Maggie's J‐POP論

その5 “子どもたち”のレベルの高さ
@FLYING KIDS
FLYING KIDSのベストアルバムを週末に聴いた。残念ながらすでに解散しているようだが,ヴォーカルの浜崎貴司がソロで活躍していて,この1月にリリースされた『ダンス☆ナンバー』は,一昔前にディスコでかかっていたかもしれないような(行ったことないので……)ノリのいいタイトルナンバーと,しっとりしたバラード『シャボン』『ヒカリの春〜アコースティック・バージョン』との構成で,久しぶりにお得な買い物をしたと思う。3曲ともオリジナルMDに入れさせていただいた。
で,FLYING KIDS。印象に残る曲は,マルイのCMソングになった『風の吹き抜ける場所へ〜Growin' up,Blowin' in the wind』,三菱自動車のCMソングとなった『セクシーフレンド・シックスティーナイン』,ともに大学生のころリリースされたナンバーだ。前者はタイトル通り,窓をすべて開け放ったような,肩の力が抜けていて,どっかマッタリはしているけどポップな曲。後者はメッセージ性のある典型的ラウドなロックナンバー。そして,両曲とも浜崎のクセのあるヴォーカルによって,いい意味で猥雑でマニアっぽい印象を受ける。逆に言えば,浜崎に何を歌わせても独自色が出るということだろうし,他のアーティストがFLYING KIDSの曲を歌っても,なかなかしっくり来ないのだろうと思う。
浜崎といえば,個人的には10年前に放映されたTBSドラマ『もしも願いが叶うなら』での,自閉症気味で動物大好きなキャラクターが印象深い。このドラマは,ダウンタウンの浜ちゃんが長男役,次男がバンド「To be continued」のヴォーカルだった岡田浩暉,三男が浜崎,そして一番下の妹役が中山美穂で,男3人と女性では父親が違うとかいう設定。最終的には,浜ちゃんと中山美穂が結ばれるというものだ。
で,このドラマの浜崎はというと,つぶらな瞳なのにミョーに眼光が鋭い。何を考えているかよく分からないが,結構感覚はマトモ…というかオーソドックスである。でも,万人受けはどう考えてもしない――いいんだか悪いんだか分からないが,このビミョーな感じ,「あさっての方向に突然弾けるんじゃないか」と不安を抱かせてしまう雰囲気が,逆に浜崎の最大の武器なのだと思う。彼のヴォーカルやバンド・ソロの曲にもそのあたりがよく現れている。ただ,何分好き嫌いは分かれてしまうかもしれない。
ベストアルバムには有名人数人がコメントを寄せているが,その中でも忌野清志郎氏のコメントが面白い。いわく「浜崎の“ソロアルバム”はこのベスト版よりもずっと素晴らしい。みんな,ソロアルバムを買おうぜ。だいたい,この業界は新作を出すときに限って,前のレコード会社がベスト版をぶつけてくるんだ」――その通りなんですが,ごめんなさい。借りてしまったのが逆に惜しいくらいで,いっそ買ってしまおうかとすら思ってしまいました。懐かしむよりも先を見据えよってことなんでしょうけど,今回は……うーん,レンタルで出ていたらソロアルバムも借りさせていただきます(笑)。

AMOON CHILD
もう一つ,“子どもつながり”で取り上げたい素晴らしいバンドがMOON CHILDだ。いまはヴォーカルが別ユニットで活動していると思うが,このバンドも5年ほど前に解散(活動停止?)してしまった。ただし,こちらは1997年春に『ESCAPE』という曲がドラマのテーマソングとなり,オリコン1位にもなっている。その年の秋に出た『アネモネ』はCDTVのオープニングナンバー,冬近くに出た『ハレルヤ・イン・ザ・スノー』もサッポロビールのCMソングとなっていて,この年の彼らは実に輝いていた。ま,個人的にはこれらにプラスして,実家にいた埼玉時代に地元のケーブルテレビでどういうわけかこの“ムンチャイ”がよく流れていたのを聴いていて,耳に残っていたというのも大きいだろう。
この“ムンチャイ”のヴォーカル・佐々木収の声もどことなく猥雑だ。ただし,こちらはプレイボーイ風の猥雑さ(≒セクシーさ)であり,何を歌っても実にクールに聞こえてくる。高音を裏声で出すときも,変に気張ってかすれたりズレたりしない。シンプルに純粋に「カッコイイ!」のである。だからこそ,こっちはオリコン1位にもなったのかなと思うのだ。
でも,真骨頂は翌98年5月に出た『requiem for the man of nomad』だろう。この曲を「HEY! HEY! HEY! MUSIC CHAMP」のエンディングテーマで初めて聴いたときは,鳥肌が立った。早くリリースされないかと思ったものだ。何とも言えない軽やかなファンクナンバーで,ホーン,パーカッション,ギター,ピアノといった楽器がどれも遠慮せず,かといってでしゃばりもしない。実にまとまりがあるし,でもってヴォーカルも,べたつかずドライにならず,流れるように軽やかだ。この曲は多分,大して売れなかったと思うが(その代わりアルバムが売れたかもしれない),逆に「日本の音楽市場ってそんなものなんだな」と冷静に受け止めすらしてしまった。やっぱりこの曲も,他人には簡単にマネできないだろう。
でも,『ESCAPE』の前にシングルで出た曲は,どちらかと言えばフツーのバンドサウンドによるポップスで,これと言って特徴のない曲だったと思う。解散間際の曲も似たような感じだった。いや,上述のピーク時に出た『アネモネ』も,軽やかさはあったがベースは同じだろう。ということは『requiem〜』は単なる偶然だったのだろうか。いずれにせよ,彼らのリリース曲にもオリジナルカセット・MDにて“かなりお世話になっていた”だけに,解散(活動停止?)が惜しまれてならない。(おわり)

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