航海日誌 2

 

【4月26日(水)〜5月2日(火)】


 

4月26日(水)  下田港 川港 日和待ち
またまた深い気圧の谷が接近していて、午前8時から雨。低気圧が近づくにつれて東の風が強まり石廊崎の波高は4メートル前後が予想されるため、なんのためらいもなく日和待ち。これがレースの回航だったりすると、東が吹いて西へ向かうにはラッキーなどと思うのでしょうが、「がんばらない」Kasayanは朝から下田温泉につかることにしました。(たったの340円で温泉)朝から温泉に入り、湯上りのビール。天気に見放され、下田ってこんなに遠かったっけ・・・・・などとムシャクシャしていた気持ちも一変に吹っ飛ばすことができました。

 

そこで早速、気象庁発表の週間天気図(6コマ)とFEASというアジア地域の向こう一週間の高層・地上天気図をダウンロードし、この先一週間の天気をじっくりと検討することに。
もと同僚の気象予報士(現在某放送局のお天気おにいさん)から週間予報に関するアドバイスメールをもらっていたので、彼の見解と照らし合わせながら解析。気象庁発表の週間予報では、一見天気マークだけ見ると晴れマークが多いのですが、実際は、こまめに北日本中心に低気圧が通過して、傾向としては、引き続きめまぐるしく天気が変化し、晴れても西ないし、南西風の強まる状態が続きそうだという結論に達しました。
今の所、明日の天気は晴れても西風が猛烈に強く吹く予想。石廊崎をまわり、御前崎まで進むにはまったくの向かい風。波高は3メートルないし4メートルの予想ですが、石廊崎では多分その1.5倍の波が立っていることでしょう。

 

多分あすも日和待ち。目の前にコインランドリーとガソリンスタンドがあって、歩いて5分のところに温泉。3分で、立派なスーパーと船具屋まで。日和待ちの環境としてはこれ以上のところはありません。天気に対してストライクゾーンの小さい、26ftのGoldenWistaria号の歩みは尺取虫よりも遅いかもしれませんが、安全第一。五月に入り、毎日毎日走れ過ぎて、晴天の微風の日に、休息日などを設定するような情況を夢見つつ今度は焼酎のお湯割にしよう。

 

 

4月27日(木)  下田港 川港 また日和待ち
午前3時に、「ビュオー」という大きな音がして、最後の強風が吹き終わりました。どうやら寒冷前線が通過した模様。港外では相当の波が立っていたと思われますが、港深くはいった川沿いのこの泊地は風がやや吹き込むものの、波は立たず、絶好の避泊地でした。

午前8時、まだ残っていた小雨もやみ、雲の切れ間から青空も顔を出し始めています。港内ではほとんど無風。間違いなく、吹き返しの西風が吹く前の一時の風の止み間。せいぜい4〜5時間の平穏なはずなのですが、一応、各地の風向風速をチェック。次の目的地である御前崎ではすでに西風が10メートル。神子元島は南西7メートル。そして石廊崎は西北西4メートル。大島は風向が反対の北北東12メートル。アメダスでは、相模湾から東では北、ないし北東の風の場。御前崎より西では、すでに西風の場。伊豆半島付近だけがそれぞれの風の場の合い間に入っていることがわかりました。また、午前6時の速報天気図(午前6時実況)を見ると、低気圧の中心が関東南岸と、日本海にあって、ゆっくりと東進中。伊豆方面はこの二つの低気圧の間にあって、比較的気圧傾度の低い状態になっていて、一時的に風の弱い状態が作り出されているようです。これらの低気圧が東へ進むにつれて西風が吹き上がってくるはず。なんですが・・・・・・・・・・・・・・・・

昨日は終日雨に降られ、出航したい気持ちにかられているKasayan。午前6時に出航していたら、西伊豆の妻良港まででも行かれたかも・・・・いや、昨夜の強風の名残のうねりが石廊崎でひどかっただろう?・・・・・・・・などと考えてしまいます。やはりストライクゾーンの小さなGoldenWistaria号の安全を考えて、今日も日和待ちを決定。晴天、そして気温は初夏を思わせる程に上がるはずですが、風にはかないません。万が一、予想が空振りになっても、前3航海はヒットになったので、よしとすることにしました。空振りは許せますが、見逃しは許せません。

気象庁予報では、明日になると、一見、西高東低とも言える気圧配置になって、ミニチュアの大西風が吹く予想にななっています。そうなると下田で3日間の滞留となりますが、次期が悪いと思いつつさらにもう一日下田で状況の好転をまちたいと思います。
がんばらないけど、くじけない。くじけないとは日和を待つことにも言えそうです

下田名物八艘飛び

 

