この、世界の片隅で  〜下
 
 
 
 

そうこうしてくしゃみをしたら、今度こそ否応なしに焚き火の元に引っ張ってかれた。
続いて肩の下辺りを掴まれて、地面に抑え込まれるように座らされた。 ひんやりとした人工の被覆物の剥がれかかった床は予想通りに冷たくて、床のせいで肌に密着することになった生乾きの服はもっと冷たかった。
抗議の視線を男に向けると何処吹く風と言わんばかりの顔で焚き火に薪を入れている姿が少し憎らしい。
それから納得のいく火の具合になったのか、数度火をつつくと男は少年の隣に腰を下ろした。
 
 
「おい」
「なんすか」
 
………
 

「───  ……っっ なな何すんだよ!!」
「うるさい」
「ちょ、うるさいってアンタっ」
 
 
自分でも情けなくなるくらい声が動揺に上擦る。 するなと言う方がよほど無理な条件だ。
彼の体を背中に直に感じてうろたえた。

先ほど「乾かすから上を脱げ」と大方乾いたはずの上着を広げるように言われて首をひねりながらも従った。
それで適当な場所に鮮やかな黄色を広げてみたらこれだ。
黄色の隣に腰を下ろした直後に、背後に男が来たと思ったら布が肌を掠めた。 なんでと思ったらその布が赤色であり、さらに布に男までが付いてきたのにひどく驚いてしまった。
衣服を貸してくれたのでなく、二人で共有する── しかも肩を横方向に並べてでなく後
ろから抱き込まれる形であることに頭が混乱しかかって勢いよく立ち上がりかけた。

「熱が逃げる」
 
彼が暖をとろうとしてこうやっているのも、 それが理にかなっているのもわかりはするが男同士が肌を寄せ合うには少し年頃的に気恥ずかしさを覚えたものだから逃れようとしたのに。
 
 

突然強く片腕を引かれた。強い抗いきれない力。
自然、彼に向かって倒れかかる上半身を止めようと、とっさに腕で体を支えようとしたが勢いは殺せずに男の素肌を頬に感じた。
その覆う物のない逞しい裸の胸元に頭部を押しつけられた。
 
動揺するよりも、その力の強さに酔いそうな自分。
 

炎が物を灼く臭いと、湿気を含んだ重い空気の雑多に混じってかすかに鼻をくすぐる彼の臭い。
体臭。そう呼ぶのは無粋すぎる、彼の持つ独特の臭い。
大きく息を吸い込んだ訳でもないのに体に吸い込まれて来るようだ。
 

さすがにこの姿勢のままでいるのはつらいので、ゆっくりと体を動かした。そうすることで一層男の素肌を感じてしまう。
密着している彼の肌は決して滑らかとはいえない。直に触れると見た目以上に傷が多いことがわかる。そのほとんどが現在でなく昔の名残であるけれど、この肉の隆起はこれから先も消えることはないだろう。 それを痛ましいと思うより、男の勲章、彼の歩いてきた道の重さと思ってしまうのは自分が相当彼に入れ込んでしまった証だろうか。
 
妙に、体が火照ってくる。
焚き火がもたらす熱以外で自分の体は体温を上昇させる。
 
 
 
 
耳が、何かを拾う。外気に触れている方でなく、不可抗力ながら男におしあてている方の片耳が。
規則正しい、何かの音。
途切れることのない、深く、脈打つ、
それは鼓動。
 
彼の音。彼の存在を知らしめる音。
男の心臓の位置より少し上に耳があるのではっきりとは聞き取れないけれど、自分は彼のかけらを拾うのだけは得意だから。
大地が密やかに鳴動するような彼の心音。
思わず耳を離しても、肌の密着が無くなるわけではない。
素肌同士でそんな物が伝わるはずがないと思うのに、男の鼓動が皮膚一枚から感じ取れるというのは甘い錯覚に違いない。 それでも明瞭に感じてしまうのは、耳から入り込んだ彼が自分を内から喰らい込んでいるからか。

