航海日誌 3

 

【5月3日(水)〜5月9日(火)】


 

5月3日(水)  清水港 日和待ち
昨夜11時頃から大粒の雨が降り始め、雷が鳴り響きました。
上空の寒気、天気図どおり、きちんと流れ込んでいます。

午前中、週間6コマの天気図をダウンロード。5月7日以降、日本の東海上に中心を持つ高気圧が、すっぽりと東海地方を覆う計算になっています。ようやく上空の空気の流れのパターンが変わってきましたひょっとすると、7日、8日には、待望の東よりの風が吹いてくるかもしれません。遠州灘の風向は、この季節、西よりが65パーセント前後。つまり、東風に乗れるのはおよそ10日に3日ということ。そのチャンスの可能性が高くなってきたのです。まあ、計算結果はあくまで計算結果。前日までの実況監視!!!でも、駿河湾で、じっと我慢したかいがあったというもの。浮き足立っていた心がすこし落ち着いてきました。清水で、遠州灘の風待ちをするのは、そろそろ終わりにしたほうがよさそうです。

明日4日は、御前崎をねらってみようか。ただ、今日の11時の予報では、明日、西風が海上海岸で強く吹くと告げています。しかし、外れる可能性が高そうです。今日も南西の風が11時前後から吹き上がってきましたが、アメダス風向風速では、せいぜい7〜8メートル。御前崎では南西14メートルですが、駿河湾内では、各地で10メートルを下回っています。
風の全体的な傾向としては、寒冷低気圧に流れ込む方向ですが、この晴天で陸に流れ込む風のほうが卓越しているように思えます。ならば、明日は、朝凪に始まり、次第に南が入り、御前崎に近づくにしたがって西にシフトという予想も成り立ちます。今日の00Z(午前9時観測に基づく計算結果)で解析。西強風が予想されても、早朝のアメダス、お呼び、大王崎、舞坂灯台、御前崎灯台、石廊崎灯台の風系によって出港を判断したいと思います。
上手くすれば、やや登り気味のアビームで御前埼を狙う。西にシフトせず、南西のまま吹き上がったら、焼津に逃げ込むというパターンで、30マイル弱を早朝、日の出出港で考えることにしました。あす朝、予報どおりに、早朝から、寒冷低気圧に流れ込む強風パターンならば5日に御前崎を狙っても7日、8日の遠州灘に間に合います。

この3日間、Kasayanの船の隣には、ひっきりなしにゴールデンウィークのクルージングを楽しむ船がやってきては一晩泊まって出港していきます。いままでのKasayanも時間に縛られ、そんなクルージングをしてきました。それに引き換え、今は、1週間単位で時が流れ、一日の遅れが、せいぜい一時間の遅れにしか感じられなくなってきました。昨日船に遊びに来てくれた、太平洋、大西洋横断セーラーの内海さんのいわれるには、太平洋横断中、ハワイに寄ろうと思えば大圏コースから一ヶ月南下して、再び大圏コースに北上。計2ヶ月も余計に時間がかかるとのことでした。多分、世界を周航されるヨットの中では、一ヶ月単位で時間が流れているのでしょう。日本一周なら一週間単位で時間が流れるのかもしれません。天気予報番組という一秒単位の仕事をしていたKasayanですが、仕事を辞めて半年以上。ようやく気持ちの入れ替えができてきたのかもしれません。

 

5月4日(木)  清水港 ⇒ 御前崎港
昨日の「今日のKasayan」の日付が2日のままでした。日付ばかり間違えているのは、時間感覚がぼけてきたからなのでしょうか?ゴメンナサイ。

