好きまでの距離感〜第十九話〜


「崎谷さん?」
いきなり切り出した彼女に、俺は目を向けてしまっていた。
「高校に入って、剣道部に入部して、そこで始めて野間君に出会ったの。最初は何だか取っつきにくくって、怖い人かな…とか思った時もあったわ。でも、一緒の部にいる間に、彼ってホントはとっても優しい人だなって気づいたの。野間君、女の子だからって特説扱いしないし、でも気を遣ってくれる人だって分かったし。そうしているうちに…段々と彼のことが気になってしょうがなくなっちゃったの。目が離せなくて、いつも彼のこと、見ているようになっちゃって…」

うん、桂一郎が優しい奴だってのは俺も知っている。
彼女に言われるまでもなく、あいつが誤解されやすいタイプなのはあの性格だからどうしようもないとは分かっているけれど、ちょっとでもあいつの事を知れば、桂一郎が本質的なところで誰よりも優しい奴だって事をね。

彼女が桂一郎の見た目だけじゃなくて、ちゃんと奥深い所まで見抜いていてくれているのは、純粋に嬉しかった。
幼なじみの俺としては、だ。
でも、だからって俺が桂一郎への恋の橋渡しをするのは、また別物なのだから。
「それは分かるけど…さ。でも崎谷さん、それを俺に言うのはちょっとね。確かに直で告白っていうのは勇気がいるとは思うけどね。でもやっぱ、俺出来ないわ。桂一郎もそーゆうの、嫌がるし。何より、俺は苦手な訳なのよ。告白とか、そーゆうのは。だからさ、悪いとは思うけど勘弁してくんない?」
「わ…分かってるんです!」
「え?」

今までの例だったら、俺が断るとか、もしくはその雰囲気を滲ませただけで大抵の女の子ってば訴える矛先を俺に向けたりするんだな。
彼女たち曰く、冷たいってね。
もしくは薄情。
女の子の必死の頼みを聞いてくれないなんて、思いやりがないとか、色々。
なかには自分が告白されないもんだから、桂一郎へのひがみとか、やっかみ根性から取り持てないの?とまで言われたことすらあったんだ。

もう、うんざりって感じ。
女の子達の思いこみの深さとか激しさ。自分だけしか見えていない部分にはついて行けない気分なのよ。

桂一郎がこの手の他力本願を嫌いなのも、俺が引き受けない理由の一つではあるけれど、もう一方の事情ってやつはまさしく俺自身が彼女たちに関わり合いたくないっていうのが本音だったりするんだ。
だからどれだけ桂一郎の事を好きだと言われても、断ろうと思っていたのだけれど、彼女の態度は今までとは違っていたんだ。

「中西君に迷惑かけているのは分かってます。こういう事って、本人に言わなくちゃいけないことも。手紙だとか、メールだとか色々手段が有るってことも」
ここで彼女はいったん息をついて、再度話し出した。
「でも、私字はあんまり綺麗じゃないし…。何を書いたらいいか分からないし。文章なんて、全然思いつかないの。直接言いたくても、野間君の顔見たら、それだけで舞い上がっちゃって、いつも別の話しちゃったりして、全然上手くいかない。これじゃ駄目だって思っても、どうすればいいのか分からない。でも、このまま普通でいるのも息苦しいだけで。中西君にこんな事頼むの、ホントに迷惑かもしんない。今まであんまり話したことないのに、いきなりお願いしてるんだし。でも、野間君と一番親しい人って考えたら、中西君しか思いつかなかったの」
矢継ぎ早に言いつのり、彼女が訴えるように俺を見上げた。
「ちょっとでいいの。一言でも構わない。野間君に伝えて貰えれば…。それだけでも…駄目?」

熱い思い。
必死な眼差し。
固く握りしめた両手が、微かに震えているのが見て取れた。
どうしよう。どうすればいい?
「中西君?」
「う…」





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