猫の好奇心 其の二
翌朝。

夕べのゴタゴタもあたしの睡眠にはまるっきり影響なくて、熟睡してスッキリとした目覚めだった。
どんなときでもよく寝てよく食べてが、シドの親父の教訓っていうか、うちの家訓なんだけどさ。それはこーいう場合にも効いているみたい。

とにかく爽やかに目覚めました。

朝起きてすぐに身だしなみを整えて、朝食の準備。
ユウナがルールーを手伝って食事の支度。ワッカが火をおこしている。
んっ?
3人足りない。
ティーダとおっちゃんとキマリの姿が見えないの。
どこいったんだろう?
あたし、ユウナに聞いてみた。
そうしたら食事の支度の手も止めずに、ユウナが答えてくれた。
「キマリなら水くみに行ったわ。ティーダとアーロンさんは二人してこの先の街道の下見に行ったの。モンスターとか調べるとか言って」
ユウナが教えてくれた、ティーダとアーロンさんの二人という言葉がアタシの中の琴線にピクンと引っかかった。
これはやはり、気になることは確かめなくっちゃいけないよねぇ?
「ねぇねぇユウナん。二人が下見に行ってから結構時間たっているの?」
「えっ?…うーん、そんなにって言う訳じゃないけど…でもそろそろ戻ってくる頃じゃないかしら」
あたし、ユウナの方を見て明るく言う。
「そっか。じゃあさ、あたしティーダ達のこと呼びにいってくるね。朝食もそろそろ出来るんでしょう?だったら二人にご飯出来たよーって、教えに行ってくるね」
言うなりあたしは走り出す。
後ろの方からユウナとか、ルールーの止める声とかが聞こえたような気がしたけど、あたしの耳には届きませーん。
早いとこ二人の後を付けて行かなくっちゃなんだもーん。

街道の下見ですって?
そんなもんおっちゃん一人で十分事足りるじゃん。
なーんでティーダと二人で行くのかって突っ込みたいじゃないの。それとも二人きりになりたかったのかな?…なんて、邪推したくなるよね。
これはもうあたしの中の好奇心がうずいちゃうじゃない。
もしかしたら決定的な場面に遭遇出来るかもしんないしぃ?
…てなわけで、あたし気が付いたら全力疾走していたのね。


程なくして、森を抜けだだっ広い街道の端っこに付いた。
まだ朝早い時間のせいか、さすがに通り過ぎる人なんかいなくって、結構見通しが良い。

さーて、あの二人は…っとあたりを見回す。
おー、いました。いました。
おっちゃんの赤い服って、遠くからでも目立ってて探しやすいったらないじゃないの。
ティーダの金髪も朝日を浴びてキラキラしてて、うん素敵ィ。

二人は街道の向こうを見ながら何事かを話している。
さすがにこの距離じゃあ二人の表情とか、声なんて全然聞こえない。
これはもっと近くに行って確かめねば。

そろそろと忍び足で近づいていく。
こーいうとき、街道って不便なんだよね。
だっていくらあたしが小さいからって、身を隠す場所が少ないもんだから難しいんだ。
それでも大きな石の影とか、ブッシュの後ろとかを選んで二人の方へと忍び寄っていく。

崩れかけている大昔の遺跡みたいな柱の影に身を潜め、ようやく二人の声が聞こえる距離にまで近づいた。
「………この先に出てくるモンスターってさ、どんな奴?」とティーダの声。
「たいした敵は出てこないだろう。…ただし、特殊攻撃をもってくる相手もいるから油断は禁物だな」
ティーダの問いに、淡々と答えるおっちゃん。
よーしよし、やっと二人が何を言っているか分かったぞ…って、普通の会話じゃん。つまんねー。
もっとこう…さ、あたしの好奇心を満たしてくれるようなこと言ってくんないかなー。

そんなあたしがそばにいることにも気付かずに、二人は話し合っている。
「特殊攻撃か、それ嫌だなー。あの混乱とか、カーズなんて、嫌いなんだよな。後プリン系も切り応えがなくって、あんま、戦いたくないや」
「お前の都合の良い相手なぞあるものか。特殊系も気をつければどうってことなかろう?」
「でもさぁ…モルボルとかって見ただけでも気色悪いじゃん。あんたもそう思うだろう?」
拗ねたようなティーダの物言いに、おっちゃんがフッと鼻で笑っている。
「敵に好き嫌いなんぞは無い。…倒しやすい、倒しにくいはあるがな」
「うっわー、あんたのその大人ぶった答えって可愛くねー」
そう言ってティーダが口を尖らしている。
二人の会話を聞きながら、あたし思っちゃったんだ。