揺らがない、彼の鼓動。
 
感じ取った自分の音はそれに高ぶるようにはやくなる。 男を知らぬ無垢な乙女のようなそんな所作をするのは似つかわしくない。けれどそれ以外に表現のしようもない緊張と高揚。
それを知られたくない。思ってしまうのに、離れがたくて。
そんな自分を見透かしたかのように、わずかに自分に回された腕に力が込められた。 その無言の言葉を自分の言いように解釈して、体の力を抜いた。
包み込んでくれる彼の存在に、自分を委ねる。
母胎回帰。そういうのかもしれないこの安心感。彼の存在が、自分の不安定を昇華させる。

そっと、目を閉じた。  
視覚を閉ざせばもっと彼の音が近くなる。
彼のここにいる音。
それを感じて高まっていた自分の音が、速度を緩め始める。
どんどん落ちて、落ちてして。彼の鼓動に追いついて。
彼に寄り添って。

重なり合う、二つの、音。

嗚呼。

重なった端から溶け合って、一層に近くなる互いの存在。

  安心、する
 
 
 
少年の素肌が自分の肌に寄せられた。
以前よりも肉が落ち、細かな傷が増えた。それでも自分とは比べ物にならない滑らかな肌。
自分の傷だらけで硬い肉体が触れているのに、張りのある少年の肌が傷つかないことに安堵した。 真綿にくるんでいたい訳ではないけれど、ふとした瞬間に湧き起こる庇護の心。
 
気恥ずかしさからか、自分の胸を押しのけようという仕草が見えた。先手を打って、腕に込める力を大きくする。
  せっかく暖をとろうとしているのだから離れるな
そう言ってしまえばいいのに、声にはなせなかった。 それは正しくもっともな言葉ではあったけれど、それだけではなかったから。 どこかこのまま肌を寄せ合って熱を共有したいとの劣情には遙かに及びもつかない想いがある。そのことをこうしていて認めてしまっている。
嘘を、言うのは得意ではない。
時に必要とすることもあるのは別として、今の自分にはもっともらしい響きを持たせるのは不可能ではないかと思う。 後ろめたさと微かな欲求と相まった想いを隠そうとする『言葉』はひどく薄っぺらで白々しい事だろう。
だから、何も言わない。多弁でないことを逆手にとって全てを暗幕の向こうに覆い隠す。
 
ともかく無言の行かせまいとする自分の意志表示を読みとったのか、 あきらめか、これ以後少年は大人しくなった。
 
少年が呼吸をする度に彼のしなやかな上半身が揺れる。 上下する胸が、彼が息を吸い込む度に自分の肌により密着する。細い鎖骨が胸に押しつけられる圧迫感すらも、痛みではなくむずがゆい甘さを伴う。

炎の照り返しを受けて顔の間近で浅い呼吸に揺れる金糸の、その黄昏とも暁とも喩えられない金と朱の混じり合いに目を細めた。
朱金とも言おうか、炎か少年が動く都度に微妙な変化を見せるその色あいに視界の下半分が埋められる。

魅せられるように。
否、何も考えていなかったのだ。
 
体の方が意識の制御を飛び越えて、動いてしまったと言う方が近いのかも知れないし、 それこそが無意識に抑圧された願望の吐露だったかもしれない。
ともかく普段の自分ではしない。そんな所作に移ってしまった。 移った後もその自覚はなかなか芽吹くことはなかった。
 

「何?」
 

音がする。
炎の音。
波が当たって砕ける音。
風が吹き抜けていく音。
それらの全てが何かに隔絶されたかのように閑かに遠くに聞こえる。
その中に浮かび上がる少年の音。声。
 
遠い音は彼の、彼らの妨げにはなり得ない。 むしろ不理解な魔力を伴って。
 

「アーロン?」
 

疑問詞の付いた、少し語尾が上がり調子の声もどこか靄がかかったような思考を取り払うこともない。
ただ肉体が何かの欲求を満たそうと言わんばかりに勝手に動く。貪るような貪欲さではなく。
 
少しだけ、首を伸ばして顔の角度を変える。ただそれだけ。
それだけで目の前の朱金が一層近くなり。
顔に、触れて。癖のある、少し痛んでしまった少年の髪が、肌に、触れて。
少しだけ、口づけた。
唇で触れるだけが口づけに分類されると言うのなら、それはきっと口づけ。