いつものように午前3時起床のつもりが、目がさめたのは午前2時。3日間の清水滞在を終え、久しぶりに出港するためと、予報の西強風を、あえて午前中は吹かないと判断して出発するのでかなり緊張していたからに違いありません。
いつものように天気図のダウンロードとアメダス風向風速のチェック。いつも、アメダスをチェックしているサイトのサーバーがハングアップしているらしく、昨夜21時から更新されていません。しかたなく、別のサイトで確認。駿河湾内の風向は定まらず、御前崎、浜名湖入り口の舞坂、伊良湖、大王崎は北西から西北西の西系で、5メートル前後。昨日の予想より早く、山梨、神奈川方面で低気圧が形成され東進するため、意外と早く、西風が吹き上がってくる可能性が出てきました。ただ、ここ数日間の西風は御前崎で吹き上がる1時間前に、西方にある舞坂の風速が上がってくる傾向にあるので、この風速を海上保安庁のテレホンサービスでモニターしながら走れば、万が一の場合、焼津に逃げ込めると判断して4時半出港。

漁船や游漁船の群れに混じりながら清水港外にでたところで日の出。予想外の南東風が結構しっかり吹いています。やや登り気味のアビームで222度へ。西の吹き上がりが怖く、先を急ぐためエンジンは半速のまま。しっかりと6ノットをキープしています。また対地速度も5.5ノット。三保の松原を抜け、静岡を6時半通過。大井川にさしかかるところで保安庁テレホンサービスをチェック。舞坂が10メートルに上がってきました。まもなく御前崎も吹き上がってくるはず。エンジンの回転数を常用回転数2800に上げるKasayan.。ヨットマンとしてちょっと反則かな・・・・などと思いましたが見栄をはってあとで苦労するよりは・・・・・・今日は、エンジンを切らないことになりました。

10時15分御前崎港入港。長い防波堤にそっての入港になりますが、テレホンサービスで言っていた風速12メートルの風など一向に吹いていません。おかしい・・・・と思いながら微速前進。港の奥のほうに風力発電の風車が見えますが大きな風車がビュンビュンと回っています。ひょっとして今は御前崎の丘陵に西風がさえぎられているだけで、港内は風が吹き降りているのかも・・・・・。予想どおり、港内は強風の嵐でした。普通、港に入ると風も波も収まるのに、この港はいったいなんという港なのでしょうか?漁船の船だまりは船でいっぱい。水深も2メートル前後。勿論、西風が渦をまいています。しかたなく、砂利船用の岸壁に横付け。西風に押し付けられ波にたたかれ最低の場所。おまけにゴールデンウィークのつり人が船の周りでコマセをばら撒きながら列をなしています。そこで思案。斜め横の岸壁は西風が前に回って少しは落ち着いていられそう。おまけに、風上には海上保安庁の大きな巡視船がとまっていて風をさえぎってくれています。そこで、女房に「困った顔をして巡視船に行って来い」との指示。遠くで、見ていると、女房が巡視船の中に入っていくのが見えます。まずいことになったかな〜と思っていると、女房が笑顔で帰ってきました。巡視船の中に招かれて、「どこからきたの?日本一周、いいね〜。天気図のファックスは取れるの?この港風が悪いんだよね。ウチの船の後ろにとめなさいよ」ととても親切にされたとのこと。海上保安庁、大好き。感謝、感謝です。そして女房にも感謝。そして、巡視船の後ろへシフト。舫いを解く段取りをシュミレーションして、強風の中、一発で決めることができました。

テレホンサービスでは、御前崎で16メートルが観測されています。多分瞬間では20メートル以上も吹いていることでしょう。今回もどうにか西風の吹き上がり前に入港することができました。その後、沖縄へ回航中の新艇のカタマラン(ファーストマリン社長乗艇、名刺とグッズをいただく)とセンターコクピットのクルージング艇が避難のため入港。

もーこんなことやめよ!!! 気象の勉強をしておいて本当によかったと思いましたが、もうこんな綱渡りはやめようと心に誓いました。こんなことしていたら、ぜったいにしっぺ返しが来るはずです。絶対的な確信が持てなければ、何を言われようとも出港しない。

