好きまでの距離感〜第一話〜


何か、すっげー懐かしい事を思いだしちまった。

「ずっと側にいるよ」
「和の事、大好きだよ」

朝、起き抜けのぼんやりとした頭のままで、鏡を見ながら俺は昔のことを思いだしていた。
あれはいくつくらいだったっけ?
七歳か…。八歳くらいだったかな。
両親が離婚して、母さんの実家のここに引っ越して来て、いなくなっちゃった父さんの事とか、色々あってガキんちょなりに落ち込んでいたんだっけ。

前に住んでいた所からそれなりに離れていたここに移り住んで、もちろん友達なんかもいなくって、毎日毎日ただ寂しかった。
自分の事を引っ込み思案だとは思わないけども、やっぱガキだし…。
全然違う場所に来て、そうそう遊び相手も見つかる訳なんかなかったんだ。

でも…あいつに出会った。
野間桂一郎に。
出会いはすっごく単純だよね。
単に俺ん家のお隣さんってだけの関係だったから。
母さんと姉ちゃんと一緒に引っ越しの挨拶だって、お隣の野間さん家に連れられた先に桂一郎がいたんだ。
玄関先で、あいつの父さんと桂一郎が俺達を出迎えてくれてた。
何で、お母さんがいないのかな〜とか、思ったけど。…後で聞いたら、桂一郎のお母さんって、桂一郎がまだ赤ちゃんの時に死んじゃったみたいなんだよね。

もちろんその時の俺はそんなことは知らなくて、うちの父さんよりも大きいお父さんと、むすっとした顔の桂一郎をビクついた気分で相対していたことだけは覚えていたんだ。

ただ…これも後から分かった事なんだけどね。
桂一郎のあのむっつりした顔ってばさ、あいつの地顔なんだって事をね。
ガキの頃から、あんまり顔の表情が変わらない。人によっては落ち着いてる。女達に言わせれば大人びている。俺にとっては、ただのぶきっちょ。時々は冗談で顔面の筋肉が死んでるんじゃねぇのか?とかね。

でも仲良くなってみれば違う。
例え無表情に見えてもあいつの中身はちゃんと感情があって、もしろ誰よりも優しくて情が深い奴なんだって事。

そのあいつに言われたんだよね。
さっきの言葉をさ。
「和の事、大好きだよ」って台詞。
今思えば、なんかすっげー恥ずかしいかも…って。
でもあいつは真っ直ぐに俺を見詰めて言ってくれたんだよね。
慣れない土地。場所。
祖父ちゃんも祖母ちゃんも大好きだったけど、でも父さんはいない。
友達とも遠く離れてしまった。
いきなり変わってしまった環境に馴染めなくて、寂しかった俺にあいつが手をさしのべてくれたんだ。

あいつだってまだガキんちょのくせしてさ、いっちょまえに俺を慰めてくれた。

戸惑い、脅えていた俺の手を引いてくれた彼。
暖かい手の記憶。
今、思いだしても胸の中を甘酸っぱい気分にさせてくれる思い出だったんだ。

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