4月28日(金) 下田港 川港 またまた日和待ち
昨日の昼から吹き始めた西風は、夜に弱い前線が通過してからさらに強まり、今朝6時の段階で、石廊崎、御前崎ともに西または北西の風が17メートルにも達しています。とても石廊崎を越えられる状態ではないので、3日目の日和待ちとなりました。またまた、晴天の強風。泊地の波は、どんなに風が吹いても穏やかですが、西よりの風だけは、周囲の山を越えて吹き降ろし、周りの船の舫いをピンと張り切り、ハリヤード(帆を揚げるロープ)をマストにパンパンとたたきつけます。

昨日、33ftのシングルハンダーと知り合いました。昨年初夏に日本海の敦賀を出発、北海道稚内まで北上し、津軽海峡を太平洋に抜けて南下。船の修理をしながら今年2月に下田にたどり着き、遠州灘を越えるべくすでに2ヶ月日和待ちを続けているとのことでした。キャビンに招き、ビールを飲みながら多くの情報を収集。地元の漁師から桜が散る頃には天気が安定するとの話を聞いていたけれど、丸一日、風が収まるということが無いと嘆いていました。下田はとっくに桜が散り、すでに山々の新緑がまぶしい季節に様変わりしています。

明日からはゴールデンウィーク。明日は朝のうち西風が残るものの、次第に風が収まる傾向。三浦半島や横浜など、各地のマリーナから下田や西伊豆を目指してヨットが出航するでしょう。5月1日〜2日に再び二つ玉の低気圧がやってくるので、これらの船が下田に滞留することが予想されます。多分、この川沿いの泊地は、横だきのヨットで川幅半分まで一杯にうまってしまうはずです。

すでに3日間下田に滞留しているKasayan。あす、御前崎まで進んでも最低5月3日まで4日間は御前崎で日和待ちは確実です。そこで、考えたのが、「西伊豆で遊んでチャンスをうかがう作戦」安全をみて航程7時間〜8時間の西伊豆安良里なら、朝、強風が残っていても、10時ころまで出港時間を伸ばして出港できるはずです。きょうの00Z(午前9時の観測に基づく計算結果)を解析して、午後からいつもの南西の吹き上がりが少ないことを確認して出発と出発時間を決定したいと思っています。

今夕は、先のシングルハンダーの紹介で、下田に33ftのヨットを係留している地元ヨットマンと交流することになっています。明日は、早くなるかもしれないので、早々に切り上げねば。

 

4月29日(土) 下田港 ⇒ 安良里港  30.4マイル
きょうからゴールデンウィーク。下田のヨット渋滞が予想されます。また、週間天気図から考えると、御前崎へ行ってもかなりの長期滞在が考えられるため、この際、御前崎ではなく、
せっかくここまできたのならと、駿河湾の中で、遠州灘を越えるために必要な五月晴れ、帯状高気圧の次期を待つことにしました。

午前3時起床。海上保安庁の通報では、御前崎は西北西10メートル。また日和待ちか・・・とおもいましたが、石廊崎は北西5メートル。風が北よりにシフトしています。さらに午前5時になると石廊崎は東北東2メートルまで落ちてきました。御前崎も西北西7メートル前後まで落ちています。6時出港を決定。高気圧の動向から考えて、午後から南西、あるいは西が吹き始めることは確かでしたが、大きく吹き上がる恐れもないと判断。御前崎の風速も落ちていることから御前崎行きについても再び心をよぎりましたが、万が一西風
が吹き上がったら、面倒なことになると考え、やはり安良里へ行くことにしました。

下田を出て、すぐにある神子元島と石廊崎の間には多くの暗礁や岩があって、多くの遭難事故が発生しているところ。下田を出てすぐに石廊崎に向けても良いのですが、昨日の西風のうねりが2〜3メートル残っているため、安全を期して神子元島へ十分接近し、内航船の航路の陸側に沿って石廊崎をまわることにしました。過去、石廊崎では辛い思いをしているので、念のため、ワンポイントリーフ。うねりと北東2メートルのため、機帆走で8時45分石廊崎通過。岬の神社に向かって手を合わせました。逆潮もなく、対地速度は5ノット前後。こりゃラッキーを思っていると、10年前経験した石廊崎の潮浪とうねりに襲われることになりました。およそ1時間。方向の定まらないうねりにもみくちゃにされながら、ようやく妻良に接近。どうやら西からの安定したうねりがでてきました。でも風は北で真向かい。クローズでセーリングしようとジブを開きましたが、息の短い北風でどうも対地速度が得られません。しかたなく機帆走。久しぶりに女房はキャビンで船酔い。一発ゲロ。でも驚きはその後の復活の速さ。すぐさま朝食のおにぎりの準備。この回復の早さのおかげでダブルハンドが成り立っているようなもの。

