好きまでの距離感
〜第二十七話〜



たった今の今まで考えていた張本人からの電話に俺は驚き、慌てて持っていた携帯を取り落としそうになったくらいだった。
「うわったったったっと」
「和?」
電話の向こうから、桂一郎の訝しげな声が聞こえてくる。
たかが電話くらいで狼狽えている自分がアホみたいだと、思ってしまう。
取り落とさないようしっかりと携帯を持ち直し、改めて電話の向こうにいるだろう桂一郎に、取りなすような声を出す。
「あ、悪い悪い。ちょっとね、バタバタしてたからさ。んで、何?」

ずっとあいつのことを考えていたくせに、それを気取られるのが嫌で、わざと俺はしらばっくれた声を出していた。
すると携帯の向こうにいるだろう桂一郎が一瞬押し黙り、それからすこしばかり堅い声で俺にこう言ってきたんだ。
「こっちにもう、来れるのか?」

…お前、ホント直球勝負な奴なのね。

「あ〜そっちにね。うん…まぁ…」
素直にうんと何故か言いにくくって、曖昧に言葉を濁す俺に向かって、さらにあいつが畳みかけるように告げてきたんだ。
「昼に話そうと言っただろう?忘れたのか」
「い、いや。忘れてないけど…さ」
忘れてないどころか、ず〜っと引きずってましただなんて、言えるわけもねぇ。
ぼそぼそ言葉を濁す俺に、あいつが有無を言わせない声で促してくる。
「じゃあ待ってるから」
「うぉい!」
簡潔に言い捨て、俺の呼び止める声すら待たずに、さっさと話を終わらせてしまったあいつ。
既に相手のいない携帯を睨み、俺は暫し呆然としてしまった。

…桂一郎ってば、こーいう奴なのよね。

気を回すところは回す癖に、自分の我を通す時は、絶対に引かないんだ。
これは俺が足を運ばない限り、あいつは絶対に諦めない。
何度でも携帯を掛けてくるか、もしくは直接家に尋ねてくるかもしれない。何たって、俺とあいつの家は歩いて数歩のお隣さんなんだから。

しょうがねぇよな。
俺は諦めて桂一郎の家に向かうことにしたんだ。
あいつの部屋で、あいつと何を話すのか。話さなきゃいけないことが何なのか、まるで分かっていなかったけどさ。

向かった桂一郎の家にいたのは、何故かあいつ一人だった。
玄関で俺を出迎えたのは桂一郎だけ。
思わず「おやっさんは?」と尋ねたら、あいつは「いない」と一言告げただけ。
口の重い奴なのは重々承知してたけどさ、いくらなんでもその説明はあんまりじゃん?
あまりに中身のない返事に、俺が「それだけか?」と睨んでやったらあいつも言葉足らずなのを察したんだろう。
「夕飯を食べている最中に、急に署に呼び出されたんだ。事件らしい」
簡潔ながら、俺の聞きたかった事を教えてくれたんだ。

事件か。
なるほどねぇ。
今更なんだけど、桂一郎のおやっさんってば、捜査一課の刑事さんなのよね。
もうばりばりの強面のおっかない人。…普段は温厚なおっさんなんだけどさ。
でも、いざ事件ともなればこうして時間を問わずに出掛けちゃうみたいなんだ。
だから桂一郎もちっさい頃はこんな時、俺の家に預けられていたみたいなんだけど、さすがに高校生にもなって最近はそれもないんだけどね。

…って、あれ?
ということはだ。
今はこの家には、俺と桂一郎の二人だけ?
二人っきり。

あ〜。だからどうって訳じゃないんだけどね。
先に自分の部屋へと向かう桂一郎の背中を眺めながら、俺はどうにも言い難い気分に陥っていたんだ。





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