Boat and Reel 1999年秋号より転載

最終回

テレビやラジオの天気予報の見方から始まり、低気圧、高気圧の仕組み、そして風を中心とした身近な局地的な気象現象について説明してきましたが、今回は実際に私がボートフィッシングに出かけることを想定した架空の物語の中で、釣行にあたっての天気予報の有効な利用方法についておさらいしてみます。

 

1、 来週の釣行にむけて

199○年9月の月曜日の朝。寝起きは今一つ。昨日のワンデークルージングで少々飲み過ぎたこともあって、まぶたが重い。いつものようにテレビのスイッチを入れると、ワイド番組の天気予報コーナーが始まった。今日の天気に続いて週間予報が始まると、眠気が吹き飛んだ。実は、昨日のクルージングの後片付けに船を洗っていると、隣のバースに25フィートのボートを舫っている関口さんから声がかかった。次の日曜日、一緒に20マイルほど離れた岩場まで出かけないかと誘われたのである。
 初めてのポイントでもあり、いつも必ず何かしら釣り上げてくる関口名人のお誘いに乗

らない手はない。東京の週間予報は、火曜日までは晴れ、水曜日、木曜日と低気圧が通過して天気はぐずつき気味。金曜日から日曜日にかけては、次第に回復。楽しみの日曜日は晴れマークが一つ。降水確率も10パーセントと文句ない予報であった。週間予報では、東京もフィールドである横浜も天気にさほどの差は無い。次の釣行はきっとビールのうまい絶好の天気であると確信した。

 

2、 火曜日

火曜日の朝、いつもの天気予報を見る。昨日と同じく、日曜日は晴れマークが一つ。

ただ、金曜日の天気が晴れ時々曇りのマークから曇りマークに変わっている。体制に影響はなし。釣行を確信して会社に出かけた。そして昼休み。いつもの蕎麦屋でもり蕎麦を食べていると、昼の天気予報が始まった。明日の予報、水曜日はどうやら晴れるらしい。ただ週間予報は、今朝の予報とずいぶん変わっている。今朝までは水曜日と木曜日に傘マークがついていたのだが、昼の予報では木曜日と金曜日に傘マークが並んでいる。そして、晴れマークだった土曜日は曇り。そして肝心の日曜日は曇り時々晴れになっている。「週間予報は、毎日午前11時に一回だけ更新される」から、この週間予報は、最も新しい予報とである。どうやら気象庁の週間予報の計算結果は、天気の悪化のタイミングを遅く計算してきたらしい。

そこで、天気図をもとに天気の流れを把握してみることにした。待ちきれない私は、会社に戻るとすぐに、デスクのパソコンでインターネットのブラウザを立ち上げた。http://www.wni.co.jp/cww/(ウェザーニューズ社)やhttp://tenki.or.jp/(防災気象情報サービス)のページを開き(図1)、実況天気図と予想天気図、そして気象衛星ひまわりの雲画像を眺めてみる。すると、中国大陸から東シナ海に前線が延びてきており、沖縄の東海上でひときわ白く光る雲の沸いている所で前線が上に折れ曲がっている。どうやら低気圧が発生しそうな気配である。多分この低気圧が日本方面に進み、天気を悪化させることになるらしい。この低気圧が太平洋側を進むのか、日本海側を進むのかで天気は大きく変わってくる。週間予報の計算結果は天気の悪化のタイミングを遅らせる傾向にあることから、最悪の場合、週末にこの低気圧の影響を受ける可能性があると考え、今後の動向をマークすることにした。

せっかくの釣行に暗雲がたちこめてきた。

 

3、 水曜日

「天気予報(短期予報)は一日に5時、11時、17時の3回発表される。」週末の天気の傾向を知るために、明後日金曜日の最も新しい予報から低気圧の動向を考えてみることにした。このためには、その日最後、17時に発表される予報の「明後日」の予報を見るのが良い。しかし、テレビやラジオの天気予報では明日の天気はしっかりと伝えてくれても、明後日に関しては、おおざっぱなエリアの週間予報だけ。ましてや地元横浜の明後日の天気を放送してくれる放送局はほとんどない。インターネットで調べれば良いが、今日はあいにくの出張である。モバイル用のパソコンを会社に忘れてきた私は、電話の177を使って明後日の天気を確認することにした。「11時以降なら、177で明後日の天気を聞くことができる。」やはり金曜日の天気は、昨日見た週間予報と変わらず雨である。また、予報では「南よりの風が強く」と報じている。ということは、低気圧は横浜の北側を通過する可能性が高くなってきたらしい。「低気圧が北側を通過するときは、温暖前線と寒冷前線に挟まれた範囲で南西の風が強く吹く」傾向にある。案の定、帰宅後テレビで見た明日木曜日午前9時の予想天気図では、沖縄付近で低気圧が発生、北九州付近を通過、北東に進むと報じていた。

 

4、 木曜日

木曜日ともなると週末の天気がますます心配になってくる。

早速出社前にテレビで見た、今日の予報は、南東の風、午後から曇り、夜には所によって雨。いよいよ低気圧が日本海を進んでくるようである。お昼の一番新しい週間予報では、土曜日は曇りから曇り時々雨、日曜日の天気は曇り時々晴れになっている。

