おねがい*ティーチャー SS (before story)

 「すべてのはじまり」  − ファーストコンタクト −


「ウェーブドライブ・アウト。通常空間復帰。予定座標ぴったりですね」
「ちょっとボロだが、へんな癖が無い分、飛ばし易い船だぞ、な、航法士」
「船長、ボロは余計ですよ。主機は絶好調なんですから」
「ところで船長、さっきパラレルスペースにあった低ポテンシャル領域の事を、航路局に報告しなくていいんですか?」
「大丈夫だ。銀河外周方向への移動だし、速度も遅い。この辺りは我々の様な辺境監視関係者でもない限り、船が来ないような辺境だ。それに、報告しても書き込むべき航路図さえ出来ていない。もしも船がいたらそれは海賊船かもな」
「海賊船が襲うような客船や、貴金属輸送船が居る訳がないですよ。それよりも幽霊船がふさわしいようなところでしょ」
「幽霊船ですか・・、船長は見たことあります?」
「そんな物見たらすぐに引退するさ。その前にまあ、三流新聞社にネタを提供してからだな。そういえば、君は辺境は初めてだったんだな」
「はい、まさか研修地がこんなところになるなんて」
「これが駐在監視員の派遣に先立つ我々の仕事場だ。覚えておいてくれ、未来の監視員殿」
「そして、僕のデータの発信地にもなる」
「ちゃんとした資料作成、お願いするわよ」


「6番目の監視ブイの設置完了しました。動作確認願います」
「了解っと、起動確認。自己診断ルーチンクリア。受信データ、異常無し。パラレルスペース側のアンカー座標も安定してる。動作正常っと」
「よし、大分なれてきたな。次の予定座標へ移動するまで一息入れよう。あと3つだ」
「私、お茶いれてきますね」


「あら? これはなにかしら? 船長!」
「ベクトルが惑星公転面から外れて特異だし、自然物の反応じゃないぞ。アクティブでソリトンを撃ってみるか」
「了解っと。収束度は上げ気味に、出力はこんなもので」
「ああ、対象惑星には気付かれるなよ」
「まだそこまでの技術力はなさそうですよ。大丈夫ですって」
「そんな事言って・・、この間の調査でうっかり原住生物の知覚周波数を叩いて大騒ぎになったっていうのは誰でしたっけ?」
「うっ、なんでそれを知ってる?・・・」
「その辺りにしておけ、場合によっちゃ余計な仕事が増えるぞ。ディスラージュモード再確認」
「ディスラージュモード確認します。正常に作動中。これ嫌なんですよ、燃費が落ちるから」


「相対速度合わせ。よし、修正加速も無し。新入り、いい腕だな」
「さっきからの精密操船で慣れましたから。でもなんでこんな時にも手動で操船させるんですか?」
「船長が時々暇つぶしにやらせるのさ。今回は暇つぶしにはならなかったみたいだけどな」
「でも遭難船の探査の時になんて、時間が迫ってるんならコンピュータ任せの操船の方が早いですよ」
「いいか、コンピュータは計算しか出来ない。人間ならその上を行く創造的な演算が出来る。どうしょうもなかったら、全部の安全装置を切って完全手動で危機を脱出するくらいやってみろ」
(でたな、船長のコンピュータ不信論)
「じゃあ、船長はまりえが不具合の時なんかに、自力で12次元空間方程式を手動で計算してでも転移するんですか?」
「それは・・。これとは話が違う!」
(負けたな)
「なにか言ったか?」
「いえ、べつに僕は・・」
「・・・・・・・・」


「じゃあ、私が出ます」
「転移先の気圧、気温は、ほぼ真空中だ。Bクラスの環境装備と銃を持って行け。一応ファーストコンタクトだから失礼の無いようにしろよ」
「一応、予備訓練でやったことはありますけど・・・、生命反応がないんだから、ファーストコンタクトにはならないと思いますが、了解しました。無重力なのでトラクターフィールドを使います」
「別に構わないが、間違って妙な物を巻き込むなよ」
「そんな事はしません。では準備に行ってきます」


