好きまでの距離感〜第十一話〜



彼女を見かけた途端、俺はどうしようもないプレッシャーを感じてしまった。
もしかして今朝、妙に昔のことを思いだしてしまったのも、彼女のことがあったせいなんだろうか?

桂一郎に弁当を届けに来て、俺がいつまでもぐずぐずと剣道場にいるのをあいつが不審に思ったのだろう。
「和?」と、俺の名前を呼ぶ。
耳に馴染んだ低めの声。
いつもの朝だったら、弁当を届けたらそのまま速攻自分の教室へ戻る俺だもんな。
どうしたのかと思うかもね。

うん。
どうしよう。今、言ってしまえばいいんだろうか。
でも………。
俺が言いよどんでいるその時、桂一郎と一緒に朝練をやっていた同じ部員の一人が道場から出て行くさい、入り口にいた俺達に向かって声を掛けてきたんだ。
「お前ら、こんなところで何やってんだ?野間もさ、早いとこ着替えてこないと授業に間に合わなくなっちまうぞ」
部の先輩らしき人がそう、言ってきたんだ。
それに桂一郎が「はい」と頷いている。

あ、そうか。こんなところでのんびりしている場合じゃないんだよね。
授業、始まってしまうよな。

でも、あいつは先輩にそう答えたものの、俺に視線を移したままで着替えに戻ろうとはしなかった。
俺が何か伝えたいのを察して、言い出すのを待ってくれているみたいなんだ。

えっと…。今ここで言うのはタイミング、悪い…よな。
もう時間も無いし。
それこそ授業も始まってしまうかも…だし。
「あ、あのさ桂」
「?」
「今日の昼…よかったら一緒にメシ、食わない?い、いつもの屋上でさ」
俺の突然の誘いに桂一郎が意外そうな表情を見せた。

…まぁ、そうかもね。
二年になってクラスが違ってからは、お互いに昼はそれぞれのクラスの相手と昼は一緒だったもんね。
一緒に何て、それこそ最近は無かったことだから。

でも、そんな俺の誘いに、桂一郎がどうして?とも問いかけることもなくに頷いてくれた。
ほんの少し…多分、俺にしか分からないくらいに目元を和らげて。
「ああ、いいよ」
そう、言ってくれた。
「じゃあ…昼にまたな」
今は時間が無いし、込み入った話題なんて出来そうにもない。
彼女のことは昼に話せばいいんだ。
俺はそう、自分に言い聞かせて今は諦める事にしたんだ。

言わなきゃ。
彼女の事、言ってやらなきゃ…と。

どうしてだろう。
自分でも分からない、この胸のもやもや。
それを胸に抱え込んだまま、俺は桂一郎が見送る視線を背中に受けて、自分の教室へと戻っていったんだ。    





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