9時25分波勝岬通過。駿河湾東部を北上する海流に乗っているらしく対地速度は6ノットをキープ。時折7ノットに上がります。松崎沖からようやく南西が吹き始め、ジブを展開してセーリング開始。ちょうど流れ藻が多くなってきたので、プロペラを止めるにはちょうど良いタイミングでした。また安良里に向けての進路007度にはちょうど富士山がそびえています。富士山に帆掛け舟。まるで銭湯のタイル絵のよう。

10時50分、田子島を通過し、11時30分安良里入港。山に囲まれた港内は外海の暖かい南西風とは対照的に冷たい南東風が強く吹いていました。伊豆の山頂付近の冷たい空気が滑り落ちて発生する、「出し」とか「おろし」と呼ばれる風ですが、意外と強く、風速7メートル前後。漁船の荷物用倉庫前になんとか横付けすることができました。

新緑の山々に囲まれ、うぐいすの鳴き声の聞こえるこの港には数十艘のヨットが舫われています。こんな港に船を泊めている人たちをとてもうらやましく思うKasayanでした。

安良里港

 

4月30日(日) 安良里港 ⇒ 清水港 17マイル
朝、4時起床、安良里の朝は、小鳥のさえずりではじまります。
最新の予想天気図FSASをダウンロードして、アメダスの風向風速を確認。誰が予想しても良い天気になるのは間違えありません。午前中は北風。午後からは南西、夕方から南東か東に変わると考えて、ややクローズからアビームで行くことのできる清水港を目指すことにしました。御前崎は、あす通過する低気圧の後。

6時50分出港。港外でセールアップ。マストのスライダーを取り外す部分についているストッパーが馬鹿になっていて途中からスライダーがマストから外れるトラブル。たいしたトラブルではないので、セールをアップしたあと、ストッパーを接着剤で固定。(今度セールをはずすときにちょっとめんどくさいけれど)

10分で事を片付け、322度に船首を定めます。風は北北西の真正面。いずれ北東に変わるはずとメインのみで機帆走。ただ、どうしても対水速度が4.8ノット以上に上がらない。ひょっとしてプロペラに藻でも絡めたかな?などと思いながらもどうせ、今日は20マイル程度の距離だから、到着後に確認するか・・・と、のんびり構えるKasayan。

やがて風は北に変わり、フルにジブセールを展開して、昨日に引き続き、富士山をバックの悠々セーリングが始まりました。北風は大きな息をしているため、対水速度は5ノットまで上がったと思えば、3ノットまで落ちる定まらない状態。やがて2ノット台になったところで、エンジンを半開に加えてのんびりと4ノット。そろそろおなかの空いたKasayan。女房をコクピットに残し、キャビンへおにぎりを取りに。と・・・・・・・・・・・女房の悲鳴。コクピットに出ると、船の周囲は、巨大な流れ藻におおわれていました。慌ててエンジンをニュートラル。時はすでに遅し・・・。プロペラはガタン、ガタンという音を上げ、エンジンはまさに黒煙を
揚げる寸前。どうやら完全にプロペラに藻を絡めてしまったようです。ここは駿河湾のど真ん中。水深は1500メートル。幸いうねりも波も穏やか。命綱さえつけていれば・・・「ここで潜るしかないか」でもエンジンを2000回転に回すとどうにか2.5ノットで進むことができそうです。また、ちょうど3メートルほどの北風も。清水まで9マイル。微風の中、セーリングと、息も絶え絶えのエンジンで清水を目指すことにしました午前11時過ぎ。ようやく清水港湾口到着。同時に北風の最後の息も途絶えました。ここでセールダウン。のろのろと3ノット前後で港内へ。港内は奥深く、なかなか目的の清水ふなだまりにたどりつきません。11時50分。後進がまったくきかない中、ようやく着岸。
ところがこのマリーナ、外来艇を基本的には受け入れないとのこと。でも今日は日曜日、県の職員もお休み。マリーナのヨットマンたちは、突然訪れたよそ者に非常に優しく、目立たないバースに船を舫わせてくれました。

早速、4月の水泳開始。プロペラの形が判別できないほど巻きついた「ほんだわら」。
この状態で、たとえ3ノットでも走ったことが信じられないほど。スーパーの買い物袋いっぱいの藻が取れました。

トラブルの重なった今日ですが、終わりよければ全て良し。マリーナ前のショッピングセンターで買った釜揚げ桜海老と
桜海老のてんぷらのうまかったこと。さすがは清水。

 

