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幼稚園、そして入学
 てっちゃんが4歳になって来年は幼稚園の入園という事を考えて少し私から離れる練習をする為に週に一回2時間、知り合いの保母さんに預けることにしまた。保母さんのWさんは私と同じ年ですが経験豊かな保母さんで4人のお子さんを育てながらパートに出て働いたり、ご自宅でスポットの保育をしたりしています 。Wさんの保育はとにかく子供を楽しく遊ばせることが中心です。ですから子供がのびのびとするようでした。Wさんは、てっちゃの言葉を引き出すのがとても上手で様子を聞くと、どうも私といる時より言葉が多いように思いました。これは最近お話した言語療法のT先生も、おっしゃていたことなのですが母親は「しゃべってほしい、聞いてほしい」という気持ちが強過ぎるからダメなのだそうです。その点、父親の方がおおらかなので良いのだそうです。確かに、この時期パパと御風呂に入っている時のてっちゃの方が言葉が多かったと思います。
 入園にあたっての心配はもう一つありました。おしっこは大丈夫だったのですが、うんちがトイレで出来なくてオムツが完全に取れていなかったのです。内心かなり焦っていましたが相手がてっちゃんなだけに、いくら焦ったところでどうにもならないと、腹をくくった私はじっと、その時を待ちました。 そして入園間近い2月、下痢気味だったてっちゃんは思いがけずにトイレでうんちができました。私は、うんと誉めてあげました。それからが勝負です。様子を見てはうんちがでそうなときに慌ててトイレに行かせました。この時は失敗したときは怒るようにしたした。暫くして教えるようになったときには涙を流して喜んだものでした。
 そんなこんなで入園を迎えました。入学式では、やはり並ぶことが出来ず私から離れませんでした。式の後、子供だけ教室に行かせて保護者だけになる時間になると、てっちゃんはみんなの流れのままつい教室まで行ってしまって、ふとママが来ていないことに気が付いたのでしょう、間もなくてっちゃんの泣き叫ぶ声がホールの方まで聞こえてきました。先生方が「大丈夫ですから」とおっしゃるので、暫く様子を見ていたのですが、あまりにひどいパニックなので私が我慢しきれずに教室まで行ってしまいました。先生と「明日(バスに乗せる時)は覚悟してかかるようですね」と話して、その日は帰りました。
 そして翌日の朝・・・ お兄ちゃんと一緒におとなしくバスを待っていたと思ったらバスが来ると自分からさっさと乗って行ってしまいました。 嬉しい誤算です。その次の日も、その次の日も・・・てっちゃんがバスに乗らないとグズる事は一度もなかったのです。お兄ちゃんがいつもバスに乗る様子を見ていたので、ごく普通に受け入れたのかもしれません。
 園での様子は始め、先生は詳しいことをおっしゃってくれなくて「大丈夫ですよ」の一点張りでした。実は1ヶ月位、お教室には入らなかったそうです。ずっと園庭で一人で遊んでいたらしいのです。しかし先生方は彼を信じて、ずっと待ってくれたのです。やがて、てっちゃんが自分からお部屋に入ることを・・・・そして、5月の末に行われた小運動会で、てっちゃんがみんなと同じようにお遊戯や、かけっこをするのを見て感動していた私にその事実は初めて明かされたのでした。 
 実は、入園前にパパは「手におえません」と言われて追い出されるんじゃないかと、かなり心配していました。 それは私も同じ事でしたが入園を決めた以上、悪いことばかり考えてもしょうがないので、てっちゃんを信じて明るい気持ちで入園させようと思っていました。ところが、人の気持ちも知らないでパパが繰り返し同じ事を言うので、とうとう切れて大喧嘩をしたこともあったのです。笑い話になってしまいました。
 とても理解ある幼稚園で、てっちゃんはいろいろな事を身につけました。そして卒園式には、多少落ち着きがなかったものの、ちゃんと着席し、声をあげることもなく、卒園証書もちゃんと受け取れて立派に卒園できたのでした。
 そして、もう一つの難関、入学式・・・・・卒園式では馴れた場所、慣れ親しんだ人達ばかりの中でしたが入学式はそうは行きません。広い体育館、知らない顔ばかり・・・私は、それこそ覚悟して入学式に望みました。 私は着席せず、もしてっちゃんが騒いだら、すぐに連れ出そうと思っていました。 
 ところが、ここでも嬉しい誤算でした。 てっちゃは、立派に入学式を乗り越えたのです。式の間、涙をこらえるのが大変でしたが、教頭先生から「立派なもんだ!彼より落ち着きない子がいっぱいいましたよ。これなら大丈夫」とおっしゃってもらったときにはとうとう涙が溢れてしまいました。 担任の先生の顔にも安堵の顔が見られました。 
 本当の問題はこれからの授業・・・・そう思いながらも、この日は素直に喜ぼうと思ったのでした。   (Aug.2000)