航海日誌 4

 

【5月10日(水)〜5月16日(火)】


 

5月10日(水)  的矢湾 安乗漁港(あのり) ⇒ 英虞湾 浜島港外 民宿「かいゆ」カキ養殖棚
志摩半島に来ると、半日天気が悪くても、いたるところに小さな漁港があって20マイル前後づつでも前進することができます。
また、このあたりは近畿や中京圏のリゾート地になっているため、岸辺にあるホテルや宿には必ずといっていいほどポンツーンや、養殖いかだがあって、海から訪れることができるようになっており東京や横浜では信じられないほど、ヨットクルーズにとって恵まれた環境といってよいでしょう。

昨日は、オーバーナイトで疲れていたため、午後7時就寝。出漁時間の4時半起床。すっかり疲れは取れています。すでに西からは気圧の谷が接近していて、午後からは、低気圧に吹き込む南東風が強まる予報。午前中ならセーリングに問題はなさそうです。おととい、このHPを見ていただいている方から、このゴールデンウィークに英虞湾をクルージングしたときに立ち寄った民宿「かいゆ」がとてもよかったというメールをいただきました。

そこで、午前中に入港可能なこの民宿に舫いをとらせていただくことに。電話で予約状況を聞くと、連休が終わっていつでもOK。さらに宿泊でなくても停泊可能とのこと。あすの荒天の日和待ちもあるので、ただで停泊は申し訳ないので一泊だけ宿泊させてもらうことにしました。今回のクルージングは船中泊をできるだけするつもりですが、一度は入り江に浮かぶ自分の船を宿の窓から眺めてみたいと思っていたKasayan。ついに夢の実現です。
予定していたお隣の五ケ所湾海游人マリーナで日和待ちをするのでは、停泊だけで一日5000円もかかってしまいます。日和待ちをいれると、最低2泊で10000円。食事は別でシャワーだけで500円。一方、こちらは何日でも停泊料無料。民宿一泊二食(海の幸)風呂付きで二人で16000円。ためらわず、こちらを選択することになりました。

海上保安庁のテレホンサービスでは、午前5時25分の段階で大王崎は東の風8メートル。波3メートル、うねり1メートル。瞬間は10メートル以上は吹いているかもしれません。
26ftのちっぽけなGoldenWistaria号のストライクゾーンギリギリ。そして午後からは南東が吹き上がってくる予想。
お得意のアメダス風向風速をチェックすると広い範囲で5メートル以下。今がチャンスと6時15分出港。朝一番に、おばちゃんが「どうせ天気が悪くなるんだから、もっといれば。今日とれた魚あげるよ!!」と言われていたので、出港前におばちゃんの家の玄関に出港とお礼のメモをはさみました。

的矢湾入り口は、東に開いているため、東風が吹き込み、波とうねりが高くなっています。真向かいですが、船が小さいため上へ下へと上り下りするだけで、波にたたかれることはありませんでした。ワンポンの機帆走。安乗崎灯台沖の定置網(こちらでは大敷といいます)を交わして、180度、一路大王崎へ。江戸時代の船頭から「波切大王なけりゃよい」といわれていた海の難所。航海5マイル、テレホンサービスどおりのうねりと波、風でしたが難なくクリアー。今度は、布施田水道という岩礁地帯の狭い水道の通過が待っています。水道直前の大きな定置網を交わし、いよいよ水道進入。海図で見るより、遥か狭く感じる水道で、幅は200メートルくらいしかないように見えます。こちらに向かってくる内航船をギリギリで除けて、航路左側の緑ブイにそって慎重に前進。9時00分。ほんの30分程度でこの水道を抜けることができました。さあ、いよいよ熊野灘!!!!!!!!!!!!!。

