好きまでの距離感〜第十六話〜



授業が終わって、さぁて帰るべーと昇降口に向かっていた俺に、一人の女子が声を掛けてきたのだった。

「あの…中西君。ちょっと…」
「うん?」
呼ばれて振り返ると、どこか見覚えのある女の子。
えっ…と、誰だっけ?
うちのクラスの女子じゃない。
でも見た顔なんだよね。
暫し考えて、「あっ」と小さく声を立てていた。
「君…桂と同じ剣道部の…」
確か、崎谷…ううん、下の名前は分からないや。
でも、同じ学年だったことは知ってるんだ。

俺が彼女の事を覚えていたのに、安堵したらしい。
彼女がはにかむような笑顔を見せて、俺に頷いたんだ。
「私、野間君と同じ部の崎谷かおりです。それで…あの…中西君にちょっと、お話が…あって…」
最後の方は、何だかとても言いにくそうで、声も小さかった。
剣道部でよく見かけていた彼女は、いつだって明るく笑っている印象があった。
はきはきとしていて、自分の意見はきっちり通すみたいな。
でも出しゃばりとかそーいうんじゃなくて、芯がしっかりしてるっていうか、そーいうの。

でも、今目の前にいる彼女は、何だか雰囲気が違っていた。
酷く緊張して、思い詰めているみたいな感じなんだ。
いったい何事?とか思ってしまう。
突然に呼び止められた俺が、答えずにいることを彼女が悪い方に解釈したのかな。
不安げな瞳を向けて、更に言いつのってきたんだ。

「ほんのちょっとでいいの。聞いて欲しいことがあって…。あの…駄目…?」
気弱そうに尋ねてくる彼女に、俺はつい何となく頷いてしまっていたんだ。
「うん…別にいいけど…」
俺がそう答えると、彼女があからさまにホッとした顔をする。
「あの…じゃあ、剣道部の部室裏に一緒に来て…くれる?」
それにも同意すると、じゃあこっちに…と彼女が俺を先導する。

いったい何なんだろう?
訳が分からないままに、彼女の後をついて行ったんだ。

目の前を歩く彼女の後ろ姿を見ながら、俺は妙な気分を味わっていた。
はっきり言って俺と彼女って、そんなに親しい間柄って訳じゃない。
確かに桂一郎と同じ剣道部に所属してるのは知ってるけど、ただそれだけだ。
会えば挨拶くらいはするけれど、正直言えば、名前だって名字くらいしか知らなかったんだから。
まともに話したことなんて無かったんだよね。

ただ、ちょっとね。
可愛い子だな〜とは、思っていたんだけどさ。
でも、その彼女が俺に何?
いったい何の用があるっていうんだろうと、その時の俺は思っていたんだ。





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