好きまでの距離感
〜第二十六話〜



大好きだった父さんが、ある日突然にいなくなって、ガキなりに落ち込んでいた俺を必死になって慰めてくれた桂一郎。
あいつだって俺と同じ年のくせしてさ、まるで保護者みたいに俺を守ろうとしてくれたんだ。
「ずっと和の側にいるから」「どこへも行かないから」なんてさ。
小さいながらに、俺はあの言葉に救われていた。
多分、無意識の内に俺は桂一郎の事を頼っていたのかもしれなかった。

だって桂一郎はあの言葉通りに、ずっと俺の側にいてくれたから。
つかず離れずなんてもんじゃない。ずっと付きっぱなし…ってやつ?
幼なじみなんて言葉じゃ足りないくらいに、あいつは俺の側にいて、誰よりも身近な存在だったんだ。
だから…かな?
こんな気分になっちゃうのは。
常識的に考えたら、友人に彼女が出来たら祝福しなくちゃいけないんだと思うんだ。
だけど俺は妙に取り残された気分を味わっていた。
桂一郎が俺だけのものじゃなくなっちゃう…みたいな感じで。

「…なさけね」
思わずぽつりと呟いてしまっていた。
きっと俺は、知らず知らずのうちにあいつに依存していたんじゃないのだろうか。
俺が望めば、桂一郎はすぐ横にいてくれるもんだってことにだ。
どこにも行かずに、俺だけの側にって。

もちっとしゃんとしなくちゃね。
桂一郎にちょっと冷たい態度を取られたくらいでびびるのなんて、情けなさ過ぎるぞって。
だって桂一郎は俺のもんじゃない。
あいつだっていつか彼女が出来たら、いつまでも俺の側にいられる訳じゃないんだからって。
「………」
あれ?
また、気分が沈んできたぞ。おい!
ホンっとどうにかしろよ、自分。

結局その後、気分転換に本屋さんと電気屋さんとに寄っていって、新刊のコミックと中古のゲームソフト(前々から気になっていたやつ)を買い込んで、家に帰ってからコミックを読んで、それからゲームをずっとやり込んでしまったんだ。
チラリとね。
こんなことならクラスメイトとゲーセン言っても同じじゃねぇか?と思ったけど、それはそれ。これはこれ。

散々ゲームをやり込んだ後、母親に「夕飯よー」と呼ばれて食卓についたら、姉貴はまだ帰っていなかったんだ。
「和音は?」(俺、姉貴の事呼び捨てなんだよね)と尋ねたら、母親が言ったんだ。
「あの子は今日は会社のお友達と外食してから帰るって、連絡があったわよ」という返事だった。

ふぅん。
いいよなぁ、小金持ちなOLさんはよ。

俺とお袋の静かな食卓…じゃ、ないな。
メシの間中、お袋の止まらないお喋りに付き合わされ、二人だけだけど全然静かじゃない食事が終わる。
その後、自分の部屋に戻った俺は、さてどうすべぇかと逡巡した。

机の上に置いてあるデジタル時計を見れば、既に時間は9時近い。
この時間ならきっと、桂一郎も部活を終わって家に帰っているんだろう。
メシも終わっているんだろうな、多分。

で、俺はと言えば。
…悩んでいた。
意味もなく部屋の中、ぐるぐるしちゃったりもしていた。
どうしよう。どうすべぇか。
桂一郎は今夜、自分の家に来いと言った。
あの時、俺は何の疑問持たずに頷いちゃったんだけど、意味もなく躊躇っていたんだ。
でもって、その躊躇う理由さえ分からずにいた始末なのだから。
行かなくちゃと思いながら、そのくせ躊躇っている自分。
うんうん唸っている俺の耳に、突然に携帯の着信音が鳴ったんだ。

「うおっ!?」
び、びっくりした。
予想外の音が鳴ったことに驚き、携帯の音なんかにびびった自分を情けなくも思ってしまう。
「ったくもう、誰だよ」
誰もいないのに意味もなく愚痴り、携帯を持ち上げた。
そして俺は携帯を掛けてきた相手にまた、びびらなきゃならなかったんだ。

「はい?」
「和」
うわっ!
け、桂一郎?





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