・・・・・が、突然流れ藻が次から次へ流れてきます。駿河湾で、プロペラに藻を絡めて痛い思いをしたKasayan。ここからは東の追手で、セーリングすることにしました。フルにジブセールを開くと対水速度4.5ノット。快調に英虞湾湾口を目指します。このところ、風速と風向に恵まれず、機帆走が多かったので、フラストレーション解消。熊野灘の海は素晴らしく綺麗。10時半。英虞湾湾口到着。ジブを巻き込み、再び機帆走に・・・・・あれ・・・・・・・・・速度が出ない。セーリング中にプロペラ游転でやっぱり、藻を絡めてしまったようです。またしても藻に魅入られてしまったKasayan。それでも4ノット前後は出るので、ゆっくりとカキの養殖棚、真珠の養殖だなに気をつけながら英虞湾の中に。事前にいただいたメールに従って進むと、難なく民宿「かいゆ」のある入り江に入ることができました。外海は波が2メートル前後ありますが、この中はまるで池。新緑の緑が回りを包み、まさにひなびた入り江と言った風情。メールを下さったかたに本当に感謝いたします。

そして、今航海二回目の水泳。プロペラは例のごとく、「ほんだわら」がマリモになっていました。プロペラカッターをつければ良かったかな・・・と思うのですが、後の祭り。これからも何度か同じ思いをしそうです。明日は日和待ち。この入り江でのんびりと本でも読むことにします。それともうひとつ。今日の教訓、セーリング中は、プロペラを止めておくこと。


初チャレンジ、今日のKasayanに写真!!

英虞湾のカキ棚にて

 

5月11日(木)  英虞湾 浜島港外 民宿「かいゆ」 カキ養殖棚 日和待ち
久々に畳の上で寝たKasayanですが、すっかり身体がヨットのバースの大きさに慣れてしまっているのかどうか・・・。せっかく朝寝をしようとしたのですが、結局いつものように午前4時半に目がさめてしまいました。でも体調は万全。最低料金で宿泊したのですが、お膳に乗り切らないほどの鰹、えび、サザエなどの海産物を腹いっぱい食べたおかげでしょう。朝食に出た、キスの干物も、Kasayanが知っているキスとは思えないほど大きく、おいしい物でした。

台風1号、アジア名「象」が小笠原付近を北東に進んでいます。偏西風に十分に乗っておらず、西からの上空の谷に押される形なので接近の恐れはないのですが、海上保安庁による今朝の大王埼の状況は、波3メートル、うねり4メートル。風は東なので、布施田水道付近の浅瀬にさえぎられ、志摩半島南岸には、大王埼のような波は押し寄せていないとは
思いますが、うねり4メートルとは!!!きっとGoldenWistaria号なら波と波の間に入って、水の壁に取り囲まれてしまうでしょう。石廊崎では3メートルのうねりを乗り切りましたが、これ以上はKasayanの技量では絶対に無理。追い風にはなりますが、東風も10メートル前後は吹いているでしょう。外海の荒れ方とは対照的に、池のような英虞湾の中で、今日は遠州灘、大王埼越えの疲れを癒し、ヨットの点検、そして午後からの雨の降り出しの前に洗濯をすることにしました。

結婚以来家では洗濯などしたことのないKasayanですが、この航海が始まって以来、洗濯は女房、すすぎと搾りはKasayanという分担で洗濯をしています。GoldenWistaria号には、「洗濯板(100円ショップで購入)」があって、バケツを使って洗濯するのがその方法。学生時代、コインランドリーに行くお金が無くて、共同の流しで洗濯していたころを彷彿させます。夫婦で洗濯などをしていると、これもクルージングの一つの醍醐味のような気がしてきました。食事にしろ洗濯にしろ、二人で協力して生活のために何かをするなどということは、家にいて、めったに経験できません。漁港の片隅で一緒に四方山話をしながら、手だけはもくもくと洗濯をするのも一生の思い出になりそうです。まるで「大草原の小さな家」のよう。ただ、今回は、民宿のおばさんが、ご親切にも脱水をさせてくれたので非常に助かりました。

