好きまでの距離感〜和正の苦悩〜 桂一郎とキスをする。 それこそもう何回も何回も。 最初こそは一応は抵抗なんかしたりもしたけど、最近はもう諦めちゃった。 だってさぁ。あいつすっげーしつこいんだもの。 俺が「嫌だ」と言うと、「何故?」と聞き返す。 嫌の理由なんかあるわけないだろうと突っ込み返したいところなんだけど、理由を言わなきゃあいつが諦めないのは長年の付き合いで分かり切っているもので「したくないから」と答えると、「どうして?」と問い返す。 お前は低学年児か!と怒鳴りたい気分をここでぐっと押し殺して「男とキスしたくねぇから」と返すと、あいつが不満そうな顔つきで「俺はしたい」と粘ってくる。 さぁここからはもう、不毛な掛け合いの応酬が始まってしまう。 「したい」「したくない」の言い合いがさ。 終いには俺が切れて、「何でそんなにキスしたいんだ!」と怒鳴るとあいつが最後の切り札を出してくる。 曰く「和が好きだから」と。 それを言われると俺は何も言い返せなくなってしまうんだ。 だってそれって絶対反則だと思うんだ。 好きと言われると反論出来なくなってしまうから。 一回自分の気持ちをさらけ出してあいつはきっと開き直っているんだろう。ことあるごとに俺が好きだと繰り返す。 そして俺が自分の気持ちに整理出来ていない負い目っていうもんがあるせいかもしれないけど、好きと言われるともう、言葉を返せなくなっちゃうんだ。 腹をくくった人間と、あやふやなままの自分の立場の違いってやつなのかなぁ。 とにかく、終いには諦めの境地ってやつに陥っちゃう。 それでキスさ。 一回させれば、こいつも満足するだろうってなもんで、あいつとキスをしている。しているのはいいんだけどさ、こいつは最近図にのってんじゃねぇのか?と疑惑を覚えてしまうんだ。 なにしろしつこい。 こいつのしつこい性格っていうもんは承知の上だけど、それをここにまで発揮しなくてもいいじゃねぇかと思ってしまうんだ。 触れるだけのキスから、最近は舌を絡める事まで覚えてしまった。 それもまだ良い。 まだ許せる範囲だったのに、耳を噛まれたり、首筋を舐められたりされちゃうと、意味もなく体温が上がるような気がするんだ。 しかもだよ。 キスだけならともかく、体まで触ってくるんだこいつは。 俺はそこまで許していないつもりなんだからな。 今だってそうだ。 始めは二人で温和しく勉強をしていたはずなんだ。 理数系が苦手な俺と、国語とかが苦手な桂一郎。お互いに不得手な科目を補い合うために勉強しあっていたはずだったのに、途中であいつがいきなり「触れてもいい?」とか言い出してきたんだ。 あいつが俺のどこに触れてもいいかなんて、分かりたくもないけど分かってしまう自分が嫌だ。 嫌だけど、はっきりと拒絶出来ない自分の感情も分からない。 桂一郎の情熱に引きずられ、押し負けているような自分を悟られるのが嫌で、負けん気の強さも相まって「さ、触るだけだぞ」と強がってしまう自分は結構情けないんじゃないのかと思ってしまう。 それでも体を抱き寄せられると、一瞬体が強張ってしまうのも事実なんだ。 俺の中にはまだ同性の桂一郎に感情をぶつけられることに戸惑いを感じている部分があるんだろう。あいつの感情を受け止め、キスまで許しているのにそれでも躊躇う自分はどこか甘ちゃんで狡いのかもしれない。 自分の卑怯な甘えを自覚しても、まだ後一歩が踏み出しきれない。 俺は桂一郎の優しさにつけ込んでいるんだろう。自分の態度をはっきりさせないままで、あいつの側にいることは逃げでしかないって自覚はあるんだ。結論を出さずに、ただ引き延ばしているだけっていうのをさ。 分かっているけど、未熟な心は未知の領域へ行くことに臆病になっている。 あいつに抱き寄せられ、強張りのぬけない体を桂一郎はゆっくりと抱きしめてくる。 決して焦らず、性急に事を進めるような事はしない。それでも慣れてきた愛撫は、どこか優しさを見せながら淫らだ。 耳を噛まれ、中を舌で探られる。 それだけでカッと体が熱くなってきそうだった。 下手に体を探られるよりも、耳なんて場所はある意味厄介なのかもしれない。そこはあからさまな性感帯とは言い難い場所なのに、鋭敏な感覚器官だと教え込まされてしまったから。 桂一郎に、自分の弱点を新たに作られたような感覚さえ覚えてしまう。 |
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