「時々ということは、現象が断続して起こり、その合計時間が予報期間の二分の一未満」ということ。つまり、土曜日は一日雨が降りやすく、日曜日は、結構晴れ間が出そうだということである。どうやら低気圧が東日本の日本海側を進むのは明日金曜日。でも、低気圧から西に伸びる寒冷前線が、なかなか東日本を通過せず、土曜日いっぱいかけて日本海から太平洋に降りてくることになるらしい。寒冷前線の通過が日曜日まで持ち越すようなことがあれば、日曜日の天気は変わりやすく荒れ模様。釣行は見合わせなければならなくなる。テレビの夜の天気予報では、明日金曜日は予想通り雨。177で聞いた横浜のあさって土曜日の天気も、南西の風強く曇り一時雨、であった。土曜日に「一時雨ということは、雨が連続して降り、その期間が予報期間の四分の一未満」ということであり、週間予報より雨の降る時間が短くなるという予想である。前線通過のタイミングで一時的に雨が降るだけということらしい。こうなると前線の通過するタイミングが重要である。「寒冷前線が通過する直前は南西の風が強まり、通過のタイミングで激しい雨。直後は西よりの風が突然強く吹くことが多い。」もし、土曜日に前線が通過してしまったとしても、そのタイミングが深夜であるならば、釣行の日曜日早朝には、まだ西風が強く残っていることも予想される。

 

5、 金曜日

いよいよ週末。頭の中は、日曜日の天気のことでいっぱいである。

「朝の予報では、今日の夜9時の予想天気図が放送される。」

予想通り、北九州を通過した低気圧は、夜になって秋田県沖の日本海を北東に進む。そして、問題の寒冷前線は、今夜にはまだ北陸付近までしか南下しない。寒冷前線が早く南下して、太平洋側に抜けてしまえば心配はなくなる。前線の南下が早まることを祈りながら、一週間の仕事をかたつけることにした。 

帰宅後、天気予報を見ると、土曜日午前9時の予想天気図では、低気圧が北海道の北に進み、寒冷前線は、まだ本州中部にかかっている。前線が南下する速度が遅くなっている。そして、明日土曜日の天気は、引き続き曇り一時雨、日曜日は曇りのち晴れに変わった。

 

6、 土曜日

朝から南西の風が強い。寒冷前線が南下してきている証拠である。

自宅でもおよそ10メートル前後の風が吹いているので、海上では多分15メートルから20メートル前後の強風になっているに違いない。インターネットで実況天気図とひまわりの雲画像を見ても、雲の帯が東北から関東北部に横たわり、しっかりとした寒冷前線が確認できる。ただ、アメダスの降水量http://tenki.or.jp/(防災気象情報サービス)を見ると、関東の北部では所々で弱い雨が降っているだけである。どうやら雨についてはたいしたこはなさそうである。ただ、アメダスの風向風速を見ると、やはり沿岸部を中心に風が強く、関東北部の前線が通過中と思われる付近では南西の風と北風がちょうど線のようにぶつかっている。午前、午後と実況天気図とアメダスの風向風速を見ながら前線の通過のタイミングを考えたが、どうやら前線通過は深夜になりそうである。土曜日最後の17時発表の天気予報、夕方のテレビを見ると、日曜日は、曇りのち晴れ、明け方まで所により一時雨。これで深夜の前線通過はほぼ確実となった。そうなると船を出す時間は、残念なが

らやや遅らせたほうが良さそうである。177の風と波の予報も、風は8メートルのち5メートル、波は2メートルのち1メートルを予想している。関口さんに電話をして、出航の時間を午前9時に決定した。

 

7、 釣行当日

遠足を前にした小学生のように朝5時に目がさめてしまった。

「朝の予報は5時に発表され、放送されるのは早くても5時15分以降である。」6時前の天気予報を待ちわびる。なんと天気マークは太陽マーク一つ。外を見ても薄い雲がかかっているものの、青空が顔を出している。どうやら前線は通過してしまったらしい。念のため、インターネットで午前3時の実況天気図を確認する。「実況天気図(速報天気図)は3時間に一度発表される。」午前3時にちょうど東京上空に寒冷前線。外へ出てみると風向きは北より。間違いなく前線は通過している。あとは天気は良くなるばかり、風の強まる気配も無い。マリーナに到着し、海上保安庁の電話サービスに電話をかける。(046-844-4521)伊豆大島では南西の風が10メートルであるが、洲崎、観音崎では西風が6メートル前後。観音崎の視程は20キロ。文句無しの船出である。きっと関口名人の助けで、釣果は約束されるに違いない。

 

8、 おわりに、

一週間にわたる天気予報の見方について、これまで連載してきたことをおさらいしながら物語仕立てで説明してみました。実際私もこのようにして、出航を決定していますが、天気の基礎知識は別として、重要なことは、如何なる情報ソースを如何なるタイミングで見て判断するかということだと思います。昨今、インターネットはモバイルでも簡単に使用できるようになって、本当に便利な道具として普及してきました。是非有効な利用をお勧めいたします。また、インターネットを見ることができない方でも、情報収集の方法はいくらでもあります。テレビ、ラジオは勿論、先にのべたように177もテレビやラジオに欠ける重要な情報を提供してくれる捨てがたい情報源でです。連載初回でご説明したように、天気予報は時事刻々と変わるもの。最新の情報を利用するように、一日3回の予報発表の時間を頭にたたき込んだ上で、有意義に活用していただきたいと思います。

これをもって連載を終了しますが、読者の皆様の安全なボートライフに少しでもお役に立

てたのならば幸いです。

 

気象ゼミナールに戻る