ヨットと消耗品の点検も終了。航海計画もOK。いつでも出発できます。燃料はまだ65リットルの残量。飲料水、タンク水も満タンに。何時でも出港OK。エンジンオイルも減ることなく、まだ綺麗な琥珀色を残しています。次の港は一応、三重県尾鷲港。本当は、その手前にある五ケ所湾や長島港にも立ち寄りたいのですが、わずかしかない航海のチャンスに足を伸ばしておく必要も。半日しか走れない状況だったら長島港へ。ほんの4時間前後しか走れないようだったら五ケ所湾へ、無理に足を伸ばして痛い目に会わないように、トリプルで海図に線を引きました。当初の予定は何処へやら。家でチャートに書き込んだ線を消しゴムで消すのが厄介です。やっぱり、最終的な航海計画は、現地の情報と天気を考えて、前日にじっくりと考えるものだと痛感しました。そして、ちょうど舵誌の今年4月、5月号で特集していた五ケ所湾周辺のクルージングレポートの切り抜きを取り出し、熟読。

こうしているうちに西から雲が厚みを増してきました。あと1〜2時間で雨が降り出しそう。南東風も強まっているようです。昨日、下見をしておいた近くの店に、女房が地元の「とんぼマグロ」のブツと、鰹を買いに行きました。両方買っても数百円。
今夜は、この入り江のカキ棚で雨をしのぎながら、熊野灘の味を堪能したいと思います。

 

5月12日(金) 英虞湾 浜島港外 民宿「かいゆ」 カキ養殖棚 ⇒ 五ケ所湾 迫間浦漁港
いつものように4時に起床。実況天気図をダウンロード。すでに通過しているはずの寒冷前線がまだ近畿あたりを東進しています。いやな予感。レーダーアメダスによる雨雲の様子をみても強い雨雲の範囲は福井県から和歌山にかけて横たわっています。プログ(コンピューターによる数値予報計算結果)をダウンロード。寒冷前線は午前9時の段階で、東海地方を横切る計算。こりゃもう一日、日和待ちかな・・・・と思いましたが、気を取り直してアメダス風向風速を確認。前線通過にも関わらず、紀伊半島付近は5メートル前後の弱い南東風の場になっています。また、海上保安庁のテレホンサービスでは大王埼でも東の風7メートル前後。大きな崩れはないようですが、これから南東風が強まり、午前中、一時的に雨が降りそうです。そして問題は台風1号によるうねり。大王埼では波高が3メートル、うねりが4メートルとのこと。うねりは別として、午前9時までにたどり着けるところならクルージングができる!!!。ここは思案のしどころですが、英虞湾の西4マイル(約8キロ弱)には五ケ所湾があって、五ケ所湾は、英虞湾に比べて陸からの便が悪い分、素朴でよき日本の漁港の姿を見ることができます。航海計画を立てると、航程はおよそ13マイル。
問題は英虞湾を出て五ケ所湾を入るまでのほんの2マイル。英虞湾を出たところで無理と判断すれば引き返せば良い。

午前6時20分。2日間もやっていたカキ棚を離れ出港。民宿のおじさんがわざわざ出てきて手を振ってくれました。湾を出るにつれて次第にうねりが高くなってきます。うねりは確かに波高3メートル前後。でも非常に周期の長い波で船の周りが水に囲まれるようなことはありません。ただ、岸辺の浅いところでは、急激に波高が高まり、岸辺では白波が大きく跳ね上がっています。7時20分英虞湾と五ケ所湾を隔てている田曽埼をクリアー。相変わらず流れ藻が多く、今航海すでに2回の水泳をしているKasayanは神経質に除け、しっかりとジブのみでセーリング。船はうねりにのってサーフィングして6ノットをキープしています。そのまま一気に五ケ所湾へ。入港路にそってくしの歯のように出ている定置網を3つ交わして湾奥に。外海のうねりがまるでウソのように静かな海が待っていました。でも気を許すわけにはいきません。真珠やはまちの養殖イカダが所狭しと並んでいます。セールを巻き、機走に切替て目を皿に。・・・・・・・・・・・・「あれ、またまたスピードが出ない」・・・・・・・・・5ノット前後は出るのですが、すでに藻を2回も絡めているKasayan。ティラーを通して舵に当たる水流に「ミダレ」があるのを見逃しません。こんなに気をつけていたのに・・・・・・・・・・・・・もう絶望的な気分になりましたが、プロペラで走れるだけマシと考えて、イカダの間を、スラローム。8時20分、緑に囲まれた湾奥の迫間漁港にたどり着きました。

