好きまでの距離感〜第三十二話〜


多分、自分が赤くなってるんじゃなかろうかとは分かっていた。
何でこんな展開になったのか訳が分からないままだし、恥ずかしさもあって、桂一郎の顔が見ることが出来なくて、俺はそっぽを向いていた。

「俺も和の事が好きだよ」
「いっ?」
低い声で言ったあいつの「好き」という発言に、ぎょっとして目を見張っていた。
「け…い」
情けない話だけどさ、声すら上ずってしまっていたんだ。
でも…。だけどさ。
こいつの好きっていう言い方が、どうにもこうにもヤバイ匂いが含まれているような気がして、落ち着かなかったんだ。

「あの…さ、桂。お前のその言い方って、なんかちょっと…」
出来るならおちゃらけて、こんな怪しい雰囲気をどうにかしたかった。
桂一郎が俺の知らない顔を見せる。
俺を追いつめるこいつなんて、怖くて嫌だから。
だけど桂一郎は、酷くせっぱ詰まった表情で、俺を逃してなんかくれなかった。
「ずっと、お前を見てきた」
「あ…うん」
「出来るなら、これからもずっとお前の側にいたいと思ってる。誰よりも近くに」
「う…ん」

あいつの言うことに、俺は頷くことしか出来ないでいた…けど。何か、段々ニュアンスが違ってきてねぇか?
「わ、分かるよ。俺もずっとお前と一緒にいたいって思うから。何たって一番の親友だし」
あえて友達と付け加えたのは、俺のささやかな抵抗だったのかもしれない。これ以上の濃密な空気が耐えきれない。桂一郎のちょっとした仕草にも過敏に反応してしまう、自分自身すら理解できなくて。

桂一郎が俺を見詰める、その目にすら脅える自分なんて知らないから。
「和」とあいつが俺を呼ぶ。
いつもなら何とも思わない、その呼び方にすら緊張してしまうのは何故なんだろう。
「俺は…」と、桂一郎が一瞬言いよどみ、それから何かを吹っ切るように面を上げて、俺を見据える。
「俺は和の友達以上になりたい」
「は、はい?」

な、何言ってんだ。こいつ。
友達以上って、何?
それってば…つまり…。
「友達以上ってことは、えっと…大親友とか?」
別に巫山戯たつもりなんか毛頭なかった。ただ、頭が余計な事を考えるのを拒否している自覚はあったけどね。
ただこの時は本当にこの言葉しか思いつかなくて、ついぽろりと言ってしまっただけなんだ。
「…親友じゃない」
ため息まじりに呟いた桂一郎の声。
俺に落胆している様子が見て取れるくらいに。

うん。分かってる。
俺の答えがあいつにとって、望んでいないだろうことなのは。
もっと違う意味で言ったんだろうってね。

で、でもさぁ。
もう一個の言葉も思いついた。だけどそれを口にするのは、怖かったんだってば。
それを言ってしまったら、もう俺達は後戻りなんか出来ないような気がして、足を一歩踏み出すことが躊躇われたんだ。

そんな俺の躊躇いをあいつは許さなかった。
俺の脅えも分かっていたんだろうと思う。
ゆっくりと、そしてはっきりと言ったんだ。
「俺は和の事を友達以上に思っている」
「うっ」
もう相づちを打つことすら出来なかった。
「誰よりも好き、だ」

あ…あ…あの…。





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