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小さくされた人たちに守られ、導かれて                      岩本直美
          はじめに
 今夏のキ医連総会でラルシュがテーマとして取り上げられることを伺いました時、本当に有難いなという思いと同時に、それはきっと私たちにとり大変貴重な機会になるだろうなと感じました。さらに、今回の総会ではテゼの祈りの時間もプログラムに含まれると伺い、大変嬉しく思いました。ラルシュとテゼは、共に小さくされた人たちを迎え入れ、和解と一致を生きようとするコミュニティーであり、私たちがそこに学ぶことは多くあると思ったからです。
 しかし、そこで私自身が分かち合いの機会を頂けるとは夢にも思いませんでした。信州・名古屋部会の皆さんそして太田会長がリスクをとってくださったことに感謝申し上げます。バングラデシュに生きる知的ハンディを持つ人たちからそしてその家族を通して頂く恵みを分かち合いさせて頂けたらと思います。またその機会に、コミュニティーで一緒に暮らしているスイティの手術を昨年末にして下さった伊藤道雄先生と宮崎雅さんに、その時のお礼とご報告が出来ればと思います。

          ラルシュについて
 ジャン・バニエがフランスのトローリーという村で小さな家を借り、大きな施設にいた二人の知的ハンディを持つ青年を迎え共に生活を始めたことからラルシュコミュニティーが始まりました。ジャン・バニエは、カナダ総督の息子であり海軍で有能な指揮官として働いていましたが、求めるところがあり海軍を辞しその後哲学・神学を修め大学で教えていました。彼の中には「自分は平和のために何ができるだろうか。」という疑問が常にありました。ジャン・バニエの生涯の霊的指導者であるトマ神父との出会いと導きにより、知的ハンディを持つ青年たちとの暮らしが始まりました。それは後にラルシュコミュニティーとして根をおろし、現在35カ国に136のコミュニティーがあります。

