プログラムに戻る

歌と祈りと沈黙---黙想と祈りの時間への招き---      
                            植松功

 今年の総会のプログラムには、「黙想と祈りの時間」が何回か設けられています。短い聖書のことばを繰り返し歌う聖歌、みことばの朗読、沈黙、とりなしの祈りなどから成る単純素朴な礼拝の時間です。
 今年の総会で、このようなスタイルの礼拝の時間が取り入れることになったのは、それが今回のテーマである「ラルシュ」をより深く理解し、その息吹を知るために大切だと準備に関わる名古屋部会の方々が考えられたからでしょう。黙想や単純素朴な祈りのとき、それはラルシュの心を知る上で確かに不可欠な要素かもしれません。なぜなら、ラルシュを始められたジャン・ヴァニエ、そして世界各地のラルシュ・コミュニティーにとって、その生活の基盤は、共同体の静かな祈りや黙想の時間だからです。
 今回の黙想と祈りのスタイル、そしてそこで歌われる歌の多くは、フランスに本部のあるテゼという男子修道会で作られたものです。テゼは、プロテスタントの牧師の息子であったブラザー・ロジェによってフランスのテゼ村で始められた共同体。プロテスタント諸派・カトリックなどの教会を出身とする修道士から成る超教派の(エキュメニカルな)修道会で、そのシンプルな生活、世界の苦悩する人々との連帯、単純素朴な礼拝・聖歌や沈黙の時間などに魅せられて、年間を通じて何十万もの青年たちが世界各地から訪れる共同体として知られています。その歌は、日本でも讃美歌21や聖公会の新しい聖歌集などにも収められるようになりました。
 ヨーロッパ各地のラルシュで暮らすアシスタントの多くは、フランスのテゼでリトリート(日常から離れてもつ黙想と祈り)のときをもち、また今回発題してくださるJOCSワーカーの岩本直美さんが属するバングラデシュのラルシュは、テゼのブラザーたちの働きが基盤となって始められました。ブラザー・ロジェは数年前に亡くなりましたが、彼とジャン・ヴァニエは深い友情で結ばれていました。
 マザーテレサはこう記しています。「祈りの第一は沈黙。本当に祈ることを望むならば、まず、聴くことを学ばねばなりません。神は、沈黙のうちにある心に語られるからです。そして、沈黙は、すべてのものに対して新しい視点を与えてくれます。人々の魂に触れるためには、沈黙が必要なのです。沈黙の中で、わたしたちは新しい力と真の一致を発見します。本当に愛したいのですか?もしそうならば、何よりも沈黙を大切にしてください。」
 キャサリン・スピンクというジャーナリストは、現代のキリスト教の霊性のあるべき方向を指し示す人物について伝記を著し続けていますが、今まで彼女は4人の人物を取り上げその伝記を出版しました。この4人とは、マザー・テレサ、ジャン・ヴァニエ、ブラザー・ロジェ、そしてシスター・マドレーヌ(イエスの小さい姉妹会創立者)でした。この4人に共通しているのは、貧しく小さくされている人たちとの連帯、沈黙(黙想)を大切にするコミュニティー、シンプルな生活、それからエキュメニズムかもしれません。
 今回の総会での「黙想と祈りの時間」が、忙しさの中でほっと静まるときとなりますように。それが、小さくされている人々との連帯への道を照らすものとなりますように。
 「沈黙の祈りのうちに受け取れば受け取るほど、わたしたちは日常の行動の中でより多くを与えることができるのです。」(マザーテレサ)
 (うえまつ・いさお JOCS理事・黙想と祈りの集い世話人)

プログラムに戻る
元に戻る