Boat and Reel 1998年初夏号より転載

 

海上で恐い思いをしないために

読者のみなさんのうち、ほとんどの方が船舶免許をお持ちでしょう。

その船舶免許試験の中には、天気図の見方に関する出題があったはずですが、覚えておられますか?

 

寒冷前線前後の風向の変化、春先の急速に達する低気圧・・・・・等々。とっくに忘れてしまったという人もいらっしゃる反面、「毎週釣りに行くのだから、天気予報くらい見るのは当然。もっと勉強しているさ」とか、「日頃から新聞の天気図とにらめっこして、週末の釣行を考えているさ」という人も多いと思います。中には、週末にはラジオを聞きながら自分で天気図を書いて、天気の移り変わりや釣果に頭を悩ませたり、ボートにウエザーファックスを積み込んで、リアルタイムで天気図を入手している熱心な人もいるでしょう。

 

ボートフィッシングを長年続けていると、一度は天気の急変に遭遇し、恐い思いをすることがあったと思います。穏やかな陽気の中、のんびり釣りイトをたれていたのに、急に強い風が吹き始め、いつのまにか波が高くなっている。あわててマリーナに帰ろうと思っても、高い波に叩かれてなかなか前に進まない。波頭は白く砕け散り、海水がデッキ上を流れ、頼りの仲間は船酔いでぐったり・・・・・。考えただけでもゾッとする光景です。

おそらく、天気について熱心に勉強している人ほど、以前に恐い思いを経験した方ではないかと思います。そういう私がそうでしたから。

 

今回は、海上で恐い思いを2度としないため、また、一度も恐い思いをしないですむために、知っておきたい天気予報の話をいたします。とはいっても、むずかしい気象学の話ではありません。いつも見ているテレビやラジオの天気予報を、正しく利用する方法についての説明です。天気予報は海に欠かせない「クスリ」ですが、市販のクスリのように、正しく使用しないと恐ろしい副作用があるのです。

 

天気予報は鮮度が命

船舶免許の教本や、航海術の本を読むと、天気図の見方や観天望気の詳しい説明のあとに必ず”最も新しい天気予報を見ること”と、書かれているものです。また、「いつも釣行前に、必ず天気予報を見ている」とか、「釣行の前日には必ず天気予報で翌日の天気を確認しているから大丈夫」という話をよく聞く。また、釣行当日朝の新聞の天気図を見て、天気傾向を判断しているという話も聞いたこともあります。

でも、テレビやラジオ、新聞などさまざまなメディアで報道される天気予報を見る時、予報の内容がいつ「発表」されたものかについては、あまり意識していないのではないでしょうか。あなたがいつも、釣行前に見ている天気予報は、本当に”最も新しい天気予報”なのでしょうか。

 

新聞のテレビ番組欄を見ると、朝とお昼前、そして夕方7時前に天気予報の番組が集中しています。勿論、お出かけ前で視聴率が高く、見る人が一番天気予報を必要とする時間帯であるということもありますが、テレビ局だけではなく、気象庁も、国民のニーズに合わせた時間帯に予報を発表しているのです。


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天気予報は、午前9時と午後9時の観測データをもとに、気象庁から1日3回、午前5時、午前11時、午後5時に発表されます。この発表をうけて、放送局、新聞社、電話会社は、天気予報を報道しています。つまり、早起きして家を出る釣行の場合、早朝、午前5時前の天気予報を見ても、じつは前日の夕方、午後5時に発表された予報を見たことになるのです。はたして、12時間も前に発表された予報が、最新の天気予報といえるでしょうか?この場合、最新の”天気予報番組”を見たとしても、最新の”天気予報”を見ていることになってはいないのです。

そこで早朝、午前5時に家を出発する場合は、出航前にマリーナや船宿で、午前5時発表の予報を確認する必要があります。私の知る限り、テレビの天気予報の大半は各予報発表時間の遅くとも15分以降の天気予報なら、確実に新しい予報を使っているようです。

従って、朝は午前5時15分以降、昼は午前11時15分以降、夕方は午後5時15分以降を見ることが、天気予報を見る正しい時間帯ということになるのです。

釣行当日の朝刊の予報は、配達時間の関係から、当日の午前5時の予報ではなく、前日の午後5時の予報になっているはずです。新聞の天気予報は、誰でも手軽に天気図を入手できる手段として重宝しますが、予報は、発表1回分古い、ということを覚えておく必要があります。

 

知りたい予報内容の発表時間を知る

一般的に、今日・明日・明後日の天気予報を”短期予報”といいます。この短期予報には、天気、降水確率、予想気温などがあるのはご存知のとおり。(表一1)に、1日の短期予報の発表時間と、発表の内容をまとめてみました。

 

予報

予報対象

午前5時発表

午前11時発表

午後5時発表

府県天気予報

一次細分地域

風(今日、明日)

天気(今日、明日)

最高気温(今日日中)

 

6時間降水確率 (時)

(06−12、12−18、

 18−24、00−06)

 

波高(今日・明日)

風(今日、明日、明後日)

天気(今日、明日、明後日)

最高気温(今日日中)

最低気温(明日朝)

 

6時間降水確率 (時)

(12−18、18−24

00−06、06−12)

風(今夜、明日、明後日)

天気(今夜、明日、明後日)

最高気温(明日日中)

最低気温(明日朝)

 

6時間降水確率 (時)

(18−00、00−06、

06−12、12−18、

18−24)

週間天気予報

府県予報区

 

天気(明日から7日間)

日降水確率予報(明後日〜)