…なんかさ、あたしらの前にいるときよりもティーダってば可愛くない?
おっちゃんに向かって拗ねて我が儘言っているけど、甘えているようにも見えるんだもん。
相対しているおっちゃんもさ、ティーダの前だと妙に口調がくだけているの。ティーダをからかったり、軽口をたたいたりとか。
雰囲気があたしらと一緒の時よりも…濃密?って感じ。
台詞だけ聞いていると口喧嘩っぽいけど、見た目はじゃれ合っているみたいだしさ。

ティーダから可愛いと言われ、おっちゃんが口元を歪めて笑っている。
これ!この表情よ!
おっちゃん、あたしらの前だとこんな表情を見せないんだよねー。
うぅん。ますます怪しいじゃーん。
おっちゃんがティーダに向かって言い返す。
「俺が可愛かったらマズイだろう。可愛いという言葉はそっくりそのままお前に渡してやる」
「ア…アーロン………」
ありゃー、ティーダったら真っ赤になっているよ。
おっちゃんってば、時々めっちゃ恥ずかしいこと言うのねー。
知っててわざと言っているのか…でなきゃ、もしかして天然?
そんなことボンヤリ考えながら二人を見ていたら、何故か二人の顔の距離が近づいていた。

おぉ?
これってば決定的瞬間っていうやつ?

おっちゃんがティーダの顎に手を掛け、心持ち上に向けさせている。
ティーダ、ちょっぴり顔を赤らめながらも黙ってされるがままになっている。
二人の顔が近づいていく。
そしてティーダの瞳が閉じられる。

これよ、これ!
この瞬間を待っていたわけなのさ!
よし、いけ!そこだ!やってしまえーーー!(と、心の中で絶叫)

このチャンスを見逃すまいとばかりに、あたしは身を乗り出した。
体重をかけている手元が脆い岩場なんていうのも忘れてね。
そして今まさに…という瞬間、力が入った右手の岩がゴトンと大きく崩れた。

うぉ?
ガッコンというイヤ〜な音と共に、手元の岩が崩れ落ち、思いっきり体重を掛けていたあたしの体のバランスが大きく傾いだ。
そして景色が反転。

ガラガラ…ゴトッ…ズッデーン!
耳元で盛大な音が聞こえた。
そしてあたしは思わず叫んでいたのね。
「うっぎゃー、何でーーーどうしてぇぇぇ!」
せっかくの美味しい場面だったのにぃ〜というあたしの心の中の叫びも虚しく、見事なまでに転げ落ちていた。

…カラン。
真っ逆様になったあたしの目の前に小石が落ちてきた。
あちこち体の痛いところを無視して目を開けてみれば、天地が逆さまになっていた。
うん?
どーして目の前におっちゃんのブーツが見えるのかしらん?
それに妙に首が痛いって…。
………なーんだ、あたしが逆さまに転けてんのねー。
原因が分かってスッキリ…なーんて呑気にしているわけにはいかないわよ。
真上からおっちゃんの渋ーいお声が掛かってきた。
「こんなところで何をしているんだ?」
ちょっと声に険を感じるのはあたしの気のせい?…って訳じゃなさそうなのねー。

みっともない格好で転けているのも何なんで、取りあえず体制を立て直し、体に付いた土埃なんかパンパンはたきながら愛想笑いなんかしてみる。
「え…えーと、あのね。朝食の準備が出来たから呼びに来たんだ。その途中で蹴躓いちゃって、転けちゃったみたい。エヘ、あたしってお茶目さん?」
にっこり笑ってぺろりと舌なんか出してみる。
でもあたしのそんな仕草にも、おっちゃんは顔色一つ変えずに問い返してくる。
「朝食が出来たのなら素直に呼べば良いだろう。どうして足音を殺し、気配を消して忍び寄ってくる必要があるんだ?」
うむ、おっちゃんってばするどいじゃん。
でもあたしも素直に白状するわけにはいかないのさ。それくらいの状況判断は出来るわよ。
だから知らんぷり。
「えー?リュック普通に歩いてきたもーん」
そう言ってニッコリ笑っても、おっちゃんの眉間の縦縞は深いまま。ピクリともしない。

