好きまでの距離感〜第十二話〜



剣道場で余計な時間を食ったせいか、いつもよりかなり遅くに教室へ着く羽目になってしまった。

自分の机を見付け、鞄をその上に置いて椅子に腰を掛ける。
なんだか…朝から気疲れしたような妙な感覚。
クラスメイトが「おはよう」と声を掛けてくるのにも、気分は上昇してこない。

桂一郎に昼間、会わなくちゃならない。
会って、伝えなくちゃいけない。
多分その事が俺の頭を占めていて、どうしようもなく重苦しいんだ。

おかしいよな。
昨日はこんなじゃなかった。
昨日…、彼女に話しを聞いたときはこんなにも深刻に受け止めていなかったような気がする。
もっと気楽に引き受けていたんだと思う。

ああ…いや、違う…な。
彼女の必死な思いに、俺は圧倒されていたんだ。
だから…かな。
いつもなら引き受けない頼み事だったのに、つい頷いてしまっていた。
彼女のすがるような眼差しに拒絶なんて出来なかったんだ。

あの時は熱意に引きずられるようにして、承諾してしまった。
伝えるだけなら…と思って。
もっと軽い気持ちだったんだ。

それなのに。
どうしてこんなにも重苦しい気分になってるんだろう。
自分で自分の気持ちが分からないままに、俺はぼんやりと午前の授業を受けていたんだ。

昼。
いつも一緒にメシを食っているクラスの友達が、弁当を片手に「メシ食おうぜ」と声を掛けてくる。
それに俺は「今日は別で」と答えると、友達の一人がどうした?と聞き返してくる。
「あ…今日はちょっと…3組の桂一郎と先約があるんだ」
俺がそう答えると、友達がなるほどと頷いてくる。
俺と桂一郎の腐れ縁は、もう既に友達の間では周知の事実だ。なんたってお隣さん同士のうえに、小学校のころからの幼なじみときたもんだ。
それだけで彼らには分かったんだろうな、じゃあなとあっさりと返してくる。

そう…なんだよな。
俺と桂一郎との間はこんなにも長い。
くどくど説明しなくても、長い付き合いだって事が周りの連中にも知れ渡っているくらいに。
それを今更ながらに感じながら、俺は弁当を抱えて教室を出て行ったんだ。

向かう先は屋上。
上へと続く階段を一歩一歩上りながら、俺はあいつに言うべき言葉をどうやって切り出そうかと悩みながら進んでいたんだ。





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