accomplice 2

「おいっ」
 背後からかけられた声が、更にティーダを追い詰めた気分にさせる。とられた腕を強引に振り解いて、ティーダはそのまま部屋の奥へと走った。
 広い部屋だった。多分その位置からしてもスウィートと名の付く部屋なのだろう。だから余計に追い詰められた気分になる。毛足が長い絨毯はティーダの動きをまるで阻むように沈み込み、彼を取り囲む白い壁はその白さ故によそよそしく感じる。
 手近にあった扉に開いて逃げ込んだのは、深く考えてのことではなかった。室内にある扉はどれも造りこそ手は込んでいたものの同じものだった。その扉の向こうなどティーダには想像もつかない。
 扉を閉めて、空気の違いに気付けばそこは洗面所だった。かなり広いのはやはり部屋グレードのおかげだろう。しかも洗面台と向かいあうように一面、ガラスの仕切りになっていてその向こうにはバスタブやシャワーがあることが見て取れた。
 これ以上逃げ場がないのだと、その時になって気付いてしまった。
 そもそも最初の扉をジェクトに従い通ってしまえば、ほかにどこにも行きようがないことはわかっていたはずだった。でありながらジェクトから逃げ出してしまった自分。
「なんなんだよ…」
 漏れでた言葉は自分に向けるものでもあった。
 いまだに混乱している。自分でもなぜこれほど取り乱しているのかわらからない。
「…くそっ」
 洗面台に手を付いてそのまま身体を支えた。何かに縋らなければそのまま崩れ落ちてしまいそうな気分だった。
 目の前にははめ込みの大きな鏡がある。青い顔をして自分を見つめる自分自身の姿に唾を吐き掛けたい気分だった。俯いたところで、それが何の解決にもならないことはわかっていたが、まっすぐに自分の姿を見ることもできず、逃げ出してしまった手前再びジェクトと対峙する勇気もわいてこない以上ティーダにできることといえば俯き荒く息をつぐことぐらいだ。
 ただ、そのまま呼吸を繰り返す。
 わずかに呼吸が落ち着いたころになって、扉のノブが回された。
 身体がこわばったのは自分がその扉に鍵をかけた記憶がなかったからだ。ともかくここに逃げ込むことばかりが先に立ってほかの事にまで頭が回らなかった。
 振り向き、じっと見つめるティーダの視界の中でノブは当然回りきり音もなく扉が開いた。
 後退ろうとして洗面台の確かな存在がティーダの邪魔をする。脅える動物が逃げ場所を探すようにそのままティーダはよろよろとガラスの仕切りに縋った。少しでもジェクトの視線から逃れたかったからだ。
 冷たいガラスに背を預けながら、開いてゆく扉をただ眺めた。
 中を伺うように開かれた扉は次第に隙間を増やしてゆく。そして現れたジェクトの姿に、ティーダはただじっとその様子を眺めることしか出来い。
 ジェクトはしばらくの間動こうとしなかった。
「逃げるなよ…」
 耳に届いた言葉はティーダを俯かせた。距離を開こうにもティーダの背後にはガラスの壁があるばかりだ。さすがに今度はジェクトの脇をすり抜けてゆくことは出来ないだろう。何よりもジェクトが言ったようにこれ以上ジェクトから逃げ出すことはティーダにはできなかった。
 ジェクトの気配が動き、さらには床に向けていた視線がその靴先を見つけ出す。
 顔を上げようとしたところで腕が伸びてきて、抱きしめられた。
「逃げるなよ…おめえ2ヶ月だぞ…2カ月、顔も見れなかったんだぞ」
 そう言われてしまえば更にティーダは身動きが取れなくなる。
 ジェクトはずるいと思う。
 会わなかった間のことを思い出してしまえばさすがにこの腕の中から逃れようがなくなる。強張った身体からすら力が抜けた。自分以外に人気のない家の中のことを思い出してしまえば、ジェクトに対する脅えよりも、会わなかった間の空虚さのほうがティーダの中で勝ってしまった。
「だって、あんたなんにも…ひどいよ」
 できたことといえば、こんな言葉を呟くことぐらいだ。
 とたんに腕の力が強くなった。
「抱きたかったんだよ…待てなかったんだ」
 言いながら、首筋にジェクトの唇が触れ、強く吸われる。
「ん…」
 耳に届くジェクトの呼吸はやはり荒い。そのまま首筋に頬擦りをされ、ひりひりとした痛みと共に湧き上がってくるものがある。
「―――俺心配してたのに…なのにあんた…」
 ああ、そうかと思った。
 突然に覆いかぶさってきたジェクトから逃れたのは、ただの脅えからではなかった。ティーダの意思を無視するように求められて、その余裕のなさが怖かった。まるで自分の思いなど必要ではないのだと思い知らされたような気分だった。その直前まであれほどにジェクトのことを気にとめていただけに余計、それが堪えた。
「これ以上離れてたくなかったんだよ…だめか?してえ…」
 腰に欲望を押し付けられて、熱い吐息が耳元にかかった。