網の手入れをしていたおじいさんがいたので、女房を下ろし、走らせます。「そこ泊めな。漁協に言わんでもええで」のありがたいおことば。干満を気にしなくても良い桟橋に横付けさせていただきました。さらに同じ桟橋に船をつけたおじさんに挨拶をすると、「目の前、俺の家だから水くみに来ればええよ、もし漁協が来たら俺の名前を言いな」とのこと。プロペラ掃除の水泳を前に本当にありがたいお言葉ダブルでした。

郵便局と、漁協の売店くらいしかないところですが、交通の便が不便なところへ行けば行くほど、人情が厚くなります。お礼することもできず、ただひたすら頭を下げて「ありがとうございます」しかいえませんが、日本一周後にお礼の手紙の一つでも出したいと思います。

 台風1号のうねりは結構きつく、たった2時間の航海でもぐったりと疲れました。このうねりが収まらない限り、Kasayanの技量では、尾鷲まで行くことは、困難かも。この五ケ所湾の中にはまだまだ漁港があり、また、アンカーで沖止めしても安心してオーバーナイトできるような入り江が沢山あります。この先、天気も短い周期で変わることもあって、しばらくこの湾の中でうねりが収まるのを待つことにしたほうがよさそうです。予定は未定。すでに2週間の遅延。

 

5月13日(土) 日和待ち 五ヶ所湾内探検 海游人マリーナ周辺でアンカーリング
午前4時起床。いつもの天気図解析。日本の上空は深い気圧の谷になっているものの、東海近畿付近は低気圧の間に挟まった小さな高気圧圏内。アメダス風向風速を確認しても紀伊半島は各地で5メートルを下回る微風域。こりゃいける!!と思ったところでにわか雨。まだ明けきらない空から大粒の雨が降ってきました。昨日の前線位相が残っているのかも。レーダーアメダスで確認すると、東北北海道に雨を降らせている前線の雲の尻尾が志摩方面にかかっているようです。大丈夫、朝には止む。気持ちはすでに出発モード。
昨日高かったうねりは?・・・・・海上保安庁のテレホンサービスで最後の確認。大王埼で風が東2メートル・・・・よしよし・・・波2メートル・・・よしよし・・・・うねり4メートル・・・・ゲゲゲゲゲ。昨日は4マイルをサーフィングで乗り切りましたが、今日の航程は30マイル前後。ホームポートを東京湾内に構えるKasayanにとって、4メートルのうねりを26ftGoldenWistaria
号で走った経験はありません。風波は無いがうねりがある!!!!出港するや否や悩むこと30分。じっと海図とにらめっこ。紀伊長島港にしても尾鷲港にしても南から東へ向けて開けている湾。最新の沿岸波浪予想図を見ると、うねりの方向は東から西へ周期9秒。尾鷲はまだ良いにしろ、紀伊長島港の入り口には岩礁地帯。水深が浅くなるとともにうねりが
盛り上がり、白波が岩礁に砕けている、まさに東映映画のような湾口の様子が脳裏を横切りました。さらに昨日プロペラの藻をとるために今航海3回目の水泳をさせられたように、この付近は流れ藻地帯。入港時の「ここぞ」というときにペラにまた藻が絡まったらどうしよう。このうねりくらい乗り切れなければ、なさけないな〜と囁く心と、少しでも不安があれば出ないという心の葛藤。・・・・・そして、午前6時、出港断念。どうせ今夜は西から低気圧が来てしまう。そのあと14日後半から16日にかけては、再びしっかりした高気圧が覆ってくるはず。今夜の谷が通過してしまうころにはうねりも収まるだろうと判断して、五ヶ所湾内の探検にでかけることにしました。遠州灘と大王埼を越えたものの、ちっとも前に進まないKasayan。   「えーい、五ケ所湾を堪能してやる」ぶつぶつと独り言を言いながらチャートテーブルに向かっているKasayanに女房はバースの中から「今日はどうすんの?」。
Kasayanの「出ない!!!」の一言に「ああそう、私、ここ結構、気に入ってるのよネ」と言い放ち、再び寝息を立てていました。女房のほうが、Kasayanより先に「のんびりクルージングモード」に入っているようです。

