好きまでの距離感〜和正の苦悩、二〜

淫らに耳を探られる感覚。
しかも場所が場所だけに、舐められたりされると音が聞こえてきて、それだけで危うい気分に陥っちゃう。
始めの頃の拙い触り方を考えれば、桂一郎が上手くなってきているような気が…するんだけど。

だからだろうか。
唇を噛み締めていないと、変な声が出ちゃいそうになるんだ。
いつもの俺じゃない、掠れた変な声がさ。その声を聞かれるのが嫌で、歯を食いしばっているのだけど、ともすれば時々声が漏れてしまうんだ。
「あっ」とか「うっ」とか妙な声が。
自分で聞いても間の抜けた変な声だと思うんだ。
それがどうにも嫌でなるべくなら出したくないんだけどさ、どうにも気が抜けたときに出てしまうのだ。

桂一郎だって掠れた男の声なんて聞いてもしょうがないと思うのだけど、ちょっとなぁ。
こんな声聞こえたら萎えないか?と尋ねたら「全然」と返してきくるんだ。
っていうか、むしろあいつは俺が声を出すのを面白がっていないか?とも勘ぐりたくなってしまうんだ。

だって。
あいつ、俺の弱いところばっか攻めるんだもの。
耳とか首筋とか色々。
こんな時に自分のくすぐったがりが恨めしいと思ったことはない。
しかも触られ続けているうちに、ますます弱い箇所が増えてきているような気がするから。

さらにだよ。
あいつに触られていることが、その…気持ちいいような気がして困るんだ。
背中がぞくぞくして、体温が上がっているような感じがしてたまらない。
男に抱きしめられて拒否感を覚えるどころか、感じている自分はそうとう危ない領域にまで足を踏み入れちゃってるんではないだろうか。

分かっているのだけど、桂一郎を拒絶しきれない自分もいけないんだと思う。
あちこち触られて、感じるところを曝かれて、感じさせられる。
もうほんっと、ヤバイ状況だよね。
でもってだよ。散々俺の耳とかを嬲っていたあいつが、顎に手を掛けて「いい?」とかぬかしやがるんだ。
お互いの息が触れ合うくらいに近くにあるあいつの顔。表情があまり変わらない奴なんだけど、その目が男くささを感じさせている。
だからあいつの「いい?」が何を指しているのか察したくなくても分かるようになってしまった。
それこそ最初は何がしたいのか分からなくて、尋ねてもいた。だけどもう今更って気がするんだ。
桂一郎が俺を求めているって事は承知だったから。

でも簡単に頷くのも癪だったのだ。
だってまるで俺もあいつとキス…したいって思われそうで。あいつの情熱に流されているだけの自分ってものも嫌だった。
キス事態がどうこうって訳なんじゃない。
桂一郎に触れられる事に慣らされている自分も知っているから。

そんなこんなの色々な感情が入り交じって、容易く頷けないだけなのだ。
あいつのキスを拒否しない。拒まないけれど、積極的に答えることも出来ない俺はただの卑怯者で臆病者かもしれない。

桂一郎が俺の顎をそっと持ち上げる。
目の前にあいつの端正な顔が覆い被さってくる。始めこそは眼鏡が邪魔でぶつかったりとかずれたりして、結構間抜けなことになったりもしたけど、今は上手くかわしてキスすることも覚えてしまった。

唇が重なる。
柔らかい桂一郎の唇が。
啄むように触れてきて、それから深く合わせられていく。
舌を絡め合うことに抵抗を覚えた時期もあったけど、今は逆に感じすぎて困ってしまうくらいだった。
たかがキスくらいでだよ。
何度も何度も唇を合わせ、キスをし続ける。

ちゅるちとした交接音が淫らに耳に届く。
繰り返されるキスの合間に唇が僅かに離れ、その時に思わず息が漏れていた。
「んっ…」
無意識のままに出てしまう声。

我ながら濡れた声だと思ってしまう。
その時、桂一郎が俺を抱きしめる腕に一瞬力が込められる。

瞬間「えっ?」と思った。
だけど問いかける間もなく、腕の力はゆるんでいた。
キスをしていた唇も逸らされていた。
だけど俺の中の熱はいっこうに引いていってくれない。俺を抱きしめる桂一郎の腕もそのままだ。
妙な緊張感が俺達二人の間にあるような気がしていた。

なにか、危うい気分のままで「桂…」と言っていた。
別に尋ねたい事があったわけじゃない。答えが返ってくることも望んではいなかった。
ただあいつの名前を呼んでみただけ。

呼びかけられ、桂一郎が熱い眼差しで俺を見詰める。
あいつの瞳の中の熱はさらに温度を増しているように見えた。

頬を優しく撫でられた。
それから殆ど唇に触れそうな距離で囁かれた。
「もう一度いい?」と。

あいつの熱が俺に映ってきそうなくらいな囁き。
頷くことが出来ない代わりに、俺はあいつの背中に回していた手に力を込めていた。
それだけで桂一郎は分かってくれたみたいだった。

俺の顎を持ち上げ、再度キスを仕掛けてきたのだから。
今度は最初から舌を絡ませていた。

桂一郎が俺を抱きしめたままで、机の後ろにあるベッドへと俺を誘っていた。

ちょっと…それは…。
そこまでは…。



終わり。


「好きまでの距離感〜和正の苦悩〜」編です。

突如として書きたくなってしまった番外編。本当に突発的に考えた代物。
第二部をやる前に、軽いお話を書きたくなってしまっただけ。
二人の感情の揺れている様をじっくり書きたいな〜とも、思ったし。

ある意味ほのぼので若い二人。こんな気持ちの揺れている様は、小説の醍醐味じゃないのかなって
思う今日この頃。簡単にHに入るのもどうかな〜って思ってね。

もっとも、「あんだー」では好き放題にエロを書きまくっておりますが(苦笑)




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