「そんな…」
 否という気はすでに小さくしぼんでいた。それでも頷けないものがある。
「会いたかった…だからあんなことした…おめえはどうなんだよ、平気なのか?」
 顔を覗き込まれて、視線がかち合ってティーダは言葉を失ってしまった。
 ならばあの騒ぎもそういうことなのだろうか。ただそのためだけに、ルカでの試合を蹴ったのか。
「───俺に会えないから、ルカの試合蹴ったのか…?」
「他になにがあるってんだよ…そのために俺はここにいるんだ」
 信じられないと思いながらも、目の前のあるジェクトの顔に浮かぶものがその言葉を裏付けているような気がする。
 普段の余裕はどこにもなかった。憑かれたように自分を見る自分の父親のこんな表情をはじめて見たような気がする。
「俺…」
 口ごもっていれば、再び口付けされた。熱くぬめる舌に口腔を犯されながら、ティーダはジェクトの背に手をまわし、いつしかその求めに応えていた。
 一度応えてしまえばあとは押さえようがなかった。
 舌を絡め、身体をまさぐりあう。まるでジェクトに煽られるようにしてティーダの呼吸も荒くなってゆく。
 すでにはだけたままになっていた服の間からジェクトの手が肌へと触れる。それだけで背中を駆け上ってゆくものがあった。
「あ…やだ…ねえ…」
 胸の飾りに触れられて肌が粟立った。だが、わずかな自制がジェクトの肩に手をかけさせる。放っておいたらジェクトはそのままここでことに及んでしまいそうな様子だったからだ。
 だがティーダのかけた声が聞こえないのか、ジェクトは耳元から首筋を熱心に舐め吸っている。そうしながらも胸をいじる指がティーダの快楽を呼び覚まそうと動いていた。いじられていないはずの乳首にすら血が集まり始めているのを感じティーダは焦燥に身もだえる。
「あ…はっ…やめ・・やめて…くっ」
 ジェクトの肩にかけた手に力を込めて行為をやめさせようとするのに、ジェクトはびくともしない。それどころかその身体がずり下がってゆく。生暖かい舌でティーダの肌を愛撫し、キスの跡を散らしながらかろうじて身につけている服をはだけさせて乳首を口に含もうとする。
 慌てて服の間をかき合わせようとしたものの、邪魔だといわんばかりの動きでジェクトはそのティーダの意思を阻んだ。さらには押しつぶすようにして胸を刺激されて、甘い声をあげてしまう。
「してえんだよ…だめか?」
 荒い呼吸を何とか抑えようとしていれば、ジェクトが顔を上げて窺うように訊ねてきた。
 何もここでと言おうとしたものの、熱を持ったようなジェクトの視線になぜか舌が動かない。荒い呼吸を吐き出しているのは自分だったのか、ジェクトだったのかわからないものの、吐息に煽られるようにその思考までも熱を持ったように白く染まった。
「ねえ…ベッドに…」
 生唾を飲み下しながらも、震える声でそう告げる。このまま流されてしまいそうな自分を自覚していたからこそ、せめてもと訴えた。
「だめだ…我慢できねえ」
 呻くようにジェクトは言った。その上擦った声に、目眩すら感じそうだ。
 ここまで性急に求められることは、短くはない二人の関係の中でもあまりなかった。たしかにSEXに関してジェクトは貪欲ではあったものの、ティーダが本気で嫌がるようなことがあれば引く余裕すら見せていたのだ。
 男に抱かれるという経験自体ジェクトがはじめてであったためなのか、これが自分の父親だったのかと記憶との齟齬に驚くほど優しく扱われた。
 だから余計にティーダに迫ってくるものがある。
 会えなかった日々はティーダの中でうずくように過去の記憶を呼び覚ましてしまった。
 10年の空白の時間を互いに埋めるように身体の関係を持つようになった。お陰で空白の時間を埋められたと思っていた。だが、いざ数ヶ月会うことが出来ないだけでティーダは不安に押しつぶされそうになる。ひた隠しに隠してはいたものの、最近眠ることが出来なくなりはじめていたのがその現れだろう。
 また一人になってしまうのかもしれない。その考えが頭を過ぎってしまえばティーダは恐怖すら感じてしまう。 
 ジェクトもまた同じことを考えたのかもしれない。ジェクトの10年はティーダ以上に孤独に満ちたものだった。だからこそ、ここまで性急に憑かれたように求められれば、拒否をすることなど出来なかった。
 もとより、すでにティーダの身体自体が彼の躊躇いを無視するように走りはじめている。
「まったく…あんたのほうがガキみたいじゃん」
 ティーダの下半身を露わにする作業に熱中しているジェクトにそう言えば、視線がかち合った。
 飢えた表情隠そうともしないジェクトへと笑みを向けることすら出来た。経験値の少ない自分にしては上出来だろうと思いながらティーダは襲い来る感覚に硬く眼をつぶった。

