「俺としない?」

彼女を助けるとティーダは誓った。 あらぬ疑いを掛けられ、掴まえられた彼女。警察に連行させられていく彼女を引き留める術を持たずに、ただ指をくわえて見ているしかなかった自分。歯がゆくて、口惜しくて非力な自分が許せなかった。 必死の思いで見送るティーダに、彼女は気丈な素振りを見せて声を掛けてきた。 「アタシは大丈夫だから。こんな事くらいで、へこたれないって。だからさ、ティーダが気に病むことはないんだよ?」 自分の方が不安だろうに、健気にティーダを思いやっていた彼女。 必ず助けるからと言ったティーダに、彼女が逆にたしなめてきたあの言葉が忘れられなかった。 「無理はしないで。お願いだからヤバイ事はしないでよ。ねぇお願いだよ。アタシのせいでティーダがまたヤバイ事に首を突っ込んだりしたら、そっちの方が嫌なんだからね。だから約束して。アタシを助ける為に、危ない事はしないで。約束だよ」 そう言って、明るく笑顔を見せていた彼女。 けれど…ティーダは気づいていた。 大丈夫だと言いながら、彼女の大きな瞳が不安げに揺れていたことを。 あの哀しげな瞳が脳裏から離れなかった。いつも明るい笑顔を見せていた彼女を取り返したい。 その為にならどんなことでもしようと心に決めたのだ。 絶対…絶対に、助けると誓ったのだから。 ここは町はずれの一角にあるうらぶれた安ホテル。 そのホテルの一室にティーダは男と二人いた。 安っぽい外観に違わずに、ホテルの部屋の調度もまた貧弱なものだった。 ただ部屋の中央に置かれているベッドだけは、部屋の雰囲気にそぐわずにやたらと大きく上等な拵えだったのだ。そのベッドの存在で、この部屋の使い道が分かろうと言うものだ。 そこにティーダは男といる。 初老…と言うにはまだ少し早いだろう年齢。だが、確実にティーダの親ぐらいの年齢だろう。 一見すると地味な服装をしているが、よく見れば仕立てのいい値の張りそうなスーツを着、その上に上等なコートを羽織っている。スーツの袖口から覗く手首には高級そうな腕時計が見え隠れしている。多分その腕時計だけで、半年は遊んで暮らせるくらいの値段だろう事は一瞥するだけで分かるくらいの代物だった。 多分、かなりの金持ち。 我ながらいい相手を引っかけたとティーダは踏んでいた。 男はティーダに誘われて入った安ホテルに、落ち着かない素振りで立っている。 多分、彼にとってこんな場末のホテルなど入った事など無いのだろう。身の置き所がないような感じで、腰を下ろすこともなく立ちつくしているようだった。 「その…ここで…?」 男が訝しげな目をティーダに向ける。 道ばたでティーダに声を掛けられてそのまま彼の後を付いてきたのだが、今さらながらに迷い始めたのだろうか。 それともこんな安ホテルでは気分も萎えると言いたいのか。 どっちにしても、ティーダはせっかく掴まえた金づるをここで逃すわけにはいかなかったのだ。 男の戸惑いに気づかぬ振りをしてティーダは彼に近寄り、媚びを含んだ笑みを浮かべ、彼の耳元で囁いてやる。 「先にシャワーを浴びる?それとも…やる?」 そう言いながら、男の目の前でシャツのボタンを一個一個外していく。 男の目が食い入るようにティーダを見ている。 首筋、胸元、腹の辺り…そしてその下の腰の辺り。 自分では冷静な素振りを装っているつもりなのだろうが、目が欲望に彩られているのだ。 それに気づいていながら、あえてティーダは素知らぬ振りをして殊更ゆっくりとシャツを脱いでいく。 滑らかな肌をはらりとシャツが滑り落ちていく。 全て脱ぐことはせずに、半分だけを腕に引っかけて自分の身体を目の前の男に見せつける。 ごくりと男の喉が鳴る。 男の目から迷いが消えている。 ティーダの身体から目が離せないようだった。 自分で言うのも何だが、ティーダは自分の身体にはある程度自信があった。 