好きまでの距離感
〜第三十話〜


「何故?」と桂一郎が俺に問いかける。
この何故は、俺がどうして桂一郎の好きな子の名前を聞きたいかの何故なんだろうな。
俺だってどうしてここまで拘るのか分からないんだけどさ。つまりは…あの…好奇心ってやつ?
「ほ、ほら。桂とはちっさいころから一緒だったしさ。だから、お前の好きな子ってどんなんかな〜って、思って」
戸惑うように答えながら、ちらりと桂一郎の顔色をうかがってしまう。
パッと見は表情は変わっていないようにみえるけど、俺にはどうにもこいつが俺の次の言葉を待っているように思えてしょうがなかったんだ。
「だってお前、今まで俺に好きな子がいるなんんて一言も言わなかったじゃないか。ずーっと剣道ばっかやっててさ、色っぽい噂も何にも無しだし。俺と一緒の時も、女の子の噂一つしなかったじゃないか。だからさ。てっきり女の子に興味ないのかな〜って思ってたんだもん」

つっかえつっかえ話す俺に桂一郎はおとなしく聞いていたのだけど、途中でね。あいつの表情がピクリと動いたのが見えたんだ。
うん?
俺、お前の気に障ることを言ったんだろうか。
「桂?」
「…女の子に興味がないってところは、当たらずとも遠からずだな」

はい?
お、お前。今の発言はどっか危なくねぇか。

戸惑う俺を見詰めながら、桂一郎が静かに言う。
「俺はずっと一人の人が気になっていたから」
「え?」
桂一郎の瞳が俺を真っ直ぐに捉えている。
「小さい頃から、ずっとそいつの事だけしか見えてなかった」
「ちっちゃい頃から?」
俺の問いかけに、あいつが大きく首を振る。
「それこそガキの頃から」

その言葉の真摯な響きに、俺はどうしようもないくらいのショックを受けていたんだ。
だ、だってさ。
ちっちゃい頃っていったら、あの時じゃねぇか。
昔に俺がべそかいて、拗ねてた時くらいって事だろう?
あの時に慰めてくれた。ずっと側にいるって約束してくれたのに。
あの言葉は全部、ただの都合の良い上辺だけの口約束だったって事?
俺から…離れないって、言ったくせに。

「じゃ、じゃあさ。その人がいたから崎谷さんの告白も受けられなかったし、他の女の子にも目がいかなかったって事なんだ」
自分の言葉が震えそうなのを、俺はどうしようなく自覚していた。
だって桂一郎が俺だけのじゃなくなっちゃうなんてと思ったら、いきなり寂しくて置き去りにされたような辛い気分に陥っちゃったんだもん。

「和は浮気性な男は嫌いだろう?」
あいつの優しい声が耳に届く。
それに俺は微かに「うん」と答えた。
確かに不実な奴なんて、父さんだけで十分だ。
人を好きになる気持ちは止められないし、心なんて不確かなものだって事も理屈では分かっている。
でもさ。だからって人を傷付けてもいいなんて、俺には思えない。
人を苦しめてもいい愛情なんて、俺は我慢出来ないから。
「浮気なんて、最低だ」
固い声で告げる俺に、桂一郎がそうだなと続ける。
「俺も二股なんて事はしたくない。好きな相手には真っ直ぐでいたいんだ」
「…うん」
「俺は約束は破らない。ずっと側にいると誓ったあの日のままで、いるつもりなんだから」

あは。
桂一郎ってばさ、今日はやけに饒舌じゃねぇ?
珍しくよく喋る日だよね〜…って、あれ?
今、こいつ何かみょ〜に気になることを言わなかったか。
「け…桂?」
「和は俺が嫌いか?」
「はぁ?」




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