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オレを 拒まないで
置いて、行かないで
そうじゃなくて
本当は
なにより
愛したいんだ
怖じ気づく弱気をかなぐり捨てて どうしようもなく好きなんだと
ただそんだけ 【5】 「……好きになったのはこっちの勝手だけど……こんなに自分だけが想い続けるのってなんか理不尽」 嵌り込んでいく思考の闇に、潜り続けることの苦しくなった少年はほどよく色づいた唇から息を漏らす。結局は欲張ることになってでも、欲しい物は欲しいらしい。それはそれで健全な思考だろう。その年齢で悟りきってしまうにはまだ時期尚早過ぎる。 まだまだ奥底まで落ち込みかかっていたティーダはそれにつられて上昇する。 その冗談めかした一言は、自分の内面を代弁するものでもあったから深く深く頷いてしまった。 この身勝手に好かれたうえに、一方的な理不尽を突きつけられる想い人達はたまったものではないに違いない。 「まあそういうもんっしょ」
「おにいちゃん、なんか経験深いっていうより年寄り臭い言い方……」 わざとこの場の重い残滓を取り払う為に明るく振る舞おうとしたが、ありありと伺える見せかけは白々しい。
けれど逆にそれが陰鬱にまで到達しかかった心境を和らげた。 隣にある体に腕を伸ばし、戯れかかっていたが。 首を動かして、移動した視界にある人物を捉えた。 「でもさ、少なくともお前の『姉さん』はお前のこと、どうでもいいってワケじゃないみたいだぜ?」 ありきたりの気休めを言われるほど子供扱いをするのか、と輝く蒼色の瞳に抗議しようと口を開いて、やめた。
根拠のないものではなかったからだ。 この時間外れに海に向かって歩いてくる少女。しかもたった一人で、だ。
一体何を?
魔物、不貞をはたらく男など、彼女に害を及ぼす確率のあるものは多いのに。
どうして、何をしに、やってきたのだろう? 「ねえ、そろそろ帰りましょ?」
去り際の物憂げさを漂わせた表情が忘れ去られたように取り払われ、純粋な笑顔をみせる。
しがらみを引きずらない。それも彼女の美点なのだろう。 ゆっくりと歩いて、惚けて見上げる少年の手前までやってきた。赤みがかけられた容姿は、寂寥感を掻き立てるのでなく、胸を優しく暖める、素朴な優しさを植え付けてくる。 意地を張り通すべきか迷う少年を、根気よく待ち続ける彼女。 「心配かけすぎんなって」 素通りしかかった言葉が、一拍おいてゆっくりと浸透してくる。 心配。
心、配? 初めて感じた。 自分が想像(おも)う以上に彼女が自分を思っていてくれること。
もしかしたら、意識的に考えないようにしてきたのかもしれないが。 それは、ただの『家族』として『姉』としての思いでも。 求めてやまない心の間隙におちこんで。隙間風の虚しく流れ込むそこに、そっと。
真昼の太陽の熱のように、燃えさかる炎のように鮮烈なものではない。 暖かくて、少し切なくて。 でもあって良かったと思う物だった。
街に戻っていく二つの背中を見送る。
まだ、少女の方が幾分か身長が優っている。それも今のうちのことだろう。 あの少年が満たされたとは思わない。自分ととてもよく似ていた少年。とことんまで似ているのなら、きっとあれで満足して収まってしまうとは考えられない。 そんな不器用も、自分を映して見ているみたいだった。 赤くなるどころか、暗さが目につき始めている。
「少し出てくる」と言い置いたが、これはかなり長出しすぎたと思う。誰もが気をもんでいるだろう、もしかすると探しに出ているかもしれない。そうなってもおかしくない時間帯だった。 自分も戻らなければ。
あの少年は本当のところは何も解決していない。自分も解決していない。 でも、彼は戻った。自分も戻るように勧めた。 気が重くても、わだかまりが残ったままでも戻らねばならない。 あの『姉弟』はもう街並みに溶け込んだのだろうか。 西日を乱反射するまぶしさに目を伏せて、気怠い腰を上げた。そして顔を上げると、 赤。
夕日の染める色合いより、ずっと濃厚な色。それが視界を大きく占めていた。 気配など、感じなかった。動転、と表現するには心にたった波は小さい。 昼に感じた一方的な反発は消え去り、むしろ大きく気まずさが先立ちそうだった。いや、それこそ不思議と心は穏やかだった。 言葉が見つからず、見下ろす長身を無言で見つめる。 「────帰るぞ」