5月1日(月) 清水港 日の出物揚場 日和待ち
昨日の今日のKasayan。少々早めの海水浴の後に書いたので、日付が間違っていたようです。

いつものように3時半起床。12Z(世界標準時、日本時間午後9時)観測による数値予報計算結果をダウンロード。すでに西日本は深い気圧の谷。ここ清水もこれから深い気圧の谷に入ります。ただアメダスの風向風速は、東海地方全般に微風域。レーダーアメダスを見ても強度の雨域は南海上と北陸に分散して東海はその間になっています。
御前崎まで28マイル。午後からは晴れるし、午前中でもオイルスキン(カッパ)を着て行けるかな〜という欲がふつふつと沸いてきましたが、欲張りは失敗のもと、一週間スパンで考え、思いつきで行動をしない。予定どおり清水での日和待ちに入ることにしました。明日以降日中は晴れるのですが、寒気の流入で午後は大気不安定、陸へ向かっての突風の可能性が考えられます。勿論、午前中に出発すれば御前崎へ行くのは可能と思われますが、その先、週間天気図によれば遠州灘越えは多分5日から7日の間になるはず。不便な御前崎より便利な清水での日和待ち作戦をこのまま遂行。3日か4日に御前崎を狙うことにしました。

バース(寝床)に寝転びがらラジオを聞いていると、気象庁から「大雨と落雷、突風に関する情報」が発表されたことを告げています。明日、明後日の寒気流入による荒天は予想以上になるかも。ゴールデンウィークなどの長期休みには気象庁も少々大げさに情報を発表する傾向にはありますが、ゴールデンウィークにクルージングしている多くのヨットの安全を祈らずにはいられませんでした。

午前9時、県庁が始まる時間を見計らって、清水港港湾管理局港営課に電話。
マリーナの外の水上警察横の岸壁を紹介されシフト。目の前の清水マリンビル3階の港営課へ赴き、大型船と同じ「係留施設使用承認申請書」を届けました。トイレは目前のマリンビル一階の公共ロビーにあり、徒歩5分には海員会館があって17時以降300円で入浴ができます。そして10分でガソリンスタンドとショッピングセンター。またまた、暮らしやすい場所を見つけてしまいました。これで2日間の滞在は快適になりそうです。

港営課で、聞くところによると、今日の午後には三浦半島から「衣笠」というヨットが来航するとのこと。Kasayanが以前勤めていた気象会社の友人が乗っている船です。ひょっとしたら、清水で久しぶりの再会が出来るかもしれず、二重の楽しみができました。

・・・・・・と書いているうちに青空が見え、5月の日差しがさしてきました・・・・ちょっと心は・・・・・・・・・・・・・まあいいや。

今日から海の緊急電話、「118」番が開始されます。海の緊急信号はSOSやメーデーですが、118開設を5月1日にしたのは、メーデーだからかな・・などとつまらないことを考えつつ、この番号だけはかけないで済むように、安全には安全を期して進みたいと新たに誓うKasayanでした。

清水港(遠景はエスパルスドリームプラザ)

 

5月2日(火) 清水港 日の出物揚場 日和待ち
昨夜は、ヨット衣笠で、清水のヨットの重鎮、ぱる号で太平洋、大西洋を横断した内海氏、ヨットイラストでは知らない人がいないという国方氏とお会いし、マグロ、かに、アジと海の幸盛りだくさんで、宴会となりました。清水で、ヨットの大先輩たちとお会いし、激励をいただき、光栄至極。ちょっとプレッシャーも感じてしまいました。

そして朝。いつものように午前3時に目を覚まし、日課の天気図解析。午後からは寒気が南下して、大気不安定、午後の突風が心配されます。また、気象庁からは相変わらず情報が発表されています。午前5時、衣笠に天気図をプレゼント。舫いを解いて、わかれを告げました。

きょうは、清水市内の探検。そして、安良里で取れてしまった、歯の詰め物を詰めなおしてもらうために、歯医者へ。無事、歯は元に戻り、一昨日のプロペラ同様、船も身体もメンテナンスが完了しました。

午後は、船から30メートルのところにある、清水マリンビル一階の公共ロビーで、窓の外に船を見ながら、備え付けの「KAZI」誌をのんびりと2時間購読。すると、目の前に見覚えのあるヨットが・・・・。Kasayanと同じ横浜ベイサイドマリーナに停泊している、マゼランメジャーと喜久洋が入港。どちらも50Ftもある大型艇。さっそく舫いをとりに岸壁へ。またまた、ホームポートから120マイルも先で知り合いに追いつかれてしまいましたが、今夜もにぎやかになりそうです。

「まだ、こんなところにいたの?」と言われてしまいましたが、天気の幸運と、50ftの大型艇。Kasayanはマイペースです。4日に無事出港できることを祈りながら、夕方の天気図解析に入りましょう。

ヨット衣笠(後で手を振っているのが国方さん)

 


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