つり人に囲まれ、風呂もなく、店もない非常に不便な港ですが、どうにか、遠州灘を越えるための足場ができました。安良里や清水に行かなければ、こんなところに1週間も足止めされていたかもしれません。西伊豆、相模湾で約1週間を過ごしたのは間違えていなかったと確信しました。

明日は、この西風、午前中までのこってしまいそうです。でも週間天気図では明後日には南東風が予想されています。明後日未明、今航海、第1回目のヤマ場、遠州灘69マイル越えのお膳立てが整いました。今日は、早く寝るぞ!!!!!。

PS,ベイサイドマリーナのゴミ箱で拾った、デカフェンダーが大活躍。小さなフェンダー100個よりデカフェンダー2個です。


御前崎港、画面左がてるてるぼーず号

 

5月5日(金) 御前崎港 日和待ち
昨晩、晩御飯後に、遠州灘越えの作戦会議(自問自答)。うまくすれば、5日の夕方に御前崎を出港し、明るいうちに御前崎を越え、早朝までに伊良湖に達して紀伊半島的矢湾入り口の安乗港を狙うことができるかもしれません。わくわくしながら天気図をダウンロード。

昨日までの週間天気図では、6日以降ずっと中心を東にもつ高気圧に覆われるはずでしたが、今日発表の週間天気図では6日夜から7日にかけて、日本海を低気圧が東進する計算になっています。少々、あてが外れてきましたが、今日の早朝発表(12Z)の天気図で判断することに。

そして、いつもの午前3時。天気図をダウンロード。少し上空の谷の進みかたが早くなってきたようです。中心がやや北に寄ると思われた高気圧も中心は日本の南。今夜、遠州灘をオーバーナイトで航海するには特に問題はなさそうです。ただ、安乗港入港を考えると、逆潮にさえぎられ、対地速度3ノットしか出なかった場合、最悪6日午後にの入港になります。その場合、南又は南西が吹いてくる可能性が出てきました。伊良湖入港を考えましたが、伊良湖は1日の停泊が限度の様子。7日に天気がぐづついた場合、面倒です。この南風、大して吹き上がるほどのことはないと考えられますが、遠州灘の南の怖さを聞いているKasayanとしてはちょっといやな気持ち。南は風走距離が長くなるので波も心配。ちょっとのことでも腰が引けてしまいます。今のところ8日に日本を覆う高気圧はとても背の高い(しっかりした)高気圧。30フィート以上の船で、2〜3人でクルージングする場合ならば、何のためらいもなく今晩出港しますが、ストライクゾーンの小さいGoldenWistaria号とセミシングルハンドのKasayanの実力を考えて、今回の気圧の谷の通過を待って7日夜か8日夜のオーバーナイトで今のところ計画することにしました。今のところ、6打数6安打で、風の吹き上がりの1時間前に入港などのきわどいことをしてきましたが、今回は向こう24時間、ズバリ的中させなければなりません。確信90パーセントに至るまでは、我慢。空振り覚悟。

と・・・決まれば、なんとしても風呂を探さねばなりません。朝から歩くこと2時間。灯台と海亀の産卵だけ(最近ではマッコウクジラ)が名物の御前崎ですが、なんと「天然トロン温泉」、港から坂道徒歩20分を発見してしまいました。入浴料1000円ですが、立派なヘルスセンターです。為せばなる。買い物についてもファミリーマートと海産物の巨大なおみやげ物市場を発見しました。そして水は、漁協から。これで生活が成り立ちます。

ついでにKasayan。御前崎測候所を発見。ちょうど朝9時(00Z)の観測中に伺って、予報官2人とこの先一週間の天気の傾向について相談。測候所ですが、必要最小限のデータしかなく、Kasayanがいつもダウンロードして見ている週間予報支援図も無い状態。気象庁の経費削減の実体を垣間見たような気がしました。いつも一人で天気図を解析しているKasayanですが、久しぶりに複数で検討ができ、ちょっと安心。予報官も、Kasayanとほぼ同意見で、8日の高気圧が、今日の高気圧より強く、安定しているという見解で一致しました。以前、仕事であちこちの測候所に電話をして、実況値等を問い合わせていたKasayanですが、素朴な予報官と話し込み忙しい中、早朝、深夜の問い合わせに対応していただいた予報官に、心から感謝したい気持ちになりました。明日も天気図を見せてもらう約束をして帰艇。

