのね。背中とか、脇腹触られただけで駄目なんだ。
首なんて、弱点ですよ。ウィークポイントですよ。ツボっすよ。

そ、そんなところをあいつが舐めるんだもん。
「う、や…止めろって。馬鹿、何考えてんだお前は」
「止めたくない」
アホ!
俺の願いを一言で却下するんじゃねぇ。

あ、そこ。駄目。く、くすぐったい。
「あ…ん」
うっ!
思わず漏れた自分の声に、俺は自分の耳を疑ってしまった。
だ、だって。弱々しいっていうか…エロいっていうか…まるで、その…感じているみたいな声…だったから。
もちろんその声は間近にいる桂一郎にも当然のように聞こえたんだろう。
俺の首筋を舐め回していたあいつが一瞬、動きを止めて、それから顔を上げて俺を真正面から見下ろしていたんだ。
「和…」
それは俺が今まで見たことがないようなあいつの表情だった。
驚いているのは驚いているみたいだった。
でも…それだけじゃなくて、じっと俺を見据えているあいつの目の奥に揺らめくものが見えるような、思い詰めたような…。
な、なんだかさ。すっごい男くさい表情っていえばいいんだろうか。
うん。男くさい顔つき。あいつが試合の時に見せる表情にも似ているかもしんない。

…それを何で、今、ここで俺に向かって見せる訳?
お、お前のその目、怖い。怖すぎる。
「桂?」
呼びかける俺の声が震えているのが、自分でも分かった。
情けない話だけど、俺は桂一郎が怖かった。
だって、今まで俺がどんなに我が儘言っても、無茶なことお願いしても桂一郎は俺にとことん甘かったんだ。
僅かに苦笑するだけで、俺の言うことを何でも聞き入れてくれてたから。

だからさ。あいつが俺にむかって怒るとか、俺を拒絶するなんてあり得ない事だと無意識の内に思いこんでいたんだろう。

なのに…。
今、俺を抱きしめるあいつの腕の強さが怖かった。
嫌だって何回言っても、止めてくれないなんて信じられなかった。
俺をこんなに熱く見詰めるあいつ自身が…どうしようもなく、怖かった。

あいつの顔がゆっくりと降りてくる。
ヤバイ!って、瞬間思った。
本能的な恐怖心を感じて顔を逸らせば、あいつが俺の頬を舐めてきたんだ。
「んぅ…!」
声が漏れてしまう。
闇雲に藻掻いて、あいつの胸を押しのけようとする。なのに、俺を抱き込んだあいつの堅い胸とか腕は俺を逃してなんかくれなかった。
「け、桂。嫌だ。止めろってば。ねぇお願いだから…」
もう俺は半泣き状態だったのかもしれない。
なのにそんな俺の様子を見ても、あいつは一向に止めようとはしてくれなかったんだ。
それどころか…。
「あっ…やっ…!」
頬とか、目の辺りを舌で嬲っていたあいつが、俺の耳を柔らかく食んできたんだ。
「う…そ…」
ぞくりと背筋を妖しい感覚が這い上ってくるのを感じていた。

な、何?何なんだ、この痺れってば!
俺の体が強張ったのを、あいつは敏感に察したんだろうか。
耳を食んだいた唇の動きがさらに大胆になってきたんだ。
耳を軽く噛み、さらに舌を耳の中へ差し込んできたから。
「あっ…ん…ん…」
ちょ、ちょ、ちょっと待てーーー!
これはマズイ。マズイんだってば!





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