 

 抱き合いながらキスをする。
 していることは先ほどまでと変らないというのに、それでもティーダの心持ちが変わるだけで、与えられる感覚すら、まったく変わったものになってしまうのだから不思議だった。
「…ふ…ん…うぁ…」
 触れ合わせた唇の間から舌を絡める濡れた音と共に、ティーダの漏らす声が上がる。ジェクトの望むがままに足を開き、性器に与えられる刺激に、声を抑えることが出来ないでいたためだった。
 片足だけ抜き取った下着とズボンはもう片方の足から脱ぐ間もなく、今ティーダの足元でたぐまっている。その上で片足は靴を履いたまま、もう片方は裸足になっている自分の格好は、普段であるならばさぞ滑稽だろうと思えただろうが、いかんせん今のティーダのはその余裕すらなかった。
 背中に当るガラスに体重を預け、ジェクトの太い首に腕をまわしてようやく立っていることが出来るような状態だ。
 抜きたてられている性器からは粘液の立てる音が耳に届く。逃げようにもジェクトがそれを許さず、ティーダは汲み取られてゆく快楽に身をゆだねるしかなかった。
「あ…やっ…」
 ジェクトの唇が、耳元へと動いてゆく。ピアスを舌で弄ばれ自由になった唇からは声が止め処もなく漏れでてしまった。
「…ティーダ…ティーダ」
 耳を愛撫されながら、荒い呼吸ごとジェクトが自分の名を呼ぶのを聞いただけで身体が震える。実際に与えられる感覚以上に、熱く掠れた声で呼ばれる自分自身の名はティーダを追い立てた。
「あ…はっ…おやじぃ…」 
 舌がうまく回らずに子供のようにジェクトを呼べば再び口付けされる。ジェクトの手はティーダを追い立てながらも時折焦らすようにその手の動きが緩められる。求めるようにそのたびに腰を揺らす自分が恥ずかしくて仕方がなかったものの、止めることすらできないでいた。
 がくりと膝が抜けそうになったのを、縋った腕に力を込めたことで何とかしのぐ。そのとたんに低い笑いが耳に届き、ティーダは羞恥心からジェクトの肩に顔をうずめた。
「…もうだめそうか?」
 そう訊ねるジェクトの声は熱く荒い。
 だがティーダとは異なり、シャツにスラックスとはいえジェクトはほとんど前もはだけていない状態だった。身体を密着してしまえば更にそのことを自覚してしまい、うんとはどうしても頷けない。
「やだ…俺だけ…」
 ようやくそれだけを訴える。
「いいんだぜ、さきイっとけよ」
 こんなときだというのにひどく優しげな声が届いてティーダは顔を上げた。
 ふと視線がかち合う。
 じっと見つめられて、どうすればいいのかに戸惑う。きっと欲しいのだと顔に書いているだろうことはわかっていた。
「あ…」
 羞恥心にきっと赤面しているに違いない。心底解放を願っていながら欲しい、いきたいとはどうしてもいえなかった。
「たくよう…強情だなあ」
 ジェクトのものもスラックスの下で張り詰めているのを知っているだけに、のんびりとした物言いは以外ですらあった。
 だが、次には強くガラスに身体を押し付けられた。
 なにを、と問うまもなくジェクトが膝を付く。逃れようにも逃げ場はなかった。
「くっ…ああっ」
 熱い口内に含まれて、あげてしまった声。
 腰を片手で掴み更にもう片方のジェクトの手は尻へと回っている。その上でことさらゆっくりとしゃぶられる。
 湧き上がってくるものを耐えようにも、背後のガラスでは爪を立てることも出来ない。自然に前かがみになってジェクトの肩に手をかけ、その広い背中を眺めるような体勢になった。
「あ…やめ…だめっ」
 ジェクトの舌の動きは容赦がなかった。
 性器の先端をぞろりと舐められたかと思うと、今度は強く吸い上げられる。
 ひっきりなしに声をあげていないと、果ててしまいそうだった。膝ががくがくと震え、身体を支えるのも辛い。
 腰を掴んでいたはずのジェクトの手がティーダの性器を支え、更に熱心になぶられてしまえば、もう限界はすぐだった。
「あ…や…いじらないでっ」
 耐えるティーダを更に苛むべく、尻肉を揉んでいた手が、秘処へと伸びる。
 そこに熱く硬いものが欲しいと疼きを自覚していただけに、指先が触れただけでぞわりと身体が震えた。
「やめ…ああっ」
 太い指が、ゆっくりと進入してくる。
「イっちまえ…」
 ジェクトの口から開放されてもティーダの性器は天を向いたままだ。びくりと揺れながら解放を欲しているのはティーダ自身がよくわかっている。
 いきたい、いきたい…。
 思考はすでにその言葉だけに染まっている。
 強くジェクトの手で擦りたてられながら進入してきた指に内壁を強く刺激されて、最後の自制すらあっけなく砕けた。
 あられもない声をあげながら。ティーダは吐精し、ジェクトの身体の上に崩れ落ちていた。

 

 