今日の探検は、五ケ所湾西側。迫間漁港より西側は養殖イカダも少なく、初めてでも比較的進入しやすくなっています。測深器のスイッチを入れ、慎重に前進。リアス式の湾はまるで迷路のようになっていて、海図を片手に位置の確認は欠かせません。丸島を抜けて湾の最奥へ。そこには、舵誌にも広告を出している「海游人マリーナ」があります。かつてメルボルン大阪ダブルハンドレースで優勝した「波切大王」というヨットが舫ってある所。このマリーナの奥にある水面にアンカーリング。水深は6メートル前後。しっかりとアンカーが効きました。エンジンを止めると、鶯の鳴き声と風の音しか聞こえない静寂が広がります。ビールを飲みながらしばしのクルージング気分。こういった湾の中での日和待ちも結構良いものかもしれません。と・・・・・ずっと雲が取れなかった空から日差しがのぞきはじめました。すると、まだ5月だというのに、周辺の山の中からはセミの声が。鶯とセミ。ここ五ケ所湾では春と夏が同居しているようです。コクピットにゴロリ。今回の航海では初めてです。

15時半。漁船が港に帰り、引き波が収まる時間に抜錨。再びきのうと同じ迫間漁港の桟橋へ。湾の東半分を今度は探検してみたくなりました。明日、うねりが収まらなくても、もう一日遊んでみようかと思うKasayanでした。



五ケ所湾 海游人マリーナ脇の水面にアンカーリング
正面のマストの高いヨットが「波切大王」

 

5月14日(日) 五ケ所湾 迫間浦漁港 ⇒ 尾鷲湾 尾鷲港 ⇒ 尾鷲湾 引本港
航海の度に水泳をするはめになるKasayan。今日も水泳。真水だけはどうにか汲むことができるので、毎日冷水シャワーが出来るのである意味ラッキーかも・・・・・・・・・・・・・・・なわけない!!!

定例の朝の天気図解析では、日本上空の気圧の谷はどうにか抜ける傾向にあるのですが、近畿東海地方は大気の状態が不安定。昼前後には強い夕立があるかもしれません。ただ、これは山添と判断。アメダス風向風速を見ると、全般に無風状態。午前中に航海を終了すればOK。ただ、大王埼のうねりは引き続き4メートル。ここは思案のし所。うねり4メートルといっても弱まる方向。そして波長も長くなっているはず。五ケ所湾口までいって乗り切れないようなうねりなら引き返すつもりで6時22分出港。尾鷲に向けて居心地の良かった漁港を後に。

五ケ所湾口のうねりはおとといよりも低くなっていて、約2メートル。風は弱く風向も定まらず。これなら行けると判断。進路を尾鷲に。痛い思いをした流れ藻に気をつけながら機帆走。でも1メートル間隔で浮いている流れ藻の集団につかまり万事休す。セーリングで対応しても藻が絡まってしまい、すでに3回も潜るはめになっているKasayan。1メートル間隔の流れ藻をスラロームのように避けながら、思わずマストステップに掲げている金毘羅さんのお札に祈っていました。藻と戦うこと30分。お札の御利益か、ついに藻を絡めずに藻地帯を通過。リベッチオの場合、プロペラの位置が非常に浅い位置についているので、機走したほうが、プロペラが沈み込み、藻が絡まらないのかもしれません。

贄湾、神前湾、古和浦湾と、リアス式の湾口を次々とクリアー。湾口には流れ藻がありますが、たいしたことはありません。紀伊長島沖からは、北西の出し風が入り、3メートルのうねりにサーフィングしながらセーリング。平均5ノットで快調に進み、ケンケンを流しながら11時半には尾鷲湾口到着。さあ、入港・・・・・・・・・・・・・・・・・しかし、岬に打ち寄せるうねりと、返す波で湾口部分は、大きな洗濯機のように波がおお暴れ。また、岸辺には大きな波が打ち寄せてしぶきが10メートル近くも吹き上がっています。みるみる血圧の上がるKasayan。うねりの恐ろしさを始めて経験。波の渦の中心には、まるで浮島のような藻の塊。冷静に冷静にと自分に言い聞かせ様子をうかがうと、湾の南よりにうねりが素直に湾奥へと吸い込まれていく所があります。このうねりに乗って湾奥へ。奥へ入るにつれてうねりも収まり12時30分、尾鷲港入港。

