好きまでの距離感
〜第二十九話〜



「なんで?」
次に出た俺の言葉は、殆ど脊髄反射のようなものだった。
俺の驚いた様子に、桂一郎が訝しげに眉を潜めた。
まぁ確かに、断って何故?と言われても困るとは思うけどさ。
俺自身も無意識に出ちまった言葉な訳だし。
「あ、あの…だってさ。彼女ってば、すっげー可愛いし。性格も良さそうだし。何よりお前と同じ剣道部じゃん?だから話も合うんじゃないかなーって、思って」

まるで言い訳のように続ける自分自身が分からなかったけど、言葉を止める事なんて出来なかったんだ。
ついでにね。
桂一郎が崎谷さんと付き合わないと言った言葉に、心の奥底でホッとしていたのも事実だった。

何故彼女の告白を断ったんだという俺の発言にあいつが深いため息をつき、それから自分の膝に肘を付いて、ぼそりと言ったんだ。
「俺は彼女とは付き合えないんだ」
うん?
何か、含みのある言葉じゃねぇ?
「どうして付き合えないって…」
「和は二股をかける男は嫌いだろう?だからだ」
二股って事は、つまり…。彼女がいるのに他にも付き合っちゃう奴の事ね。
なるほど。
うん、大嫌いだ。
俺の中に両親の事。特に親父の裏切りは結構根強いしこりとなって残っているんだろうと思う。だからだろう。俺は人の心を弄ぶ奴なんて、大嫌いなんだ。
裏切りとか、人の好意を軽く考える奴とかね。ぁ
桂一郎の言葉に俺は頷いた。
「二股なんて、大嫌いだ。んな奴、絶対ゆるさねぇ」
そんな俺の言葉に、あいつはほんの僅かに表情を緩めてこう答えたんだ。
「だから俺は彼女とは付き合えないんだ。どんなに良い子でも、だ」

ああ、そっか。
だったらしょうがない…って。
あれ?
「付き合えないってことは、お前…」
「俺には他に好きな奴がいるからだ」
「えっ?」
それを言われた瞬間、俺の胸はズキリと痛んだんだ。

好きってことは…好き…なんだよね。って、何当たり前のこと考えてるんだ。俺は。
ボケまくってんじゃねぇ。
…に、してもだ。
今まで桂一郎にそんな相手がいたなんて、思いもしなかった。ずっとあいつの側にいたのに、好きな子がいる素振りなんて、欠片も見せなかったから。

俺は確かめるように桂一郎に尋ねた。
「好き…な奴?」
「ああ」
冗談でも何でもなく(元から桂一郎は冗談なんかあまり言わない奴だ)あいつが俺に向かって言う。
「お前、今まで一回もんな事、言わなかったじゃねぇか」
「聞かれなかったから」

だからぁ。
そーいう答え方は止めろってば。
「聞かれなかったって…。あのなぁ」
いい加減、こいつとの会話のやり方なんて慣れているつもりだったけど、ちょっと脱力しそうだった。

待て。落ち着け、自分。
今、自分が慌てている事事態がおかしいとは思うけど、どうしても俺は確かめずにはいられなかったんだ。
「桂の好きな奴ってばさ、俺らと同じ学校?」
俺の問いかけに桂一郎が頷く。
「その相手ってば…俺の知ってる奴?」
それにも桂一郎は頷きで返す。

へ、へぇ。
同じ学校で、俺も知っている子なのね。
ここで俺の頭はフル回転状態だった。
頭の中のメモリー探って、ダーっと女の子の顔が羅列している…みたいな?

桂一郎が俺を見ていた。
こいつの中には、好きな女の子がいたんだ。
その事実に多少は打ちのめされながら、俺は改めて確かめよとしたんだ。
「な、なぁ。あの…さ。もしも良かったら、お前の好きな子の名前…教えてくんない?」
聞いたからどうしようって訳じゃない。でも、聞かずには済まない気分でもあったんだ。
桂一郎の目が俺を捉えて離さない。
「名前、知りたいのか?」
「うん」





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