「あ…はぁ…やっ…もうっ…」

 悲鳴のような声を上げながら、ジェクトの打ち込む楔を締めつける自分がどのような狂態を晒しているのかすらすでにティーダには意識できなくなっていた。
 ジェクトの膝の上に抱えるように座らされて突き上げられる度に、言葉にはならない自分の声が耳に届く。
 狭い室内には熱気が満ちていた。清潔なシーツが敷かれているだろうベッドなどではなく、こんな狭い場所でケモノのようにただ快楽を貪るのは、こうしていると自分たちには似合いであったかもしれない。
「あぁっ…もうっ…だめ…あぁん」
 ジェクトの肩に回した手にはすでに力が入らないままだ。
 首筋から顎を、時折ジェクトの指で性器を擦りたてられれば、髪を振り乱して湧き上がる快楽を散らすしかない。すでに一回果てさせられて、身体はいっそう敏感になっているというのに、与えられる攻めに終わりはないように思えた。
「は…っ…」
 息をつぐのもきついと思うのはなぜだろう。
「もういきそうか…っ」
 ジェクトの声も上ずり余裕を失っている。
 互いに汗にまみれながらも、動きを止めることができないままだった。そのまま動きを止めてしまったならば身体の中の快楽がよりいっそう膨れ上がってしまいそうだからだ。
 悦びを散らすようにもがいた。
 強く突き上げられて身体が仰け反る。その背中をジェクトが強引に抱き寄せた。
 互いの体の隙間を埋めるようにして密着して揺さぶられ、ティーダの声はより高くなる。快楽を逃がすことが出来ず、ジェクトの肩に額を押し付けるようにしてその感覚に耐えれば、じりじりと競りあがってくるものがある。
「ああ…だめっ…やっ…」
 互いの身体の間で擦られる性器がびくびくと震えているだろうことは見ないでもわかった。
 限界が近い。
「…くっ…俺もだ…っ」
 首筋に歯を立てられ、嬌声を上げながら、耳に届く声に震える腕に力を込めた。
 一気に思考が白く染まった。
「あ…はっ…オヤジ、だめっ…だめぇ」
 そう叫んだとたんに、きつくジェクトを締め上げていたのだろう、低くうめく声と共に中に熱いものが放たれた事にティーダは、朦朧とした意識の中で気付いた。
「…ティーダ」
 繋がったまま強くジェクトに抱きしめられながら、ティーダはジェクトの肩に頬を当てる。
 ようやく―――。
 ゆるゆると余韻を味わいながらも胸に沁みてくる実感に、ティーダもまた今一度ジェクトの身体を抱きしめていた。

 

