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てっちゃの障害
 初めて診断された、てっちゃんの障害の名前はADHDでした。自閉傾向のあるADHDで、知能はそれほど遅れていないものの学習障害があり言語能力は3,4歳程度ということでした。6歳6ヶ月の時の事です。それから私はADHDの本を読み、専門のクリニックにも連れて行きました。しかし、そこではADHDではなく高機能自閉症だといわれました。確かに本で読むADHDは、てっちゃにはあてはまらない点が多々あったのです。私は、この事をADHDと診断したK先生に相談してみました。 K先生はまず、ADHDや学習障害の専門の医師は排他的であること。それから、この種の障害というのは、いろいろな要素が複雑に絡み合っていて、本当は一つの名前を付けるのはとても難しく、また意味のない事なのだと説明してくださいました。その後、高機能自閉症の本を読み始めると、やはり、てっちゃんには当てはまらない点が少なからず出てきました。
 先日、言語訓練士の方に伺ったお話しでは、典型的な例というのは、殆どないということでした。その人の育てられ方や、環境などによっても、かなり違ってくるそうです。てっちゃんの場合、両親の他、おじいちゃん、おばあちゃん、兄、弟と6人もの家族に囲まれて育ったのはとても良い環境だったといえるのだそうです。
 横目で塀を見ながら何度でも、いったり来たりする行動や、完全に自分の世界に入って何やらしやべり続けること、融通性のない几帳面さなど、明らかに自閉症の行動が見られる一方で、自閉症の場合、苦手とされる、人の気持ちを察したり、その場の雰囲気を感じたりする感覚はとても鋭かったりします。ひとりで遊ぶことが多いのですが、時としてふっくんと、とても楽しそうに笑い声をあげて遊びます。自分から「ふっくん、OOOしよう♪」と誘うこともあります。集団の中にいることも嫌がりませんし、一緒の行動も出来ます。
 言葉でのコミニュケーションも、かなり上手になってきて、てっちゃんから、いろいろ話し掛けてきてくれます。イエス、ノーで答えられる質問ならこちらの問いかけにも答えてくれます。しかし、何故?、何所?、どうやって?、といった質問は答えられません。
 一番困るのは多動で、落ち着きがないことです。子供は多く落ち着きのないものですが、やはり病的といっていいほど多動です。集中力もなく、学習には、大いに障害となります。しかし多動の問題はリタリンという薬の使用により、改善されます。
 比較的、記憶力がよく、年長さんの時には既に、ひらがな、カタカナ、簡単な漢字、英単語を読みました。ローマ字読みができるので知らない英単語も、それらしい発音で読みます。発音がとても綺麗で周りの大人達を驚かせます。歌も大好きで、30分程度の子供ミュージカルのビテオをセリフも含めて殆ど覚えて最初から最後まで一緒に、歌って踊ったりします。
 運動能力も高くサッカーのドリブルなどは器用に少しづつ蹴って前に走ります。野球の投手の真似も上手で遠くにまっすぐ投げられます。
 てっちゃんの良い所は、何よりその性格にあります。とても優しくて、私がマーくんを叱っている時など、よく「ママ、いい加減にしなさい!」といって、私を制します。私がお風呂で滑って、てっちゃんと頭をゴッチンコしたときなどは、あまりの痛さにつぐんでしまった私に、てっちゃんは泣きながら「ママ大丈夫か?ママ大丈夫か?」と言い続けました。
 幼稚園でも人気者でしたが小学校に入っても、みんなに可愛いと言ってもらえます。
 彼の障害を考えたとき親として辛い気持ちにならない訳ではありませんが、この、みんなに愛される素敵な性格を大切にしてあげれば、きっと明るい将来が開けるに違いないと思っています。
 めざせ! 日本のフォレスト・ガンプ!!     (may.2000)
 視覚,或いは聴覚などの,障害はなく、視覚或いは聴覚からの情報の処理が困難であること。
 例えば、黙読では、どうしても理解できないことが,読み上げて,耳から情報を入れると理解できるとか、聞いても理解できないことが書いたものを読むと理解できるといった事が起こる。
てっちゃんの場合は後者。 
高機能自閉症
 前頭葉および側頭葉の機能障害,或いは大脳右半球皮質の機能障害が原因といわれている。 知能の遅れなどがある場合が多い自閉症に比べ知能は高い。コミニュケーションが一方通行であったり、言語発達が遅れることが多い。非言語的コミニュケーションが特に不得意。手先の不器用さ、運動能力の低さが見られる。