うんもう!
あたしのこのプリチーでラブリーな笑顔にはまともな男はもちろん、普通の中年のおっさんはいちころなのよん。
…おっちゃんってば、やっぱ変よ。変。

あたしの説明にもおっちゃんは態度を変えないものだから、ここは諦めて相手変更。
おっちゃんの後ろにいたティーダ(何故か顔を赤くしていたけど、それはこの際不問にしておこう)の方へ視線を向ける。
「あ、ティーダ。もう偵察は終わったんでしょう?だったら早くみんなのところへ戻ろ。あのね、ユウナが朝食作って待ってるって」
そう言ってティーダの手を取り、腕組みしちゃう。
「あ…あの……?」
何故かおっちゃんの方を見ながら狼狽えているティーダ。
こーんな可愛い女の子に体をすり寄せられて腕組みなんかされているんだから、もっと嬉しそうな顔をして欲しいもんよね。失礼しちゃうわ、まったく。
「ほーら、早く行こうよー」
言うなりティーダをせっついて歩くあたし。
そんなあたしに促されて、ティーダも足を動かす。

表面上はあくまでも何も知らない振りで、アタクシ無邪気さを装ってみました。
でもやっぱり後ろのおっちゃんが気になってチラリと視線だけを向けてみれば、不機嫌そうなオーラをまとわりつかせながらも渋々をいった感じであたしらの後を付いてくるおっちゃんが見える。

ふぅ〜ん。
あからさまに機嫌悪そうじゃん。
これってば、やっぱあたしがお邪魔虫をしたせい?
………ある意味さぁ、おっちゃんってば意外と分かりやすい性格しているのかもね。今、そう思っちゃった。


そーしてニコニコしているあたしと、何故か困惑している表情のティーダ。それから不機嫌さ全開のおっちゃんという、はたから見れば異様な3人組はユウナん達のところへ戻ったのでした、まる。

そんなうちらを真っ先に迎えてくれたのはワッカだったんだけどさ。
あたしらを見るなり、笑顔が引きつってんの。
ホント、ワッカってば案外肝っ玉小さいのよね。
おっちゃんがちょっーとばかり眉間の皺を深くしているからってさ、どもりながら「て、てて偵察ご苦労様ッス」なーんて言わなくたっていいと思わない?

びびりながらあたしらを出迎えてくれたワッカにおっちゃんは返事すらしないで通り過ぎ、それでますますワッカは冷や汗何か流している。
うーん、なんだかなぁ…もうって感じ。

そういう意味ではさ、ユウナんってばやっぱ大物よね。
うちらの不協和音なんかものともしないで、明るい笑顔でもって迎えるんだもん。
「アーロンさん、朝から偵察ご苦労様です。ティーダも…。あの…こっちも朝食出来ましたから、どうぞ」
ニコニコしながらそう言って、おっちゃんに朝ご飯を渡しているんだ。
ユウナんの天然ってばさ、天晴れ!だわ。
普通に空気が読める人ならさ、今のおっちゃんに声なんかかけらんないよねぇ。(その原因を作ったのが、他ならぬ自分ということはこの際、知らんぷり)
でも、ユウナんってばまるで気にも止めないんだもんなぁ。
おっちゃんもさ、ユウナにまでブスっとしているわけにはいかないのか、大人しくお茶碗を受け取っているのね。
ユウナ、凄い!

まぁ…うちらのぎくしゃくもな〜んかユウナんの天然ボケにうやむや〜にされちゃったっていう感じになっちゃったから
正直、助かったって思ったわよ。

でもさぁ、一人だけうちらのメンバーには目聡い人がいるのよねぇ。

朝食が終わって後かたづけをして、出かける準備をしてたら誰かにお下げ髪を引っ張られたの。
振り返ったらルールーがきっつい眼差しであたしのことを見ていた。
…言っちゃあなんだけどさ、あたしのお下げは別に呼び鈴なんかじゃないのよん。
ルールーってば、あたしのお下げを引っ張るのを癖にしてなぁい?
「痛いなぁ〜もう。なんなのよぅ」
そう言って頬膨らましたら、ルールーが冷たい目をしているんだ。
くく…ちょっとびびった。
でもここで負けちゃあ女がすたるとばかりに、知らんぷりして「何?」って聞いたら真顔で詰め寄られちゃった。
「アーロンさんとティーダに何をしたの?あんたが二人を呼びに言って帰ってきてからこっち、アーロンさんの機嫌が悪いったらないからよ。いったい何をやらかしたの?」
もう…最初からあたしが何かしたって決めつけた聞いてくるんだもんなー。
拗ねちゃうな、そんな言い方って。
「えー、あたし何にもしてないもん。…って、言うかさ。何かする前にバレちゃったというか、何というか………」

そーのなのよねー。
あそこで転けなきゃさ、決定的瞬間を見られたのよ!
返す返すも悔しいじゃないの。
後、ちょっとで二人の顔が…唇がくっついていたかもなのよ!
ああ口惜しい。
そう、あたし密かに思っちゃったわよ。次にこんなことがあったら、絶対今度は映像スフィアを持参していこうってね。
そんで美味しい瞬間を永久保存しちゃうんだ。
きゃあ。ティーダが…おっちゃんに色んなことをされちゃう場面が〜ああ、頭の中を駆けめぐる〜。