 ティーダの目覚めを促したのは無粋な携帯の着信音だった。
 なにを言っているのか、眠りの淵から浮上したばかりのティーダには理解が出来なかったが、布団に潜り込んだ体勢のままぼんやりと応対しているジェクトの声を聞く。
 シャワーを浴びたはずであったというのにベッドに潜り込めば潜り込んだで、結局ティーダが悲鳴を上げるのも構わずもう一戦を挑んできたジェクトを相手にしていたのだから、もう一度眠りに逃避しても責められるわけがない。話の内容はなにやらありきたりのものだろうと判断して、ティーダはそっと目を閉じてもぞもぞと居心地のいい場所を探した。
 すぐにも睡魔が再びティーダを夢の縁へと誘おうとしていたのだが、ジェクトの無粋な声がそれを阻んだ。
「おお、そりゃいい。そのままストライキだ、ストライキ…そうそう思うとおりになんねえって思い知らせてやれ」
 どうにも物騒な言葉が聞こえてきて、片目だけを開ける。
 視界に映っているのはジェクトの背中とそこについた傷跡ばかりだ。機嫌よさそうな笑い声が部屋に響き、どんな話をしているのだろうと気にかかったのは、何も自分に関心を持って欲しいと思ったからではない。先ほどまでティーダの頭いっぱいを悩ませていたことに関係しているのではないかと思ったからだ。
 指先で、腰の辺りをそっと叩けば、ジェクトはようやくティーダが目覚めたことに気付いたようだ。
 部屋の中は薄暗い。遮光カーテンが閉められているのは、この部屋で抱かれた時にティーダが懇願したためだった。寝入ってしまってもそのままにされていたのだろう。おかげで時間の感覚がまったくない。
 ベッドサイドの明かりがしぼられているせいで、見下ろしてくるジェクトの顔も、半分は影に覆われていた。
 携帯を耳に押し当てながらも手で待ってろと指示を出して再びジェクトの視線が中空に戻った。
「おう、じゃあ、連絡待ってるぜ…ちったあがんばれよ。うまくいきゃあもっと楽なローテーションになるって」
 機嫌よくそう言ったかと思うとそのままジェクトは携帯を切りさらには床にそれを放り投げた。毛足の長い絨毯のお陰で壊れることはないだろうが、あまりにも乱暴な仕草にティーダはあきれ果てる。
 だがジェクトはそんなことはお構いなしだ。
「目ェ覚めたか…?」
 そう言って笑いかけてくる顔は上機嫌どころの騒ぎではなかった。いやそうでなくては困る。こちらは疲労困憊するまで付きやっていたんだから、これで不機嫌になられたら立つ瀬がない。
 だがそう思う一方でジェクトの上機嫌の原因がそれだけではない事にもティーダは気付いていた。
「…誰?今の」
 ゆっくりと態勢を変え枕に肘を立て手の平の上に頬を乗せれば少しだけジェクトの顔に視線が近付く。目が慣れてきたお陰なのだろうか、先ほどよりははっきりとその表情を見て取れるようになった。
「あ、今のか?うちのチームのガキんちょ代表だぜ。ほかのチームに声かけて、試合のボイコット運動するんだと」
「―――なにそれ?」
 一気に目覚めたというよりは。パンチを食らった気分だった。