日最高最低気温(明後日〜)

週間天気概況(明日〜)

必要に応じて午後5時に修正発表あり。

 

午前5時には、”今日”と”明日”の予報が発表されますが、”明後日”は発表されません。また、予想気温も当日の最高・最低気温だけが発表され、”明日”の気温は発表されません。知りたい情報にも、発表される順番があるのです。

たとえば、島めぐりの長期釣行のために”明後日”の最新の天気予報を知る必要があるならば、出発した日に、午前11時発表の予報を見ることがキーポイントになることが、お分かりいただけるでしょう。また、週末の釣行を決めるのに、早くも月曜日から、週間予報の移り変わりに一喜一憂している人も多いと思います。ただ、週間予報もご覧のように、発表される時間が決まっています。週間予報は、毎日午前11時に発表され、訂正があれば午後5時に再度発表されます。従って、出勤前、朝の天気予報で週間予報を見ても、実は前日に晩酌をしながら見た、夕方の天気予報と同じ内容なのです。一方、新聞の予期予報は古いと書きましたが、新聞の予報でも週間予報に関しては最新の予報ということになります。

結局、知りたい予報の内容にも発表される順番があり、”最も新しい天気予報”を利用するためには、これらの順番を知っておく必要があるのです。

 

新鮮な天気予報を入手する方法

それでは、どのようにして最新の天気予報を手に入れればよいのでしょうか。

日本の場合、”気象業務法”という天気予報に関する法律で、気象予報士は局地的な予報、俗にいうピンポイント予報しか出してはいけないことになっています。このため、どのテレビチャンネルに合わせても、当然ラジオも新聞も、気象庁が発表した、まったく同じ予報が流れます(○○地方という予報はダメですが、○○市ならOK。県庁所在地名で表示させる予報形式で、実はかなり気象庁意外の独自予報も放送されていますが)。つまり日本では、天気予報をどのような方法で入手しても、情報の内容はほぼ同じということになるのです。

 

私たちがいちばん手軽に、最新の天気予報を入手できる方法にはまずテレビがあげられるでしょう。”気象ひまわり”による雲の様子から始まって、天気図そして各地の天気まで、短時間に多くの情報を視聴的に得るためには、最高の情報ソースといえます。最近はテレビも小型化し、液晶テレビも1万円以下で手に入ります。私もマイボートには、カー用品店で買った液晶テレビを持ち込んでいます。電源はバッテリーの12ボルトで0Kだし取り付けも簡単、車の振動に耐えられる信頼性もあります。百聞は一見にしかずといいますが、ラジオで概況を聞いて頭の中にイメージしたり、気象通報でつたない天気図を書いて天気を予想することに比べれば、よっぽど手軽で確実。この方法が一番お勧めできます。

 

ラジオで天気予報を入手する場合、私は気象通報より、普通の天気予報をお勧めします。NHKの気象通報を聞きながら天気図を書いて天気を予想することは勉強になるし、慣れてくると結構楽しいものです。でも、素人が予報することは、かなりの危険をともないます。気象通報で得られる天気図は、地上天気図だけ。それだけを見ると、教科書どおりの気圧配置であっても、上空の大気の状態はまったく異なっていることがよくあるのです。地上の天気図だけでは、低気圧が発達するのか衰えるのか、速度が速くなるのか遅くなるのかなどは、まったく分からないのです。

気象庁の予報は世界に誇るスーパーコンピューターと、熟練の予報官が地上から高層までのあらゆる天気図と知識、そして経験によって導きだしたものです。自分で書いた天気図やそれをもとにした予想は、予報を裏付ける予備情報にとどめておくべきでしょう。また、自作の天気図は気象庁の天気予報が外れるなら、どのように外れるのかを想定するための材料にしておくのが、最良の使い方ではないでしょうか。こうしておけば、天気予報が外れた場合、避難港や装備を考えておくことができるからです。

 

そして、天気予報入手に忘れることのできない方法として、NTTの177があります。ボートフィッシングでは天気に加え、波と風の予報が欠かせません。テレビやラジオの天気予報で、波や風の予報を放送する番組はほとんどありませんが、177では、必ずこれらの予報を教えてくれます。また、潮汐も知ることができるし、いつでも聞くことができるという大きなメリットがあります。


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最後に付け加えるとすれば、最近一般化してきたインターネットを利用する方法があります。現在、日本では30社以上の、民間の気象情報会社が気象ビジネスを行っています。そして私の知る限りでは10社以上の気象会社がインターネット上で天気予報合戦を繰り広げています。内容は、テレビの天気予報に近いものから始まって、気象庁からの生の予報電文、高層天気図からひまわりの映像、最新のアメダスによる各地に気温や風向風速の状況、さらには漁業関係者には欠かせない、気象衛星N0AAによる海面水温の分布まで多種多様。これらの情報を使って、小さな気象会社を作れるほどの情報があふれています。携帯電話が普及し、ボートの重要な通信手段となっている今日、ビジネスマンに普及しつつあるモバイル端末は10万円以下で入手できますが、これらの情報はウエザーファックスに勝るとも劣りません。近いうちに私もこの方法で天気予報を入手しようと考えています。

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正しい天気予報の使い方についてお分かりいただけましたでしょうか。でも、気象庁の発表する予報は、県を2から3分割した、広いエリアの予報です。実際に釣行する、お気に入りの根や入り江での風や波の状態は、岬や山、湾の形状などに影響され複雑になるものです。

次回は、そのようなピンポイントの天気について、説明したいと思います。

 

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