好きまでの距離感〜第三十五話〜 ベッドが途中から切れた?…って、訳ないだろーーー! ずりずりと後ずさっていた俺は、知らないうちにベッドの端に寄っていて、さらに間近にせまっていた桂一郎の顔に驚いて、もう後がないにも気づかずに体をずらそうとしていたんだ。 もっとも、ベッドから落ちかけていた時にはそんなことに気づくわけもなくて、ただもう「ベッドが無い?」と、間の抜けた事を心の中で叫びながら落ちかけていた訳。 傾ぐ体。 ぐるんと視界が反転する。 ふわりと体が重力のままに落ちていく。 「うわぁ!」 「あぶなっ!!!」 ベッドからずり落ちようとした俺を見て、桂一郎が手を伸ばしたのが見えた。 逃げようとして、逆に捕まえられちゃうのね〜俺ってば。と、そんなアホなこともちらりと頭の角で考えてしまった。 ドン!と、床に響く音。 あ〜下ってば、フローリングだったんだっけ。板は絨毯よりきっついな〜。 自業自得とはいえ、わりと呑気な事すら考えてしまっていた。 アホだなぁとぼんやりしていた。 ぼんやりして…いたんだけど…。 あれ? 俺、ベッドから落ちたんだよね。 でもって、フローリングにぶつかったはずなのに衝撃が無い? 体のどこにも痛みを感じなかった。 そりゃ…まぁ。落ちたのが二段ベッドとかではなくて、普通の高さのベッドなわけだから、高低差なんてそんなにあるはずもない。 落ちたという感覚だけで、体を強く痛めるとかはあるはずもないんだ。 でもさ。だからといって、何も感じない訳もないだろう? いったいどして? あれれ? 俺の体の下に回されたこの手は何? ついでに誰かの温もりもある。でもって、俺の上に覆い被さっているこいつってば…もしかして…。 「桂?!」 「大丈夫か?」 あわあわあわ。 ずり落ちたときに、あいつが俺を庇って抱き留めてくれたの? だから痛みも全然感じなかった…のか? しかも俺ってば、落ちかけた衝撃とかで体を堅くして目を閉じていたもんだから、桂一郎が俺を庇ってくれたのにも気づかなくて…。 ああもう。俺の馬鹿。 「け…桂。お前、何やってんだよ。人の上に乗っかってんじゃねぇ」 助けてもらっておきながら、憎まれ口をたたいているのは自分でも恩知らずだと分かってます。 で、でもさ。何となく気恥ずかしいっていうか、居心地が悪いっていうか。 男として、同じ男に助けられて庇われたっていうのがどうにもこうにも不甲斐なくて、情けなかったんだ。 だからの減らず口なんだけどさ…。 でも桂一郎は怒ったりなんかしない。 優しい眼差しで俺を見ているだけ。むしろ俺を気遣ったりもしてくれるんだ。 「どこも痛めなかったのか?」ってね。 ちょっとその…なんていうか…ねぇ。 「べ、別に痛くない」と、つっけんどんに言いながらつけ足すようにぼそりと続けた。 「その…ありがと」ってね。 俺のその言葉に、あいつは本当に優しく微笑む。 んぐぐ。 お、お前のそれは反則だぞ。んな、やさしく笑ってんじゃねぇ。 ドキドキするじゃねぇか! |
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