太すぎず、痩せすぎず。趣味でやっているブリッツボールのせいなのだろうか、引き締まったいい身体をしていると思うのだ。 男にしては体毛も少なく、肌もまるで女のようだと言われたことがあった。 女のようだと言われたことは、顔についてもだった。 母親譲りのこの顔は、少なからずティーダのコンプレックスでもあった。 線の細い、小綺麗な顔立ち。薄いブルーの瞳とプラチナブロンド。男にしておくには勿体ないと、何度言われたことかしれない。そのうえその筋の男達にとってそそられるのか、何度と無く襲われそうになったり、時には露骨に「俺の女にならないか」と誘われた事すらあった。 無論、そんな相手ははっきりと拒絶で返しもしたし、諦めない輩は腕力でお断りしたくらいだ。 男の相手なんて、さらさらご免だったのだ。 だからティーダは自分の顔なんて、興味も関心も無かった。むしろ女顔の自分が嫌で嫌でしょうがなかったくらいだったのだ。 ただ…こんな場合は、自分の顔と身体は役に立つと思わざるを得なかった。 金を持ってそうだなと狙った相手。 声を掛けたら、意外なくらいに簡単に乗ってきたのだ。 誘いのままに自分の後に付いてきた男。 そして今、ティーダはここにいる。 半分脱ぎ掛けたシャツのままに、指で自分の胸をなぞっていく。首を辿り、鎖骨を滑り、胸を触り、乳首を弄ぶ。 その一方でズボンのファスナーを下ろし、そっともう片方の手をその中へと下ろしていく。 「俺と…しない?」 誘うように問いかける。 男が好色そうな目の色を浮かべ、ティーダに近づく。 そして、ティーダの腰を掴まえる。 触られた瞬間、ティーダはおぞましさに鳥肌が立ちそうだった。ゾッとして、思わず手を挙げそうになった自分を必死で宥める。 (我慢しろ。我慢だ。これも全部金の為なんだから。俺に触ってんのは金持ちの爺じゃあなくて、札束に触られていると思えばいいんだ。こんなの…どうってことない。全部、アイツを助ける為なんだから) かちかちになった腰を男がティーダに擦りつける。 吐き気がしそうだった。 嫌で堪らないけれど、手っ取り早く金を作る方法なんてこれしかティーダには思いつかなかったのだ。 脳裏に浮かぶ彼女の不安げな瞳。 冤罪を掛けられ、警察に連れて行かれていった。 ずっと一緒に育って、まるで妹のように思っていたのだ。 その彼女をあのまま留置場に押し込めておくなんて、出来るわけがなかったのだ。 明日までに保釈金を用意しなくてはならなかった。その為に引っかけた相手。 一番無難で、多分確実に金を得る方法。 男の手がティーダの中心に触れてくる。 「………!」 ギリっとティーダは唇を噛みしめる。 今すぐ、男を殴り倒してここから逃げ出したかった。 けれど、済んでのところで持ちこたえる。 彼女を助ける為。その為なのだ。 リュック…。 彼女の笑顔を思い浮かべる。 あの明るい笑顔を何としても守りたかった。 待ってろよと、ティーダは心に誓う。 絶対にお前を助けてやるからな。 金を作って、お前をあそこから救い出してやるからな…と。 end |
え〜と、ちょっとだけ悪い子なティーダです。
しかもウリなんかしちゃったりなんかして。
設定的にはパラレルです。異界でもスピラでも無いオリジナルですから。
冤罪を掛けられたリュックを助けるティーダという設定で。
で、思ったんですが。これは果たして表でいいのでしょうか?
自分の中では本番までいってないので、一応表にしちゃったのだけど…。
裏にしたほうがいいのかしらん?
最近は表と裏の境目が分からなくなっちゃってるからなぁ。
しかも珍しく真面目に文章を書いてしまいました。
いつもは勢いと乗りだけで書いておりますから。
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