ホッとして岸壁探しをすること1時間以上。漁船がぎっしりでまともに停泊できるところがありません。仕方なく市場横のタグボートが泊めてある岸壁に舫いましたが、うねりと通り過ぎる釣り舟の引き波で船がおお暴れ。このままでは舫いが切れると判断。湾内を3マイルほど行ったところにある引本港にシフトすることにしました。定置網と養殖棚に注意しながら14時過ぎに引本港入港。空いている岸壁に舫って一休みしていると、漁師のおじいさん
がやってきて、「ここは揺れて夜寝てらんないから、奥の市場の先へ移ったほうがええよ。」とのありがたいお言葉。天国のように静かな岸壁に舫いを取り直すことができました。

・・・・・・・・・・で、尾鷲港入港時。いまいちスピードが出ない。2500回転で本来5.3ノットは出るはずなのに5ノットを下回っていました。いやな予感を残したまま、また出港はしたくないので、市場からバケツで水を汲んできて、また水泳。今度は、細紐とビニールの袋に混じって藻が絡んでいました。ビニールには「オキアミスライス」の文字。つり人の捨てたものに違いありません。自然の流れ藻なら許せますが、ビニールと細紐とは!!!
少々怒りを覚えるKasayanでした。・・・・・・・あ〜疲れた。



神明湾沖約3マイル

 

5月15日(月) 尾鷲湾 引本港 ⇒ 勝浦港
二つだま低気圧という言葉はありますが、今日は二つだま高気圧にはさまれて、紀伊半島は弱い低圧部。昨夜21時の実況では1008hpaの低気圧まで解析されています。でも基本的には高気圧に覆われていると判断してもよさそう。昨日は入港直後に稲妻が頭上に光り、少々肝を冷やしましたが、今日も昨日ほどではないにしろ大気が不安定なのは確か。紀伊半島東部は海からすぐに高い山がそびえているため、海岸沿いで、雷雲が発生する可能性があります。こうなると、山に向かって海から強い東風が吹き込む恐れがあるため、入港は午後2時前後までに終えたいところ。今日の航程は40マイル前後なので、平均4ノットで計算すると入港はどうしても夕方になります。今航程は最初から機帆走を前提として、とにかく早く走りきることにしました。(出港以来、機帆走が多く、「外洋機帆走協会」会長に立候補しようかと思っていましたが)

午前5時45分出港。尾鷲湾の入り口のうねりは昨日よりは弱まっていてさほど問題はありませんでしたが、再び流れ藻の島があちこちに浮かんでいます。例によってスラロームで切り抜け、今日の作戦第一弾。沖だし作戦。4マイルほど遠回りになりますが、尾鷲湾からまっすぐに東へ沖だし。沖に出ると流れ藻は少なくなるため沖へ逃げて流れ藻を避けることに。ほとんど流れ藻が見えなくなったところで南へ変針。08時に三木崎をかわし、ひたすら勝浦沖を目指します。風は微風。機帆走ですが、逆潮につかまり対地速度は5ノット以下。右手4マイルほどに見えるはずの陸地はもやで見えず、水平線ともやに囲まれイライラしながらの前進。トビウオだけが気持ちよさそうに目の前を横切っていきます。

10時半。右手前方に新宮の煙突の煙が見えるころになってようやく東よりの風が吹き始めました。この風が強まるまえにこの風を利用して前進しなくては。ジブセールをフルに開くと、対水速度は一気に上がって平均6.5ノット。ブローでは7ノットまで。エンジンスロットルを半開にして対地速度5ノットをキープ。12時を回る頃にようやく、勝浦港入り口にある鰹島が見えてきました。

勝浦港入り口に差し掛かるころから、水の色が濃いブルーからエメラルドグリーンに。
幻想的な海の色に見とれながら13時半入港。ホテル浦島という巨大温泉ホテルの横の水路に侵入し、奥の造船所に泊めてあった遊覧船で作業していたおじさんに停泊の許可をもらって、造船所の岸壁に横付け。波静かな場所に今夜のネグラを確保することが出来ました。