ただ一言。 淡泊に短く紡ぎ出された低音。そっけなく、冷淡な一言に分類できるかもしれないけれど。 こちらの心情も何もかも、無視したかにみえる一言。 静かに、放心していた体に染みこんでくる。
浮遊しかかっていた意識から、自然に返事を引き出す。 「────うん」 少年の言葉を聞くと、そうか、の一言もなくゆっくりと顔を背け、両眼を覆う硝子に水平線に身を沈める太陽を反射させる。ともすれば冷たい黒色も、仄かな色に暖かみを湛え。
「体を冷やすから着ておけ」
羽織るだけでもいいから身につけておけ。
用件以外の一切を切り捨てた飾り気のない一言とともに、黄色が肩の上に落とされた。 黄色は見慣れた色だったけれど、それはティーダの繕ってもらったはずの上着ではなかった。例のティーダの上着は、薄着の少年の体に羽織らせたところで大して保温能力を有さないだろう。 シャツ、その他に加えて上着まで宿屋から借りることになってしまった。 余計な言葉はない。 淡々とした厚みのある声に、感情の起伏も乏しい。 今更ながら気付く。気付いた事がある。
自分の持ってきた上着に少年が素直に腕を通すのを、男は少年に向かずとも視界の一部で確認していた。 白いシャツの上に上着を羽織り、ズボンの埃を払うのを待って、歩き出す。 普段の男の歩調にすればひどくゆっくりと。そして軽い足音が付いてくるのを聞き取ってようやく歩調を早めた。 彼は何も言わなくても、少年にはそれがわかった。 男が自分に背を向けていることを良いことに、切なく顔を崩す。
どうして、形がないとなど、思ったのだろう。 こんなにも雄弁な物があるのに。あまりにもはっきりしすぎて見落とすふりだって出来やしない。 思われていないわけではない。いや、自惚れなくともこんなにも気に掛けてもらっている。 どういう意味で、気に掛けてもらっているのかまではは読みとれない。 自分が抜け出したがって、そのくせ失うことを恐れた『保護する者』と『保護されるべき対象』でしかないのかもしれない。 その延長線上の、発展途上の何かかもしれない。 自分の知らない、もしかすると彼すらも知らない『何か』。明確に区分してしまおうとすると崩れ去っていきそうな物。 その方が、ずっと怖いから曖昧にしておきたいような、それ以上に進みたいような、居心地の位置。 黙々と自分の数歩前をいく背中はとても広い。ついてくることを確認すらしない後ろ姿は拒絶しているのとも違う。
自分にとって揺るぎのないその姿を、いつだって自分は追い求めていた。 思い出した昔の日。
迷い、心細さに身を震わせたその時に、闇を取り払うかのように現れた彼。その姿が自然と現在を重なっていく。 ただ違うのは、あの時自分を掬い上げてくれた手のひらが差し出されていないということ。
自分が大きくなったから、そこまでは必要ないと少しずつ保護を引き剥がしているのか。 それは寂しい?彼が、自分から離れていくことを暗示して見えて? 捉えようによってはそうだろう。けれど前向きにだけ見据えるなら、それは彼が自分を認めてくれているということに類分できるのでないか。 誰もがいつまでも子供のままでいることはできない。庇護されて安穏とした生を営むなどできない。 何よりそんなことを自分は望んでいやしない。
それでも自分がその生温さから離れがたかったのは不安だったからだ。 彼との繋がりが途切れる瞬間を恐れ、その先を構築する自信が弱すぎた。 眩しくもないのに目を細めて、先をゆく赤い衣を見つめた。と、その衣が近くなった気がする。 疑問はすぐに氷解する。彼が自分が立ち止まり気味になったのを察して、速度を緩めてくれたのだ。我が道をゆく、傲岸不遜を覆す心遣い。 多くを語らず、彼が示してくれる、優しさ。
見落としてしまいそうなくらい、誇示されない形。
お世辞にも器用とは言えない彼の、精一杯な、想い。 どうして見落としていたのだろう。こんなにも、彼は思っていてくれるのに。
あの少年に対して、自分は「思っている以上に愛されている」と諭す場合でなかった。自分こそが見直すべきだったというのに。 緩くなった足取りが、またついてくるのを聞き取って男が動き始める。
