好きまでの距離感〜第四話〜


「僕はずっと和君の側にいるから。嫌いになんかならないよ。僕は和君のこと、大好きだもの」
真剣な顔をして、俺に向かって言ったあいつ。

びっくりした。

桂一郎にそんなことを言われたこと事態が訳分からなかった。
「な…なんで?どうして桂君が僕のこと、好きなんて…言うの?」
もう、びっくりしてあいつの顔を凝視だよ、凝視。
驚いている俺を見ながらあいつってば、更にこう言ってきたんだ。
「好きだから好きって言ったの。和君は…僕のこと嫌い?」
「あ…う…ううん。別に嫌いじゃない…と…。多分」

なんかもうしどろもどろって感じだったんだと思うんだ。あの時の俺ってば。
でも俺のことを好きだと言ってくれた桂一郎の言葉は、素直に嬉しかったんだ。
俺に向かって手をさしのべたあいつ。

触れた手は…とっても暖かかった。
その時に思ったんだ。
この手を離されたくないなって。
こんな優しい、暖かい手を離されたら、きっと俺は足を踏み出せなくなってしまうんじゃないかって。
真っ直ぐに俺を見る桂一郎の目。
あんまり表情が変わらない奴なんだけどさ、俺を思ってくれている事だけはしっかり伝わってきたことは分かったから。

だからかな。
思わず、あいつに甘えてしまったんだ。
「桂君は俺の側からいなくなっちゃわない?僕ん家のお父さんみたいに、他にいっちゃわない?」って。
俺のこと一人にしない?と尋ねた。

あんなに優しかったお父さん。
俺のこと、大好きだって言ってくれたのに、他に好きな人が出来て家から出て行ってしまった父親。
人に置いて行かれる辛さは、子供心にも深い傷痕を残していたんだ。

だから確かめずにはいられなかった。
気持ちなんて移ろいやすいものだとは今の俺には分かっている。それでも言葉で、耳で確かめたかったんだ。
気持ちと言う、不確かな形を。

俺の手を引き、桂一郎が振り返る。
「僕は和君の側にいるよ。どこにもいかない。ずっと側にいるから」…と。






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