4
リタリンの事・パニックの原因
 リタリンというのは多動を抑える薬です。薬で子供の元気を抑制するというと、とっても辛く感じますが、てっちゃんの場合、このお薬のおかげで普通学級にいられるといっても過言ではありません。入学前より本によって、その存在は知っていましたが、大学病院のK先生とのお話しで入学して様子を見てから使いましょうといことで同意していました。
 入学式から何日かして、いよいよ授業らしい事が始まったころから、自分の世界に入ってビデオのドラえもんのセリフを大きな声でひたすらしゃべりつづける、席から離れるなどの報告が始まりました。ちょっと辛い時期でしたが、リタリンという希望がありました。まもなくリタリンを処方して頂き飲み始めました。
 第一日目、その日の報告を楽しみに迎えに行った私は担任の先生から信じられない報告を受けました。多動がひどくなったというのです。しかも、お友達に攻撃的になって、あちこちでトラブルを起こしたらしいのです。期待していただけに打ちのめされる思いでした。確かに、そこにいるてっちゃんは、お薬がまだ残っているらしく目つきがギラギラとしていて、まるで覚せい剤でも飲んだ人のようでした。いつもの、みんなに愛されるてっちゃんとは別人でした。
 帰ってきてから、すぐに大学病院に問い合わせました。すると、「次の日には収まる事があるので、明日も続けて飲ませて様子を見てください」という事でした。にわかには納得いきませんでしたが恐る恐る指示に従いました。結果は先生のおっしゃた通りでした。最初の日のような事は、もう起こらなくなり、てっちゃんの多動はかなりの部分で抑えられました。先生の報告も、「しゃべりつづける事が、かなり少なくなりました」「一斉指導で、みんなと同じ事が出来ました」など、親として、ほっとする報告が続きました。しかし、これも、そう長くは続きませんでした。やがて、また「きょうはあまりお薬が効かなかったみたいで・・・」という報告が増えました。始めは体調のせいで、薬の効き方が違うのかと思ったりしました。薬に慣れて来て効かなくなってきたのかもしれないとも思いました。そんな事もあるらしく、K先生は、一日あての量をふやしてくださって、お母さんの裁量で増減してみてくださいとおっしゃいました。さっそく次の日から少しづつ量を増やしてみて様子を見ました。ところが薬が増えると今度は、泣いて、パニックを起こす事が増えてきてしまいました。私のストレスはピークにきていました。実は、もう少し早い段階で担任の先生は「算数が原因かもしれない」とおっしゃっていました。だんだん難しくなってきた算数にパニックを起こしている。この事実を認める事も親としては結構きつい事です。でも客観的に見ると確かに、てっちゃんは算数を理解するのが困難のようでした。思い切って薬の量を元に戻し、先生に「理解できていないようでも、ほっといてみてください」とお願いすると、てっちゃんのパニックはぴたりとやみました。
 お薬を飲んでから、びっくりするほど先生の指示に、ちゃんと反応していたので、先生も私も、てっちゃんは、ちょと手をかければなんでも問題なく理解すると思い込んでしまっていたのでした。
 しかし、不得意な部分と言うのは厳然とあったのです。指示が理解できなくて間違えると、その度に先生の指導が入り、それがまた理解できなくて、どんどんパニックになっていったのです。
先生の丁寧さが裏目に出てしまったのです。そして、それをまた多すぎる薬が増長してしまったと言うのが、真相のようです。
 私たちは勉強などできなくても普通学級での生活を選ぶつもりです。てっちゃんには皆と同じ事がしたいという意欲があることや、自分の置かれている状況を敏感に認識する能力がある事を考えると、普通のお子さん達の中にいる事の方が彼のためになると考えるからです。これから、どんな展開があるか解りませんから断言は出来ませんが今のところ、この選択が一番だと思っています。                        (Jun.2000)