縮まらない距離。近づいたら、離れて。離れすぎたら、足踏みをして。 そこは変わらなくとも、逆に見つけてしまっても、胸の奥が仄かに暖かい。そっと微笑みを浮かべる。
「─────アーロン」
ありがとう 切ない想いだけでなく、感謝、安堵、その他。数え切れない種類の込められた一言だった。
彼は何も言わない。聞こえていないのか、故意に届いていないふりを装っているのか、それは後ろに付いて歩く少年にはわからない。
小さく揺れる反応すら返さない背中に、何故か胸は痛まなかった。 あの少年と少女の姿を思い出す。
つい先程まで見送っていた後ろ姿に幼い頃の自分と彼をなぞらえて、今現在をなぞらえかかって、やめた。 彼らは彼らで、自分たちは自分たちだ。 彼らに過去を見たことは確かだけれど、現在までも重ね合わせて感傷に浸って。それで自分はいいのだろうか。過去を踏襲するままで。 人は、辛くても、逃げ出したくても、それ以上の悪化を恐れて踏み出せない一歩がある。
それが、今までの自分で、自分たちが変えたいと願うスピラの人々の姿。 あの少年が選ぶのは、どの道だろう? けれど、想う心を喪わないと、何故か確信できた。
潮の匂いをのせた風が吹く。やさしさの中に、ひんやりとした冷気を含んだ気流は心地良い。 それは、何かが金色の髪の少年を後押ししたのだろうか。その大柄とは言えない背中を一つ押したのか。
そのしなやかな腕を引いたのか。 柔らかな金糸のかかった耳元に声を吹き込んだのか。 「アーロン」
何も意図しないまま、一人の名前を唇にのせた。
呼びかける声というよりは、空に熔ける囁きは風に押し流されたかもしれない。聞こえるか、聞こえないかの微妙な境界上の声量。 振り返ったら、どうしようか。 彼が何だと聞き返してきたら、どうしようか。 その時は。 彼の意表を突くことをしてやるのもいいかもしれない。
馬鹿なことをして、玉砕して、後悔するくらい泣くのもこの瞬間にならなぜか出来そうな気がする。 だからといっても、もう一度名前を夕暮れにのせることはしない。絶対に。 これを、気まぐれというのだろうか?賭というのだろうか?
緊張していて、なのにどこか心は落ち着いていた。 視線の先で、広い背中が動いた。服の裾が動いたのは、風のせい?それともなに?
彼は、振り返るだろうか。
振り返ったその時は
心は驚くほど凪いでいた。
その時は、どうしようか
オレは
アンタが
とてもその見慣れた後ろ姿が愛おしかった。 レンズ
レンズを通して見た世界
自分に見やすいように
都合の良いように
でも本当はそうじゃないと
気付いてた レンズは
『見え具合』を矯正するもの 近視遠視乱視 素のままの見え具合を『適正』に戻すもの 自分の世界の持つべき意味を世間で言う『正常』で書き換える だからオレはレンズを外す
強制力のある一枚を通しての世界はきっと自分にはウソだから
レンズを通して見た世界 関係
変わってしまった自分の価値を打ち消してできたから 彼への想いを本当は否定しようとするから
だからオレは自分からはめ込んだレンズから解放されたい
そうじゃないと愛せないから 昔のレンズと今のレンズにサヨナラしよう そうしたら
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| "Words.Worth"の真澄様からまたまたキリ番小説を頂きました。 もうこの方の小説の私大ファンでして、なんとかキリ番が欲しくて日参して見事ゲットしたものなのです。 それでいただいたのがこの小説。 リクエストが恥ずかしくも自分の描いたイラストにお話をつけてくださいという、図々しくも身の程知らずのものなのに、真澄様が快くも承知してくださった物なのです。 まさかまさかこんなにも素敵な物が頂けるなんて、嬉しくて舞い上がってしまいそうです。 良くキリ番がとれたよ。偉いぞ自分。よくやったと自分で自分を誉めてやりたい気分です。 悩めるティーダが少年らしくて、いいよなぁ。 ほんわかほのぼのしてて、優しい気分に浸ってしまいます。 あぁぁぁぁ、やっぱティーダ大好きだ。 重ね重ね真澄様、こんなにも素敵な小説を有り難う御座いました。 リクエストのイラストはこちらから。 |