好きまでの距離感〜第二十話〜


ひたむきで真っ直ぐな瞳が自分へと向けられている。
そのくせ、それはどこか脆くて危ういのだ。
彼女は俺をなじらない。
桂一郎への強い思いを口にしながら、それを自分の力で伝えられない事をもどかしく思い、自らを責めているのだ。
自分の思いを伝えるために俺を使おうとしていることも、ちゃんと自覚している。
多分、普段の彼女はとても公平で、スポーツマンらしくフェアなのだろう。

今まで俺に桂一郎への思いを伝えてきた女の子達なんかとは全然違う。
間を取り持ってくれと一方的に詰め寄って、それが叶わないと知ると、俺をなじってきた女の子達なんかとは。

こんなにも桂一郎を好きだと訴える彼女に、俺は正直たじろいでしまっていた。
だからなのかな。
気が付けば、ぎくしゃくと首を縦に振っていたんだ。
「う…ん」と。
拒めなかった。
軽い上辺だけの気持ちには拒絶することも出来ただろうけれど、彼女の感情の波に押されるままに、いつの間にか頷いてしまっていたんだ。
「あ…有り難う。ホントに…有り難う」
一転して破顔した彼女の明るい笑みに、妙な敗北感を味わってしまった自分っていったい何なのだろうと、俺はあの時頭の片隅で考えていたんだ。

そして…。
今、俺はこうして昼休みに屋上に桂一郎を呼び出して話している訳なのよ。
彼女の思いを伝えるために。
「ってなことが昨日あったわけなんだけど、さ」
桂一郎は何も言わずに俺の話を聞いていた。
その間、何一つ口を挟まなかった。

ただ、告白の相手が崎谷かおりだと伝えられたとき、眉がぴくりと上がり「彼女が?」と、微かに呟いただけだった。
桂一郎のそのリアクションに、何故か俺の中に違和感を覚えてしまったのはなぜなんだろう。
やっぱ同じ部の女の子で、しかも結構可愛い子だとこいつも密かに気にしていたのだろうかと、ちょっと…勘ぐったり、も、した。
「で、でさ。彼女、割と本気でお前のこと好きみたいなんよ。それでお前の気持ちってどうなのかな〜って、知りたいと思ってんじゃないかな。お前としてはどうなわけ?」
「………」
桂一郎は俺をじっと見詰めたままで、中々喋ろうとはしなかった。

それにもまして、気になるのは奴の冷えた眼差しだった。
俺の話を聞いている間中、あいつが喋らないのはいつものことなんだけど、どうにも居心地が悪い思いを感じ取っていたんだ。
なんかもう、徐々にあいつの周りの空気が冷えているみたい?ってな感じ。

桂一郎との沈黙なんて、あまり気にしたことはなかったはずなんだけど、今日だけは…っていうか、今だけは耐えきれなかったから、俺はつい必要以上に饒舌になっていたんだ。
「それで、お前としてはどーなのよ。彼女ってば結構可愛いから、気になっちゃったりとかしてる?」

自分でも無理に明るい声を出している自覚はあるんだ。
でも、そうしないとこいつとの気まずい空気をより実感してしまいそうで、どうにも我慢出来なかったんだ。
おちゃらけた俺の物言いに桂一郎はフッと息を吐いて、それから徐に言い出したのだ。
「何で和正が俺にそんなことを言い出すんだ?」

えっ…?えぇ?
俺のこと、和正ってフルネームで呼んでる。
いつもみたいに和って言わない。
もしかして…こいつ、怒ってる?






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