          マイメンシンのコミュニティーについて
 テゼ共同体(コミュニティ)のブラザーフランクにより、ラルシュマイメンシンコミュニティーは始まりました。20年以上前よりカルカッタのラルシュと親交のあったブラザーは、バングラデシュにもラルシュの存在が必要であることを感じておられました。97年に障がい者コミュニティーセンターがテゼのブラザーたちにより始められその後「信仰と光」(地域で暮らす知的ハンディを持つ人たち・家族そして友人たちから成り、定期的に集いながら共に祝祭するコミュニティー。これもジャンバニエが始められた。)にインスピレーションを受けたグループの集まりや地域での訪問活動がり、2002年に最初の家に二人の知的ハンディを持つ男児を迎えました。2008年10月に暫定的メンバーとして国際ラルシュから承認を受け、ラルシュバングラデシュ・マイメンシンコミュニティーとして歩みを始めました。現在は二つの男児の家、一つの女児の家に21名の知的ハンディを持つ男女・男児女児がアシスタントたちと共に暮らし、ラルシュワークショップとデイケアには地域からそれぞれ15名を超える青年たち・子どもたちが通ってきています。私自身は女児の家で暮らしています。たちのコミュニティーはイスラム教徒・ヒンドゥ教徒そしてキリスト者から成るコミュニティーで、違いを尊重しながらそれぞれが自分の信仰に沿ってその霊性を深め、成長していくよう求められています。生活の中で、またワークショップやデイケアの中で、知的ハンディを持つメンバーが個々の能力や賜物を豊かに拡げられる様にという願いはありますが、何より大切なのは共に在ること、あるがままで受け容れ合い認め合うことだと思っています。知的ハンディを持つメンバーの殆どが家族から捨てられ路上生活を経て私たちのところに来ましたので、深く傷つき怒りと恐れに捕らわれていました。誰も脅かさない安心出来る場所で、信頼の感覚を取り戻していくことが何より大切なことでした。
           「貧しい人は幸いである。」
 主題聖句にそって、その御言葉を日々生きている知的ハンディを持つ子どもたちや女性たちから学んだことを、一人一人を紹介させていただきながら、総会で分かち合いをさせていただきます。
           マイメンシンコミュニティーの生活から学んだこと
 コミュニティーで共に暮らす知的ハンディを持つ人たちは、私にそれまで自分が気づいていなかったバングラデシュを見せてくれました。ラッセルとよく散歩をしていた頃、行き交う人たちがよく声をかけてくれました。リキシャのおじさん、近所のおばさん、子どもたち等。常に二人で歩く風景が日常となり、時に一人だと「今日は一人かい?」と尋ねられました。私にとりそれはイエス様と歩く「同行二人」でした。更には母親たちと話す時、「あなたたち」ではなく「私たちの課題」として、忌憚なく分かち合えることを嬉しく思います。ほんの少しではありますが、以前より母親たちや家族の苦労や大変さがより理解できるようになり、自分がそれまでいかに高みに立って家族の様子を眺めていたかについて気づかせてくれました。 
 コミュニティーの生活の中で知的ハンディを持つ子どもたちや共に暮らすアシスタントたちを通して学ぶことはたくさんあります。一つはコミュニティー生活の豊かさです。自分一人では一人の女児のいのちを守ることも出来ないのですが、「私が」ではなく「私たちが」という言葉でコミュニティーとして生きる時、これほど多くの壊れやすいいのちを守り共に暮らすことが可能となります。知的ハンディを持つ子どもたちからは、主に信頼し、主に日々自分を明け渡すことを学んでいます。深いところから湧いてくる喜びと平安がどういうものであるかもこのコミュニティーの生活を通して知りました。同時にコミュニティーは、自分の闇の部分が明るみに出され、私という人間が鏡に映し出される恐ろしい場所でもあります。そして時には「砂漠の中を真夜中にたった一人で泣きながら歩かなければならない」そのような場所でもあります。しかしそこでこそイエス様に出会え、人間としてキリスト者としての成長が助けられるのだと思います。コミュニティーでは赦すこと、そして赦されることを受け容れることなくしては生活していけません。そして感謝することを選び取ることを学ぶ場所だとも思います。
          バングラデシュにおけるマイメンシンコミュニティーの役割
 私たちのコミュニティーは生まれたばかりの大変不安定な壊れやすさの中にありますが、それでも私たちは正義のための開発に参与していると思っています。それは、どのいのちもその国籍・宗教・言語・文化・経済的社会的立場・障がいの有無等に関わらず等しく大切で尊く、あるがままで受け入れられるべきだということを、その生活を通して静かに叫び続ける生活です。そして、小さくされた人たちに導かれていけば、イスラム教徒・ヒンドゥ教徒・キリスト者が共に祈り暮らしていくことは可能であり、平和を創りだすことができることを、小さなしるしとしてこの社会の中で示し続けていきたいと願っています。それは、すべての宗教を超えて普遍的である神様の愛をこの世に受肉させていく業だと思います。易しいことではありませんが小さくされた人たちの傍に常に留まり続ければ、その人たちが私たちを導いてくれると思っています。ジャン・バニエは、「小さくされた人たちの傍に留まろうとする者は今後ますます少数派になるでしょう。だからこそあなたたちは預言的であるように、そして智恵のある男女の群れでありなさい。」とおっしゃいます。私たちはいつも目を覚ましていなければと思います。
 更に具体的な役割があります。マイメンシンにおいて知的ハンディに関する情報提供や教育・職業訓練また権利についての啓蒙等は不十分で、私たちはそれらについてコミュニティーの生活を通して、そして家庭訪問・地域訪問を通じて伝えていきたいと思います。知的ハンディまた精神的な病気に関する正しい知識を持つ人は大変少なく、将来的にはラルシュにおいて正しい知識と望ましい態度を備えた働き人を養成するコースを開くことも夢です。そのための教師がキ医連から興されれば大変嬉しいです。
 7 おわりに
 「貧しい人々は幸いである。神の国はあなたがたのものである。」この主題聖句を「小さくされた人々のための福音」として私訳された本田哲郎神父さんはこのように訳しておられます。「貧しい人たちは、神からの力がある。神の国はあなたたちのものである。」神からの力とは、現状を乗り越え将来を切り開くための感性と力を保証する神からの励ましの言葉と本田神父さんはおっしゃっています。さて、神からの力はどこからくるのでしょうか。私はそこに私たち人間に深い信頼を寄せられる神様のいつくしみを思います。神からの力は、私たちが小さくされた人たちに寄り添って初めてその人の内奥で呼び覚まされるものだと思います。そして心底貧しく小さくされた人たちを通して私たちが自分自身の内面にある深い貧しさに気づくとき、全ての違いや隔てが取り払われ一致できる「神の国」をそこに見ることができるのだと思います。
 ラルシュの南アジア地区担当の霊的指導者であるイエズス会のヤコブ神父さんは霊性とは生き方であり、生活の仕方であり、人生の見方であって、単に祈ることや黙想することではないのだよと教えてくださいます。「貧しい人がどれだけ自分の関心事の中心であるか、具体的にどのように貧しい人を自分の関心事の中心に持ってくることができるか、それが霊性なのだよ。そして霊性は自分の生活に根をおろしたものであるべきだよ。」と教えてくださいます。私たちは更に小さくされた人たちに耳を傾け傍に寄り添い、彼女たち彼等たちに導いてもらう必要を思います。
 キ医連の皆さん、そしてJOCSの皆さんにはこれからも大変お世話になることと思います。更なるお祈りとお支えとご指導を頂けますよう、どうぞ宜しくお願い申し上げます。夏に名古屋でお会いできますことを楽しみにしております。


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