好きまでの距離感〜和正の困惑〜


最近、ちょっと気になることがある。

剣道部の主将の遠藤先輩の態度のこと。あの人の俺に対する接し方が、どうにも変な気がしてしょうがないんだ。
最初に会った時からあの人ってば割と好意的に接してくれていて、何かにつけて声を掛けてくれたり、時にはからかわれたり、おちょくられたりもしていたんだ。

でもさっぱりした性格と、軽いけど締めるときにはちゃんと締めるみたいなそのバランス感覚は見た目の華やかな容姿に反して、やっぱり主将を務めるだけはあるよなと、それなりに尊敬はしていたんだ。
あの人のおちゃらけた物言いとかは、部活内での緊張感を和らげる緩衝材になるんじゃないのかなってね。

だから俺もあの人に関しては、割と言いたいことを言ってきた記憶はあったけど、先輩として立てていたつもりだったんだ。

なのに。
ここ数日のあの人の俺に対するかまい方が、何か変。
元からスキンシップ過剰気味の傾向があったんだけどさ。今は会えば必ず、俺に触れてくるようになったんだ。
声を掛ければ必ず、肩に手を回してくる。胸の中に抱きしめられて、顔なんてスッゲー近いの。
俺が男だからいいようなものの、これは女子にやったら確実にセクハラで訴えられないか?と言いたくなるくらいに。

その上に、「中西ってば可愛いよね」とか。「お前、今付き合っている子はいるわけ?」とか色々聞いてもくる。
何が言いたいんだろうか、俺に何をしたいのかが全然分からない。

これが女子相手だったら、もしかして口説いてる?なんて誤解しそうなくらいな物言いなのよ。
触ってくるし、話しかけてくるし、俺のこと色々聞いてもくるし。

確か先輩ってスッゴイもててるって聞いているんだよね。
背は高いし、主将も務めているだけあって剣道の腕は全国レベルだし、学校の成績もそんなに悪くないって聞いている。
おまけに、見た目もかなり良い方なんだ。今はやりの芸能人に似てるとか言われているくらいだし、俺もあの人の見た目は同じ男として憧れちゃうくらいだと思ってるから。

そんな格好良い人が、どうして俺なんかに構うんだろうか。
今まで付き合った彼女は両手に余るくらいだっていう人がだよ?しかも噂に寄れば、女子大生から玄人さんまで相手は幅広いとかね。
あの人の見た目から考えれば、さもありなんって言う気がするけどさ。

だからこそなおさら俺に付きまとってくる理由が分からない。

今だってそうなんだ。
いつもの如くに、桂一郎へと朝の弁当の宅配にやってきた俺に、遠藤先輩が待ってましたとばかりに近寄ってきたんだ。
「よ、中西。今朝も可愛いねぇ。ご機嫌いかが?」って、にこやかな笑顔を浮かべてさ。
…それは男に向かって言うべき挨拶じゃないでしょうがと思ったけど、あえて突っ込まずにさらりと受け流した。
「お早う御座います、先輩」
多少、顔が引きつっている自覚はあったけどね。
「やだねぇ。先輩なんてかたっくるしい挨拶は。遠藤でいいよ、遠藤で。あ、何なら匡でもいいのよ。中西ちゃん」

悪い人じゃないのは分かってるんだけど、この異常なまでの軽い性格にはどーしてもついて行けないような気がする。
「名前なんて呼べるわけないでしょう。俺、下級生なんですよ?恐れおおくて呼べませんって」
「うん?別にいいじゃん。当人の俺が良いって言ってんだからさ。中西ともっと仲良くしたいと思ってるだけなんだからさ」
そう言いながら、先輩が俺の肩に手を回してくる。

まただよ。
どうしてこの人ってば、やたらと人に触りたがるんだろうか。俺も結構な触り魔だという自覚はあるのだけど、この人の触り方って何か変な感触を覚えちゃうんだけど。
ぶっちゃけて言えば、妙な身の危険を感じちゃうみたいな?
だから身をよじって逃れようとしたんだけどさ、この人の手の回し方がまた絶妙で、上手く体を外すことが出来なかったんだ。

「あの…先輩、手を離してくれませんか?」
「どうして?中西を抱きしめてるのって、気持ちいいからこのままでいたいんだけど」

は?
気持ちいい?俺を抱きしめてるのが?

「俺は男に触られて楽しくないんすけど」
「あ、こっちは大丈夫だから気にしなくていいよ」

…そ、そーいう意味で言ったんじゃないんですけどね。


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