Maggie's J‐POP論

その20 私をコンサートに連れてってF
     ―BUCK‐TICK「THE DAY IN QUESTION@日本武道館」2006.12.29―


ボウイ時代の氷室京介氏が「ライブハウス武道館にようこそ」というフレーズを残し,爆風スランプにはその建物のてっぺんに乗った擬宝珠のような物体を「玉ねぎ」に喩えられたり,いろんなとこでその名前をかねてから聞いていた日本武道館に初めて行ってきました。改めて中を観ると,形は十何角形をしていて,テレビで観たことのある日本国旗が天井から吊るされていました。今回座ったシートは腰あたりまでの高さで,2階席の西側の位置で前から3列目。外観は暗かったのであまりよく分からなかったですが,中を見渡した限りでは「結構使われている設備だな」と思った次第。ステージは左下に見下ろす感じになっていました。

さて,今回のBUCK‐TICKというバンド。メジャーデビューしたのが今から20年近く前で,サードアルバム『TABOO』から『悪の華』『狂った太陽』と3年連続でアルバムを買っていて,その後はたまにシングルやアルバムを借りる程度だったのが,昨年たまたまベスト版を買ったもので,「曲はある程度分かった」と思ってチケットを取った次第。デビュー時はいわゆる“ビジュアル系”として髪を逆立ててみたり,はたまたダーク系のスーツ着て退廃的なムードを醸し出していて,でもって歌うのはそれなりにポップだったりと,ギャップが結構激しい印象を持ったりしたものですけど,最近はドラムスの人以外は髪は下ろしているし,ビジュアル系のイメージもさほどなくなって,「独自の世界で,マニアックなものも含めていろんな音楽にトライしているトップアーティスト」のイメージを確固たるものにしています。
ちょうど同じ群馬県出身のボウイの解散と入れ替わるようにメジャーシーンに出てきたこともあり,「ボウイ二世」みたいなことを言われ,ヴォーカルの櫻井敦司氏なんかはその美貌で,いまや懐かし「ねるとん紅鯨団」の女性の好みのタイプで割と挙げる人が多かったりと,とかくアイドル的な扱いだったりした彼らも,気づけば40代に突入しました。「アルバムごとに進化してきた」とも言える彼らが,はてステージをどんな形にするのかなと興味を持ちながら,コンサートに臨みました。

18時45分,開演。アリーナ席の2箇所や場内の壁などから天井にいくつも照明を当たると,あたかも会場全体が万華鏡のような感じになり,早くもBUCK‐TICKらしさが垣間見られます。オープニングは何の曲か分からず,2曲目も聴いたことあるけど,タイトルが思い出せず,「あー,こりゃメジャーな曲とかやらないで,彼ららしくマニアックな“知る人ぞ知る曲”ばっかやるのかな?」と思っていたところで,3曲目にメジャーデビューシングル『JUST ONE MORE KISS』を披露し,ちとホッとした次第。
曲が終わると櫻井氏が簡単に「今日は忙しい中ありがとうございます。最後まで楽しんでいってください」と独特の低い声であいさつ。この簡単さが櫻井氏らしいといえばらしかった。彼らって寡黙でどっちかといえば硬派なイメージが強かったんですよね。あまりベラベラしゃべらないで,むしろ「何を考えているのか分からない不気味さ」みたいなのもまた彼ららしさって勝手に思っていたもので,これでライブでは急に群馬弁か何かでベラベラ話されたら,それはそれでショックだったりしたのですが,その点ではイメージ通りの硬派な感じだったですね。
あいさつの後からは『SEX FOR YOU』『J』『M・A・D』など,上記のアルバムの曲などを披露。いずれも初期の退廃的なイメージのころの世界観があふれています。いろんな色の照明が次から次へと変わって効果的に使われていましたが,『SEX FOR YOU』なんてダークにモノトーンな感じにしても面白かったような。ステージのベースになっているのはモノトーンなので,それだけでいってもよかったかも。
中盤からはそれまでと違ったこれまた独自の世界観を披露。テクノやノイズを使ったりしたスローな曲も入っていました。ノイズは,レフトハンドのギタリスト・今井寿氏の十八番とも言うべきか。クレジットに「Guitar,Noise」とわざわざ入れているくらいですしね。曲の〆方も,よくあるドラムでの「ドドド…ドドン」というのではなくって,ギターをノイズにしてそれを場内に高らかに轟かせるものが多かった……と言えば何となくカッコがつくけども,ホンネは何の曲をやっているのか分からなかっただけだったりして(笑)。シングル曲では『唄』『残骸』をやっていました。『唄』は「ミュージックステーション」で観たときと同じで,サビの終わりは観客が合唱していました。『残骸』はイントロのドラムのリズムに乗って白の照明がキョーレツに光っていたのが,とてもまぶしかったです。
そして『極東より愛を込めて』などをはさみ,『鼓動』で第一部終了。上記のあいさつ以降も「言葉は余計だ」とばかりにMCをやらなかった櫻井氏。ここで二言目。「それでは最後。『鼓動』聴いてください」――いいね,あまり言葉を発しない櫻井氏。アウトロに入ると櫻井氏は一足早く袖に消えて,あとは楽器陣4人による演奏。それが終わると楽器陣も袖に消え緞帳が降ります。ドラムスのヤガミトール氏はドラムスティックを観客席に投げ入れていました。

アンコールはこれまた照明を使って場内に時計らしきものを映し出す演出でスタート。シングル曲では『蜉蝣』『ROMANCE』を披露。『蜉蝣』では,歌の前に櫻井氏の三言目「外は寒いですが,真夏の曲をやらなくてはなりません」に場内から軽い笑い。ややビミョーになった(?)空気をヘビーでメロウなサウンドが見事に(?)かき消してくれました。袖に消えていくとき,さっきはドラムスティックを投げ入れたヤガミトール氏は,今度は何やら円盤らしきものを投げ入れていました。その大きさと,思いのほかそれが遠く飛んでいった様に場内からどよめき。おそらくはドラムの膜みたいなものでしょうか。シンバルだと結構重そうだしね。
そして,アンコールAでもこれまた照明で天使と羽を映し出す演出。ここからは知っている曲ばかりでよかったです。『Jupiter』『ANGELIC CONVERSATION』『さくら』をやって〆には『COSMOS』。『さくら』と『COSMOS』ではベタですが,それぞれの花が天井に映し出されていました。そして,櫻井氏の四言目は「どうもありがとう。よいお年を」というシンプルな〆のあいさつ。そしてヤガミトール氏の投げ入れ第3弾はドラムセットそのもの…なわけはなく(笑),ドラムスティックでした。21時10分終演。
うーん,櫻井氏はあいかわらず余計なことをしゃべらない。硬派に大人の色香が加わった四十路の櫻井氏に対する女性ファンの「あっくーん!」「あつしー!」という声援が,どことなくマッチしないというのか,昔のアイドルのころのままのイメージが強いのかなというのか,失笑してしまうというのか……とにかくギャップがあって何とも興味深かった。「櫻井さーん!」ならまだしっくり来るんだけどね…って,まあこのあたりは個人差かな。(おわり)

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