「装備完了しました。転移許可願います」
『わかった、転移先は漂流船の船首の操縦室らしき場所にしてある。座標の回転は同期を取ってあるが、頭をぶつけないように気を付けろ。挨拶はちゃんとするんだぞ』
「はいはい、わかりました。まりえ、空間転移。最優先事項よ」
『のっ!』


「転移完了。ライト=ON、フィールド=ON、マッピング=スタート、スキャン」
(この船が対象惑星から来たのなら、外見はほぼ同じ生命体ってとこね。さすがにこの環境じゃ生きてはいないか・・・。しまった、真空暴露の冷凍乾燥の死体ってエグイのよね。実物は見たくなかったけど・・)


「あまりに古典的なので自信がないのですが、コンピュータらしき機材を発見しました。データを取り出せるか判りませんが、まりえを1体、インターフェースに器用な奴を転移して下さい」
『あいつの赤まりえを送らせる。いいな?』
『いいですけど・・、変なデータを食わせて病気にさせないでくれよ』
「原住生物の言語解析はそちらの領分ですわよ。それのデータが増えていいじゃない」
『また仕事が増えるのか・・・』


「この扉の向こうはまだ、圧力があるわね・・。船長! 隔壁で圧力差がある為、再転移します。座標の設定をおねがいします」
『おう。それからスキャンの結果、残りはその向こうにいる3人のようだ。確認頼む』
「あと3人につき合えばいいんですね。ふう、がんばります」


「こっちの区画で5体目を確認、生命反応無し。まあ、この環境じゃあ絶望ですね。あとはどこにいます?」
『きみの後ろの部屋の中だ。おそらく最後の2体だろう』
「電力がなくても扉が開けられる設計だけは誉めた方がよさそうね。よいしょっと・・。6体目、女性だわ。7体目男性みたい。手を握っているわ。恋人同士だったのかも。生命反応共に無し・・。あれ、ちょっと待って。これは・・」
『どうした? なにがあった? こっちにはデータが来てないぞ』
「いえ、でも、まさか・・。7体目の男性に、計測限界ぎりぎりで反応があります・・。うそ?!、生きているの?」
『そんなばかな! その環境でいくらなんでもありえないだろう!』
「待って下さい。彼だけは冷凍乾燥の影響を受けていないように見えます。まるで眠っているかのように・・」


「・・・。判った。これは我々にとって未知の現象らしい。航法士、十分な病院設備を持っている宇宙港、連盟加入惑星、病院船を探して最短跳躍コースを組め。”彼”を収容、搬送する」
「まってくださいよ、これは連盟未加入の・」
「かまわん。それとも我々が直接あの惑星に彼を送り届けるというのか? それこそファーストコンタクトで、いくら穴だらけの連盟法でも逃げられないぞ」
「・・・。わかりました」
「ちょっと待っていろ。そのままだと気圧差と温度差がありすぎて余計な影響が出るかもしれない。予備の居室を1つ密閉して、環境をそちらに合わせてから転移収容する」
『了解しました、待機します』


「航路諸元設定完了しました。目標は約78光年先のΔ領域中継ステーション・オクスフォルに入港中の病院船サーラマルア。ですが・・・」
「どうした?」
「連盟宇宙軍所属の艦船です」
「・・・、仕方あるまい、人命優先だ。それにこれは俺達が考える問題じゃない。先に病院船にダージリングウェーブで状況を送っておいてくれ」
「いま、書いてますけど・・・。なんて書いたらいいんですか・・これ」
「そうだな、”自力でコールドスリープに入った患者を解凍してくれ”とでも」
「本気ですか?」
「他に良い文面があったら工面してくれ」
「わかりました」
「それと、この船のベクトルも計測しておけ。あとで事情聴取やら、実況検分やら食らった時にサルベージの際の手間が省ける。担当管理官には、俺から連絡をしておく」
「やっぱり、面倒なことになりましたね・・・」


(金色の髪の人・・。あなたは何者なの? 一体なにが起こったの? ほんとうに生きているの? もしも目が覚めたら、私に話してくれる? お願い、無事でいて・・)


<続く>
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