好きまでの距離感
〜第二十四話〜



午後になってからも、俺の頭はどっかネジがぶっ飛んでいた。
授業なんて全然頭に入らないし、聞いちゃいねぇって感じだった。
集中しようと思っても、ついつい意識が遠くへ飛んでいってしまうのだ。

何でか。
それはもちろん、昼間の桂一郎の訳の分からん態度のせいだろう。
意味ありげな台詞を言ってくれるしさ、いきなり冷たい態度とるし。おまけに人の手を力任せに掴んでくれちゃって………。

あいつとお手々つないだのなんて、小学校低学年以来じゃないのか?
しかも何だか目つき、怖かったし。
あいつはどーしてあんな態度、とったんだろう。
俺には何もかもが分からなかった。

だいたい、どうして桂一郎は怒ったんだ?
そもそもは、俺が崎谷さんの告白を桂一郎へ代わりに告げたことから始まった…んだよな。
うん。
事の最初はそれだったはず。
それを聞いて、あからさまに桂一郎が不機嫌になったんだっけ。
俺のことを和正って呼んだのもそれからだったよな。
普段は無表情で無口なあいつが、端から見ても分かるくらいに不機嫌丸出しだったもんなぁ。

でも。でもだよ。
そこまで怒らなきゃいけないことだったのか?
女の子の告白を聞くことが。
何で?

あ、いや。
そりゃあさ、常日頃からあいつは俺にそんな告白の代理なんてマネは止めてくれって言い張っていた。
そんなのは好きじゃないって。
でも、あそこまで嫌がらなくてもいいんじゃないのか?
幼なじみの俺をびびらす程に、だ。
さらにだよ?
その告白をした崎谷ちゃんってば、結構可愛い子だったんだぜ。
感謝されこそすれ、怒られる覚えなんてこれっぽっちも無いはずだ。
っていうか、喜ぶだろう?
可愛い女の子に「好きだ」って言われたらさ。

なーのーにー。

あいつのあの態度はおかしくねぇ?
機嫌を悪くした上に、意味不明な事を言い出すんだもん。
しかも俺の手を捕まえてびびらすんだから。
自分が剣道の段持ちだって事を、忘れているんじゃねぇのか。あいつってばよ。
捕まえられた右手が痛いっちゅーねん。

なんかさ。昼に起きた色んな事が頭の中で渦巻いて、俺ははっきりいって処理しきれないでいた。
正直、何が何だかわかりませぇ〜ん。ってな気分。
普段とは違う桂一郎にびびってた自分にも驚いていたし。
その驚いている自分にも分からなかったから。

気疲れがどっと体を押し包んでいるみたい。
もうね。
俺の午後の気分はきっと最低だったんだろうな。

今夜、桂一郎は自分の家に来いと言った。
その時に話すとも言っていた。
それまで俺は、このもやもやした気分のままでいなくちゃならないんだろうな〜と思ったら、さらに気分はどんよりとしてしまう。
「あ〜あ」
ため息をつい口に出してしまいたくなるくらいに。
そんな俺の声を隣の席にいたクラスメイトが聞きとがめた。
「どした?」と小声で尋ねるのを、俺は曖昧に笑って受け流す。(今は授業の真っ最中だったっけ)
なんだかな〜って、気分。
傍目からも俺の落ち込みってばればれなのかなって思ったら、さらに気分はマイナス気味なのだけどさ。

ただ、この時の俺は色んな事を考え込みすぎて、まったく気づかずにいたんだろう。
桂一郎の話す内容の事を、だ。
崎谷かおりに代わって、俺が桂一郎への思いを伝言しただけで、俺の役目は終わったはずだったんだ。
それ以上に俺が関わり合う必要なんてなかったんだと。

桂一郎と俺が二人で話し合う理由は、もう終わってしまっているということを、この時の俺はまったく気づかずにいたのだった。

確かに話はあった。
桂一郎にとって、必要な話ってやつはね。

ある意味、俺にとっても大切な話でもあったのだけれど。





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