これから天気は下り坂。これを書いている間に雨が降り出しました。今日、明日は、ここ南紀勝浦でまた温泉につかり、栄養を取って、目の前の関所、潮岬越えの準備をしたいと思います。

 

5月16日(火) 勝浦港 ⇒ 串本港
天気は下り坂ですが、当初予想していた速度より、崩れは半日遅くなりました。
昨夜の内に、勝浦の温泉を300円で堪能し、コインランドリーで洗濯を終え、名物のさんま寿司、めはり寿司を食べ、勝浦散策を終了してしまったKasayanに残されたものは、巨大観光温泉ホテル「浦島」で温泉につかることくらい。那智の滝は4年前に訪ねたことがあるのでカット。そこで、潮岬のお膝元、串本までわずか18マイル、進んでおくことにしました。

朝6時。観光桟橋脇の露天で、お気に入りのさんま寿司を飽きずに購入。朝ご飯。
7時25分、出港。港内でメインを揚げて、そろそろと狭い水道を抜けて港の外へ。水は相変わらずエメラルドグリーンですが、相変わらずの流れ藻が港外を取り囲んでいます。またもやスラローム。風は無風でセーリングもままならず。キュルキュルという音とともに速度がダウン。2700回転で5.3ノット。小さめの藻が絡んだようです。実は、昨日、勝浦に入港して「今日のKasayan」をアップした後、なにか心に引っかかるものがあって確認の水泳。予感的中、小さな藻が絡んでいました。そしてまた・・・・・・・・・・・。今航海のレグはこれで第12レグになりますが、すでに藻を取るために5回も潜っています。これで6回目確定。5割の確率で航海の度に水に入るはめに。プロペラを止め、ゆっくりと後進。そして前進。どうやら藻がうまい具合にシャフトに絡んだらしく、2700回転で5.2ノットを出すことができます。(本来5.7ノット)今日の航程はたったの18マイル強。ちょうど、潮流にのり、それでも対地速度は6ノットを超えています。順潮1ノット前後。このまま走って、串本で潜ろう!!!。回転数を2500回転まで落とし、対地速度5.5ノットで熊野灘を南下します。風は方向が定まらない微風。セーリングはまたまたできず機帆走。

かつて近海捕鯨で有名だった太地沖を9時通過。昔の人々がこのうねりの高い海に小船で乗り出し、鯨と戦ってきたことを思うと、自分の航海技術の無さを恥じるとともに、勇壮な鯨取りたちの勇気に驚きと尊敬の念を抱かざるを得ませんでした。そんな思いに浸りつつ、潮岬へ向かう大型船の列に沿ってさらに南下。西へ進む船は全て潮岬に集まってくるため、一目で15隻以上の大型船が列をなしています。

そして、9時半。フェリーのサンフラワーに追い抜かれたあと、早くも串本港入り口へ。
串本港は、「ここは串本、向かいは大島」と歌われるように、太平洋の荒波を大島がさえぎり、天然の良港になっていますが、その入り口は、潮浪が沸き、まさに「潮」の岬の玄関の様相を呈していました。275度の変針して、大島を左に見ながら、奇岩「橋杭岩」に向かってさらに前進。カメラを取り出して、女房と写真の撮りあい。10時半に串本漁港に入港、広々と空いた岸壁に横付けすることができました。潮岬は本州の最南端、この地でほかにヨットは見ませんでしたから、今GoldenWistaria号は、今日、本州のヨットの中で一番南にいることになりそうです。

そして昼食後、今航海6度目の水泳。やはり「ほんだわら」がしっかりと巻きついていました。絶対、どこかでプロペラカッターを付けてやる!!!!!!

串本は、どことなく寂れた町の雰囲気が漂っていましたが、燃料、風呂、スーパーなど、必要なものは全て揃っていました。間違いなく今夜から明日にかけては天気下り坂。
町の探検を終えた女房はすでに昼寝しています。
明日、一日、串本の人になって、熊野灘、約100マイルの疲れを癒したいと思います。



串本港入り口 橋杭岩沖を通過

 


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