船の総点検をしよう。

 

5月6日(土) 御前崎港 日和待ち
初めての空振りかもしれません。今日の実況をモニターしていると、遠州灘は、終始南東の風5メートル前後。決して南西が吹き上がることはありませんでした。30時間近いオーバーナイト航海となるので、体力を蓄え、できることなら宵っ張りの朝寝坊スタイルに体調を整えておく必要もあるので、これも良しとすることにしました。7日夜に気圧の谷が通過して、その後、西よりの風が収まるタイミングで出発です。8日夜結構今は計画立案。
逆の潮が1ノット前後であれば、なんとか20時間。ダメなら26時間。最高にラッキーで16時間。月も新月なので、真っ暗闇の海をひたすら日の入りから日の出まで走らなくてはなりません。慎重に慎重に・・・・・・・・・・・・・・・でも出発は大胆に。

午後、昨日から一緒になった、京都から北海道経由のシングルハンダーと、海図、港湾案内を手に情報交換。そのあとは、近くの海産物屋からつまみと氷を買ってきて、焼酎で、遠州灘無事通過を祈って乾杯。

今、半分酔いながら書いていています。
今は、南東の風。ゴールデンウィークのラッシュの様子がラジオから。
今日は、深夜の揺れに起こされず、ゆっくりと朝までねむれますように。

 

5月7日(日) 御前崎港 日和待ち
今朝6時、33ftのシングルハンダー「てるてる坊主」が鳥羽をめざして出発していきました。
予想、実況の天気図をプリントアウトしてプレゼント。前線通過で夜には南風が吹き上がってくるのでちょっと心配です。でも33ftの大きさと、今まで日本を半周してきた経験を信じ、無事の鳥羽到着を祈りながら、もやいを解くのを手伝いました。彼は、これから伊勢湾内をまわり、Kasayanと同様に紀伊半島を南下する予定になっています。お互いに情報を交換しあうことを約束し、またの再会を誓いました。

なにか、仲間が一人消えてしまったようで、ちょっぴり寂しい気持ちになりましたがKasayanはKasayanのペース。ストライクゾーンの大きな高気圧が、今回の気圧の谷の後ろに隠れていることを期待。

今朝のプログを見ても、今夜から明日にかけては、不安定な天気。南風が強まり、突然の雷や雨となりそうです。その後、西よりの風が吹くかもしれませんが、今のところ、長期間に渡って強くは吹かないと考え、出発は、あす8日夕方か、てるてる坊主さんからいただく予定になっている潮の情報次第で9日未明、最遅で9日夕方の出発を予定することにしました。

燃料も10リットル買い足して、満載の80リットル。万が一、機走が長引いても70時間以上の航続が可能です。水も満タン。エンジンのチェックを行い、オイルの量と状態、全て完璧です。バッテリーもソーラーパネルのおかげで、4個ともフル充電の状態。後は体調と天気だけです。今夜は、再び入浴してぐっすりと眠り、あす午前中に御前崎測候所に足を運び、風の確認をしたいと思います。

 

5月8日(月) 御前崎港 ⇒ 的矢湾 安乗港(9日の日誌に続きます)
水も燃料も食料も十分に補給し、昨夜は、何度か漁船の引き波で眼を覚ましましたが、舫いの点検をして十分な睡眠をとることができました。

