好きまでの距離感〜第三十七話〜


呼びかけられ、狼狽えまくった俺の声は情けないくらいに上ずっていた。
言った瞬間、自分でも驚いたくらいに。

それは桂一郎も同じだったんだろう。
あまり表情を変えない奴が、目を丸くして俺を真上から見返していたんだ。

「駄目って…」
桂一郎が俺の言葉を反芻していた。
あぁぁぁぁぁ。
な、なにを言ってんだ。俺はぁ。
駄目って何だ。駄目って。

瞬間俺の言葉に驚いてた桂一郎がむっとしたように唇を引き結び、それからふてくされたような声を出していた。
「駄目って、俺は何もしていないぞ?」
う、うん。分かってる。分かってます。
俺自身、何でそんなことを口走ったのか訳、分からないんだから。
なんとな〜く微妙な空気を感じて、錯乱しちゃった…みたいな?

でもそれを口に出すことは出来なかった。
何故ならば、桂一郎が徐に俺を強く抱きしめたから。

「け、桂?!」
「何もしていないのに駄目なんて言われたくない」
「あ…う、うん」
「だから…」

そう言って、桂一郎がさらに俺の体を自分の胸の中に取り込もうとしているかの如くに抱きしめる。
お、おい!
そんなに強く抱きしめたら、痛いじゃねぇか!
「ちょ、ちょっと。桂ってば、痛いよ。腕、緩めてってば!」
「嫌だ」
嫌だじゃねぇだろう!
「桂。ねぇ桂ってば。なんでそんなに怒ってんだ?俺、何かしたか?」
「何もしていないのに、駄目だと言った」
う…。
そりゃあ、言ったよ。言ったけどさ。でもそんくらいで何、ぶちぎれてんだよお前ってば。こ、心狭いぞ。お前。
「あ、あれはついものの弾みで言っただけであって…。だからって怒らなくったって、いいじゃん」
「別に怒ってるわけじゃない」
うそつけ。その口ぶりで何も怒ってないって言い張るのか、お前は。だてに長い付き合いしてんじゃねぇんだからな。
そう思ったから、俺は反論したやったんだ。
「ホントに?」って。
混ぜっ返してやったら、さすがにあいつはほんの少し口ごもり、微かに言ったんだ。
「少しは…」と。

や、やっぱり怒ってんじゃんお前。
でもってだよ。
何で俺が怒られなきゃならない訳?
駄目と言ったのが、どーしてそんなに気に障ったんだ?

「何でお前がそんなに怒らなきゃならないんだ?たかが駄目って言われたくらいで」
「何もしてないのに言われた」
「いいじゃん別に。あれは…弾みで言っただけなんだってば」
「濡れ衣だ」
「人の揚げ足を取るんじゃねぇ」
「だから…」
あ、また”だから”が出た。
何が言いたいんだ?お前はどうしたいんだ?
「うん?」
「だから…駄目と言われる事をしようかって…」

ぐっ!!
お、お前はぁぁぁぁ!
あまりにとんでもない事を言う桂一郎に、俺は呆然とし、それから本気で慌てふためいた。

何故って?
け、桂一郎の阿呆たれが、俺を抱きしめて首筋に顔を埋めてきたから。
「ちょ、ちょ、ちょっと待てーーーーー!」
「嫌だ」





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