「いやだからよう。もちっと俺たちのスケジュールも考えてくんないとな、このままで行ったら潰れるやつ出てくるぜ。だからその前の自衛だ。疲れ切って故障でもしたら、話になんねえだろう」
 それは自分も危惧していたことだった。ジェクトと会えないこともかなり堪えていたとはいえ、それ以上に各地を点々とする生活はかなり疲労がたまる。
 チームメイトの誰もが同じ状態だったことを考えれば、ジェクトの言いたいこともわからないじゃない。
「にしても乱暴な…うまく行けばいいけど…」
 そう願うのはティーダの立場としては当然でもあっただろう。
 疲れ果ててはいても今のティーダは昨日までとは違ってどこかで満たされていた。それを自覚してしまえば、やはり今までのような生活に戻るのは辛い。せめてもう少し何とか…とはどうしても考えたくなることだった。
「うまくいかねえわけねえだろう。なんたって俺様と、お前が雲隠れしてんだからよ。なんたって人気独占してる俺たちが試合にでねえんだったら、話になんねえだろうが」
 こつんと頭を小突かれたのだが、そこで笑えればどんなに幸せだっただろう。
「何で俺も一緒なんだ…って───あんた、だから家に戻らないでこんなところでっ」
「家にいたら、すぐ見つかっちまうだろうが」
 それはそうだが…と危うく同意してしまいそうになるほど、ジェクトは正々堂々胸を張っていた。
「何で俺まで巻き込むんだよ!」
「だってお前抱きたかったし…久しぶりじゃねえか」
 いつの間にか共犯者に仕組まれていたことに気付き、ティーダは青くなった。いや赤くなっているかもしれない。文句を言おうと思ったもののジェクトのあっけらかんとした言葉に、先ほどまでの痴態が脳裏によみがえってきたからだ。
「―――つっ」
 怒りのままに起き上がり殴りかかろうとしたものの、それは結局果たせなかった。身を起そうとしたものの鈍い痛みに、枕に撃沈してしまったためである。
「そんな怒んなよ。これでブリッツ協会のほうも考え改めれば一石二鳥じゃねえか」
 ティーダを宥めようとするつもりだったのかやさしく頭を撫でてくるジェクトの手が心地よいと思ってしまう自分自身を恨めしく思いながら、ティーダは、現実から逃避するべく。硬く目をつぶった。

 

 END



accomplice1→


「GO FIRE」の山崎様から頂いた最高に素敵にエロくて、萌え満載の小説です。
これはもう、本当にひょんな事から頂ける事になった”棚からぼた餅”モノなのですよ。
ま、はっきり言ってしまえばぶつぶつ交換みたいなのですが、それがこんなに
素敵なジェクティで帰ってくるなんて〜(身もだえ)

ただ…頂いたのがかなり前でして…。余りにUPが遅くて、ここで言うのすら
はばかれるくらい前に頂いたのです。(大汗)
しかもこんな素敵な小説に自分の絵を載せるなんて、身の程知らずな事を
しているという自覚は大ありなのです。

絵は飛ばして、小説だけを見ていただけると幸いです。
ああ…それにしても、ジェクト好みだわ。



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