好きまでの距離感〜第十話〜



桂一郎の親父さんていう人が、仕事でしょっちゅう家を空けるもんだから、どういう訳かお隣さんである家に、小さい頃から桂一郎が面倒見てもらっていたらしいんだ。

今は亡きじっちゃんとばっちゃんが桂一郎のことを、本当の孫みたいに可愛がっていたらしい。
まぁね。そーいう色んな事情があるわけなのよ。
この毎朝の弁当もお袋のお節介の一つでもあるわけだし。
もっともこれはこれで、お袋なりの哲学だったりするらしいんだ。

お袋曰く、
「成長期のこの伸び盛りの大事な時期に、ちゃんとしたものを食べなきゃ将来骨が弱くなったり、変な病気を呼び込むんだからね」
というものらしい。
家のお袋ってば、コンビニ弁当とかほか弁が大嫌いな人だからねぇ。
ろくな物を食べない人間は、ろくな大人にならない…っつーのが、お袋の持論だからさ。

おかげで俺も学食、滅多に使ったことないんだよね。
弁当もいいけどさ。たまには学食にも行きたいな〜とか思うんだけどな。
でもせっかく作ってくれた弁当はむげにも出来ないし。うちのお袋、あれで結構料理自慢の人だから。

桂一郎も、お袋の弁当はいつも残さずきっちり食い尽くすしね。

そんなこんなで、俺のこの毎日の弁当宅配は日課と化しているわけなのよ。
俺がこうして桂一郎に弁当を届けるのは既に剣道部の他の奴らにも知れ渡っていて、桂一郎と一緒に朝練をやっていた連中が俺を見て、笑いかけたり、声を掛けたりもしてくれる。

なんかもう、顔なじみ?

俺と桂一郎が弁当の受け渡しをしている後ろを、朝練を終わらせた剣道部の他の部員達が次々と後ろを通り過ぎていく。

その時、通り過ぎようとした一人の女子部員と俺の視線が一瞬絡み合った。
意味ありげな視線。
訴えかけるような、そのくせどこか不安定に揺れていた瞳。
彼女の姿を認め、俺は思わず声を出してしまっていた。
「あっ………」
無意識の内に漏れた声。
「和?」
そんな俺の微かな声を、桂一郎は聞き逃さなかった。
どうしたのかと、視線で問いかけてくる。
「う、ううん。別に…」
曖昧に言葉を濁してしまう。
慌てたように首を振る俺を、桂一郎が見詰めていた。

だって、今は言えない。
言えるわけが無い。

彼女。
崎谷かおり。
昨日、俺は彼女に頼まれごとをされたのだった。




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