好きまでの距離感
〜第二十三話〜



んな、思わせぶりな台詞をはいて俺をこのままにしておくつもりなのか?
あんまりじゃん。
このまんまもやもやした気分のままで、午後の授業を受けろっていうのか。

「け、桂。ちょっと待て。まだ話は終わってねぇっつうの」
立ち上がりかけようとしたあいつの二の腕をつかんで引き留めようとした。
だって気にかけたままでいたくなかったんだもん。
だからもっとはっきりした言葉を聞きたかったんだ。

なのに、桂一郎の腕を掴んだ俺をあいつは何故かじっと見詰め、それからやおら右手を伸ばしてきたのだ。
ん?
捕まえた俺の手をゆっくりと剥がし、そのままあいつは手を握りしめてくる。
あ、あれ?
どうして俺の手を捕まえたまんま?
「もう午後の授業が始まる。どうしても気になるのなら、今夜俺の家に来ればいい」
そう言って、俺をじっと見詰めてくる。
握りしめた俺の手にも力が込められている。

え〜〜〜と。
な、なんか手の平に汗をかいてしまいそうなんですけど。
それよりも。
どうしてお前はそんなに熱っぽく俺を見詰めているんだ?
視線がマジすぎてこえーぞ。

「和?」
あいつが俺の名前を呼ぶ。
あ、俺の呼び方が和正から、和に戻った。
うん。
それでいいんだ。
そっちで呼ばれる方が、正直好きだ。
だって小さい頃から和って呼ばれているんだもんな。今更和正なんて、他人行儀みたいで嫌なんだもん。
…に、してもだ。
視線が熱っくるしいぞ。お前。
「………」
「後でいいな?和」
何も答えられずに押し黙っている俺に、桂一郎がもう一度確かめるように問いかけてくる。
今更ながらに気づいたけど、お互いの顔の距離が近すぎねーか?
桂一郎の吐息までかかってくるんですけど。

どうにもここでおとなしく頷かないとやばそうな予感を感じてしまい、俺はぎくしゃくと頭を縦に振っていた。
そんな俺を見て、桂一郎の表情がフッと和らぎ、捕まえていた俺の手の力が緩んだのを見計らって、慌てて手を引き抜いたんだ。

…その瞬間、桂一郎の顔が残念そうに見えたのは俺の気のせいなんだろうか?

何だか色んな事が一遍に押し寄せてきて、頭の中が少々パンク気味だった。
桂一郎に捕まえられた右手をさすりさすり、俺はあいつに向かって言い放っていた。
「わーったよ。今晩、お前ん家に行けばいいんだろう?話はそんときな」
「ああ」

それでこの話は終わりとばかりに、俺達二人は屋上を後にしたんだ。
二人で並んで歩きながら、つとめて俺は平静さを装っていたんだけどさ。正直胸の動悸がしてたまんなかった。
桂一郎に和正ってフルネームで呼ばれたのも久しぶりだし、あいつが俺に冷たい態度を見せたのも、多分初めて。
それが何だか、とっても嫌だった。
だって桂一郎はいっつも俺に甘かったから。
あいつが俺に怒った顔を見せるのなんて、今まで考えたことすら無かったくらいに。

ふいに俺は自分の右手を見詰めていた。
桂一郎にとても強く捕まえられた。
あいつの熱を手の平越しに感じていた。
それがさ。何だかとってもドキドキするのって、俺の気のせいなんだろうか。

俺…変?




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