午前中、海上保安庁御前崎保安署に赴き、遠州灘の夜の漁業操業状況と漂流物情報及び海流情報の確認。とても親切に教えていただき、心から感謝。おまけに海の118番のステッカーまでもらってしまいました。最後は「奥さんとロマンチックな夜もいいですが、見張りは十分にね。」のありがたいお言葉まで。今日の夕方15時半から16時出発、10年ぶりの遠州灘オーバーナイトの準備は整いました。二十数時間の航海を終えて、明日9日の夜には、安乗で今日のKasayanをアップしていられることを祈るのみ。

御前崎は、本当に何も無く、風呂に入るにも温泉まで1.5キロ。国民宿舎で500円で風呂に入るにも2キロもかかります。おかげさまで運動不足を解消することができました。昨日は、片道4キロを歩いて御前崎灯台へ。遠州灘が遥か眼下に広がり、これからこの水平線の向こうまで行くのかと思うと、恐怖と期待とが入り混じり複雑な気持ちになりました。また、10年前に鳥羽レースの回航で深夜2時にこの灯台の下を通過したとき、まったくの
逆潮で灯台が右40度から一向に後ろへ進まなかったことを思い出しました。さらにこのとき、Kasayanは大きな揺れにしりもちをつき、オートパイロットのコントローラーをコクピット壁面からたたき落としてしまったことも。あのときは、幾人かで、ワッチ交代もありましたが、今回は自分が船長としてここを通ることになるのです。しばらく灯台下の展望台で立ち尽くしてしまいました。

御前崎の漁師さんや市場のおばちゃんたちもとてもよい人ばかり。時折、声をかけてきては「何処からきたの?」「何処へ行くの?」「気をつけていきなよ」。今朝は、水を汲みに漁協へでかけ、両手にそれぞれ10リットルのタンクを持って歩いていると、いきなり軽トラックが止まり、運転していたおばちゃんが、「重いでしょ。乗ってき」のありがたいお言葉。
港自体は、引き波がひどく、岸壁の下部がえぐれているため、干潮の時には船の舷側がその下にめり込みそうになる大変なところですが、人情は、素晴らしいところでした。
きっとそんな所だから、海亀が卵を産みに来るのかもしてません。

ここでの待機は結局3日になりました。入港翌日5日から6日にかけて出港していれば、今はすでに五ヶ所湾でしょう。一つのチャンスを何らかの状況で逃すと、最低3日。場合によっては一週間の遅れが生じます。小型ヨットの安全は、予定に縛られないことにあるといいますが、「決断」は非常に重要。でもこの間に、安乗港の情報を掲示板に書き込んでいただいたり、天気についてアドバイスをいただいたり、ネット上でも多くの助けを得ることができました。たった二人で広い港の片隅にぽつんと船を留めていますが、実は多くの方々
が見守ってくれていることを本当に有り難く感じています。

 

5月9日(火) 御前崎港 ⇒ 的矢湾 安乗港
今回は二日に渡る今日のKasayanです。
まるまる24時間以上寝ていないのですが、緊張と興奮状態が持続していてなぜか眠くないのです。

8日、12Zのデータで天気の最終チェック。日本海に低気圧が発生。また、8日夜は関東、中部の内陸部の昇温で局地的な低気圧が発生するかも。だとすると夕方は南が結構強くなってしまうのでは・・・・と心配。そこで午後2時にアメダスの風向風速をダウンロード。遠州灘沿岸は全て海から陸へ風が吹く海風の状態。気象レーダーを見ると、静岡の山添では、この海風が山に当たって上昇し、雷雲が発生しています。突風の心配はありますが、遠州灘越えにはちょうどよい風向風速です。この風、だんだん西よりに向かう可能性がありますが、夜半まではこの状態が続くと信じることに。海上保安庁のテレホンサービスで、大王崎、石廊崎の気圧を聞くと、まったく同じ気圧。気圧傾度は低く、高気圧の吹きだしも強く吹かないと判断。26ft中古クルーザーの遠州灘越え約80マイルを決行することにしました。これを逃すと、今度は一週間機会は訪れないかもしれません。