受ける方は、わずかの狼狽と戸惑いを持って頭部に感じる男の熱を受け止めた。
けれどそんな感情の動きすらごくわずかなものでしかあらず、一片の拒絶すらもそこになく。
なされるがままにそれを受け入れ、取り込む。

多くの音が空間に入り込んで来ているというのに、ひどくひどく。
ああなんて閑か。

少し、身じろいで体を動かしてから、相手の顔に自分の頭部が衝撃を与えないように計算して男の顔の下から抜け出した。 そのまま即、相手が退く暇を奪うように伸び上がって距離を埋める。
こめかみの辺りの髪に、顔を寄せた。漆黒の中に入り交じった白みを帯びた房に唇で触れた。
きっと普段の自分ならしないし出来ないこと。それはお互い様ではあるとしても。
 
笑いがこぼれた。 おかしさから由来とか気恥ずかしさのごまかしとか、そんな物とはどこか異なっている。他意がない、というより無邪気で子供じみて。
たわいもないいたずらをけしかけて、相手の反応を待っている子供のそれだと。誰もが思うようなほころび。
 
相手からの反撃。
今度はつむじより少し前頭寄りに男を感じた。
笑った。くすぐったいような気分が奥から湧いてくる。
またこちらからやり返す。今度は男の髪だけでなく雨風にさらされて少し硬い皮膚にも触れた。
男がやり返す。今度は二つ分。唇が触れては離れた。
小さく笑い声が漏れてしまった。 堪えようとはしていなかったから当然だが、くすくすとこそばゆいと言わんばかりのそれに、男も喉の奥でわずかに声をくぐもらせる。
 
触れては離れて相手の応えを待ってまた近づいて、離れて。
 
そこに性的な意味合いはおそらく無い。彼らのどちらも込めている意味はない。 ただ目隠しをして耳をふさいでいるだけの所産としても。
頭髪から始まった後は、素肌までもトレースする。それでもあくまで触れるだけだから唇を長期渡って押しつけることはない。 唇を触れたままその素肌を辿ることはしない。
これは、情事のための前戯ではないのだ。
あくまでも、「大切な」ものの存在を感じ取りたいというかわいいといえば可愛い未熟な愛情表現。
いつだったかの、もうはるか昔に感じてしまうほどの時に、甘える少年と交わした慈しみ。家族として与えようと試みた形の一つ。
今交わしているそれは、昔とは少し意味合いがずれてしまってはいても。劣欲に押されたものではない。

これは、愛撫ではない。
 

唇は、体の中でもっとも皮膚の薄い部位の一つ。 とすればそこからもっとも鋭敏に情報も取り込まれる訳で。
だから指先でなく、唇で相手を感じ取る。
相手の熱を触れた一瞬に吸い取って、肌の形を覚え込むように刻みつける。
どうして自分がこのようなことをしているのか、わからない。
どこか、歪んでしまっている事なのだとしても、
止められない。
相手の制止が無いどころか、返ってくるいらえがあるから一層に止まることなく。
 

閉鎖された空間。
外界から隔絶されて、今、この時には誰をもを侵入は出来ないとの保証が付いている。
だからかもしれない。
外で空が海が荒れる音がしても、自分たちからは遮断されて無関係に感じてしまって、さらに閉鎖空間を補完しているようだから。
この作られた一夜かそこいら限りの空間が、自分たちの何かを動かしているのだと思った。
 
有限だとわかっていて、それでもこの二人のみでなる世界の存続を望み。
 
いつからか、相手の存在に飢えるようになった自分の間隙を今という時間で満たしてゆく。
ずっと飢えていたのはわかっていた。それはもう出会ってからの大半の時間がそうだったのかも知れない。 けれどその飢えは収まって過ぎ去ってくれることも他の代替品で埋まってくれることもなく。 かと言って率直に当の相手に求めることが出来るほど、自分には度胸がなかった。
なのに今は相手との距離がこんなにも近い。相手の存在を肌を通して感じ取れる。
後にも先にもこれっきりかもしれないこと。
だから、これまでの乾きを潤すように、これからまたひからびてゆくことに備えて、大切な存在を感じ取る。
そしてやむことのない不安を埋め合わせるように、確認をした。
 