ルールーに詰め寄られていることすら忘れて自分の考えに没頭していたら、傍らで盛大なため息が聞こえてきた。
見れば、ルールーが自分の額に指を当てて困惑気味な表情を浮かべていた。眉間に皺なんか寄せちゃってさ。
それからおもむろにあたしの方を見て言い出した。
「リュック…猫の好奇心、猫を殺すって言う諺を知っている?」

はぁ?
いきなり何を言い出すの?
猫が好奇心で殺される?って、随分物騒な言葉じゃん。
でもそれが何だって言うのかしら。

意味が分からないからあたし、首を振ったの。
そうしたらルールーが諭すような口調で切り出した。
「度を過ぎた好奇心はその本人にとって、災いになるってことよ。好奇心事態が悪いって言うんじゃないわ。要するに只の興味本位で必要以上に首を突っ込んだら痛い目を見るってことなのよ。リュック、自分の身に置き換えて考えてみたら?」

うむ…。
あたしのこの純粋な探求精神を只の興味本位だと取っているわけ?
心外しちゃうわ。
あたしは真理を追い求めるアルベドの精神に従っているだけなのにぃ〜(…今、ここでどこからか違うだろうと言う影の声が聞こえたような気がするけど、無視よ。無視)
だからルールーのお説教?もしくは忠告も悪いけどさ、聞けませーん。

「自分の身になんて、あたし猫じゃないから分からないもーん」
しれっとして答えたあたしにルールーがカチンときたみたい。
「リュック………」
あ、ヤバ。
ルールーの目が三角になり始めている。
こ…これは逃げるが勝ちってか?
ちょうどその時、視界の端っこにユウナの姿が見えたんだ。
あたし思わず、駆け寄っちゃった。
「ユウナ〜ん。出かける支度出来たー?何か手伝うことなぁい?」
背中を冷たい物が流れちゃったけど、ここはひとまずとんずらこいちゃった。

あー怖かった。
へたすりゃ、またモグ投げられるかサンダー食らうかと思っちゃったよ。
「リュック…どうしたの?何か顔色悪いけど」
あたしとルールーのやり取りを知らないユウナがのんびりとした口調で顔をのぞき込んでくる。

こーいうときってさ、ユウナのおっとりした雰囲気ってば救われちゃうわ。
ああ…癒し。
だからついユウナに抱きついちゃった。
「えっ?リュ…リュック…何?」
「ユウナ〜ん。あたし絶対ユウナんの事、守ってあげるからね〜」
「あ…有り難う、リュック」

いきなり盛り上がっているあたしにユウナはビックリしながらも、黙ってされるがまま。
う〜ん、ユウナの天然ボケってばホント貴重だわ。
しかもユウナの側にいると、ルールーもあんまりきついことを言ってこないことにも最近気付いちゃったよ。
これはいざっていうときの防波堤に使えるかも…って、いけないことを考えてしまった。

どんなときにも抜け目無いあ・た・し。
リュックってば、小悪魔ちゃ〜ん。

…ちなみにユウナに抱きついた時に、もう一つ余計なことを発見してしまった。
ユウナんって、お淑やかな外見にも似合わず胸はあたしよりも凄いんじゃん。
チラリと視線を落とせば、胸の谷間がふっかいの。
抱きつきながらも(うむ、これはDカップ?)とか考えたよ。

ちらりと頭の片隅で…負けたかも…ともね。
い、いいんだもーん。いずれ追い越してやるんだから。

あ、ルールーの胸に関してはハナから対抗しようとは思ってないのね。だってさぁ、あの胸は反則よ反則。
人の胸っていうよりは、ホルスタイン入ってるもんね。
だからあれは論外。

リュック、負けないも〜ん。


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後書き

うう…まだ終わらないよ。
どーしてこんなしょうもない話がこんなに長く続くのでしょうか。どうにもこうにも同人をやっているときの悪い癖が出ているみたいです。
つまりは、最初の予定よりも2倍から3倍へと長くなるという悪い癖が。

リュック一人称が書きやすいというのもあるのかもしれません。
もう言葉が止まらないって言うか、いくらでも出てくるのです。調子こいてますね。しかし…15のお子ちゃまと精神年齢が同じって言うのも、いっぱしの社会人としてはどうかと思うんだけどなぁ。

でも…どうにか、終わりが見えてきそう。
なんとか次くらいで終われそう。