干潮で、絶壁になった岸壁からの離岸の手順を女房と事前にチェック。一発で離岸成功。
御前崎の東にある岩礁、「御前岩」の外側を通過。赤い旗の立った漁具があるので注意深く避けていきます。午後4時半、南西5メートル。ギリギリのクローズホールドで進路を276度、60マイル先の伊良湖岬の南に向けることが出来ました。ただひたすら西へ向かうのみ。にんにきにきにきにん。・・・・・・と、気が付くとオートパイロットのパイロットランプが消えています。「死んでる!!」。予備もありますが、配線系のトラブルだとしたら、これから20時間舵を引き続けなくては・・・。落ち着け!!冷静に観察すると、電源のコネクターの部分がなんとなく黒くなっています。出発前のメンテナンスの時にしっかりと紙ヤスリで磨いて、CRCしていたのに!!!舵を女房にあずけ、ヤスリを取り出して、もう一度コネクター磨きと接点復活材の塗布。オートパイロットはなんとか生き返りました。海では、考えられないほど腐蝕が進むもの・・・・教訓です。

19時前、日没。風はだんだんと西に回ってきました。もうしばらく南でいてくれ・・・という望みもはかなく風は西へ。三日月のムーンロードに向かって、念のためにリーフしたメインセールで機帆走。夜光虫が船の周りを薄緑に浮かびあがらせます。10年前、鳥羽パールレースで、遠州灘のこの光景に見せられてヨットにはまってしまったKasayan。再びその光景に出会うことができました。でも、この光景ばかりに見とれているわけにはいきません。遠州灘は関東と関西の船の大動脈。一目で10杯以上の船が西へ東へ列をなしています。信じられないような船の列。綺麗ですが、こんな列に巻き込まれたらたまったものではありません。この列の岸よりを慎重に進みます。時折、列からはみ出た船がさらに岸よりを追い越していくので前後左右、レーダーのようなワッチ。時折、底引き網漁船が操業しているため、コースを変更。

この季節でも海では夜になると、セーターが欲しくなるほどの寒さ。長袖シャツにトレーナー、ジャケットを着て、さらにカッパの上着を羽織ります。勿論下にはカッパのズボン。デッキは夜露でびっしょり濡れてきました。眠くならないように、コンパニオンウェイのステップの上に立って風とスプレーを避けながらワッチを続けます。

浜名湖までは1〜2ノットの海流があって3ノット前後しか速度が出ずにイライラ。鉄の下駄を履いて走っているかのよう。でも渥美半島に沿って走るようになってようや鉄下駄が脱げました。機帆走で5ノット以上。吹いていた西風も止み無風状態。このまま行くと、日の出前に伊勢湾湾口に達してしまいます。早朝の伊勢湾湾口は、大型船の入港ラッシュ。暗いままでの、横断はとても無理。日の出の時間に合わせてエンジンの回転数を落として、4ノット以下まで速度を落としました。・・・・・・・あ〜もったいない。

午前4時半。薄明かりに伊良湖岬が見えてきたところで進路233度に変針。巨大コンテナ船、重量物運搬船・・・計8杯を交わして志摩半島にたどりついたのは午前8時。御前崎にいたときには西方浄土に思えた的矢湾は、二つの大きな定置網に囲まれていました。笹と赤旗に囲まれた定置網を交わして安乗港入港午前8時半。17時間ほどの高速でオーバーナイトを終えることができました。

もやう場所を探して港内をうろうろしていると、親切なおじいさんが係留場所を指示してくれました。「ここ留めて良いですか?」の問いに「俺が責任もってやるけ」のありがたいお言葉。ここにきてますます厚い人情。女房は女房で、近くにいたおばさんに買い物の場所を聴きに行くと、車でいくから一緒に乗っていけと言われて早速のドライブ。リアス式海岸の緑あふれる小さな港。この港もいっぺんに気に入ってしまったKasayanでした。
本当に感謝です。



安乗漁港

 


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