欲しい、そのカラダとココロを手に入れたいと望むよりは自己満足に限りなく近く。
そのくせ自分を押しとどめることも出来ない。
 

赤みを帯びた唇が肌に熱を求めて落ち。少しかさついた唇が触れた肌に逆に熱を与え。
触れ合う肌と肌。
触れた一瞬には冷たい肌も少しすれば内に内包する芯の熱を伝えてくる。 暖かさを感じ取った直後に唇は離れて、熱の余韻は唇に幻として残る。
 
幾度となく繰り返され、やむことのないやりとり。
親離れできない子。
子離れできない親。
擬似的な仮初めの関係としても一番適切かも知れない。彼らのやりとりを形容するならば。
 

互いに言葉はない。時折漏れ出す忍び笑いは意味を求められない。
幾度かにふと交わる目線だけが、空間を渡って交わされる唯一。
 
 
 
 
 
     洞窟に流れ込んでくる潮騒
 
   これは、親子としての繋がりを埋め合う物だから
 
     雲の上で走る閃光のくぐもった轟き
 
   相手の存在を今だけ体感していたいだけの話だから
 
     薪の生木が大きく爆ぜる音
 

    だから。
 

     なのに どうしてこんなに 閑か 
 

 
だから、
 
唇にだけは、触れない。
 

口づけだけは、交わさない。
 
 
 
     閉じた世界が自分を狂わす
 
 
 
そう、正気だったらこんな『戯れ』もできない。
 
それでもそれ以上に踏み込んだ事は気が狂っても、できない。
その吐息を吐く唇と触れ合うことは、破局への第一歩。この関係の崩れ去る引き金。
 

何も考えない。
 

     狂った方が楽だから 一層に感覚を鈍らせていく
 
     静寂に満たされた恍惚
 
感じ取りたいという欲求に押し流されてみる。
 

言葉は交わさない。名前も呼ばない。
ひどく濃密に似た時を甘受するのが最優先な訳ではないけれど。今はこの静寂が愛おしい。
 
 
 

  このまま、さ……
  このまま世界が閉じたらいいのにって思うんだ
 
  無理だとか、自分勝手だとか、そんなん全部わかってんだけどさ
 

  ………なあ、笑う? 呆れる? 
 
  
 
今、自分がここに居て、彼が居る。他には何ものの存在をもがない。
いつまでも感じ取っていたいその彼が彼である由縁の全て。貪欲に彼の存在の証を囲い取ってしまいたい。
 

  世界が閉じて……アンタと二人だけで……それが永遠になったらいいのにな…
 
  独占、とかじゃないんだけどさ、たぶん きっとアンタの存在だけを感じ取っていられたらいいだけなんだ
 
  ズルイよオレは?
 

男の首筋に、顔を落ち着けた。唇を押しつけるためではない。
唐突に終わった少年の動きに男が身じろぐ。    
 

  こうしていて、空間がオレ達だけで作られたら、
 
  アンタ─── 
  
 
  死なないだろ?
 

ここは狭すぎて『死』と損失のない世界。
 

  誰も、アンタを傷つけなくて、奪い取れないだろ?
 
  オレ、アンタを見失わなくて済むんだ
  アンタ以外の何をもを感じずに、アンタだけがオレ感じ取る世界全てになる
 
何も生まれいでることがないのが代償。
 

  だから、この空間が破ることを許さずに、時を止めていれば
  永遠に、
「ティーダ」

静かでいて、よく響く心地よい声。その音だけが耳を通ればいい。

  だめじゃん
 
どうしようもない相反に気が付いた。
 
  時間止めたら、アーロンの声、聴けないや 好きなんすよ、ソレ?
 

  はは、ほんと世の中ってどっちたたずッスね
 
くだらない自分のわがままに、発作的に笑いかけた。 その喉を震わせる振動が彼にも伝わったのだろう、顔を上げなくても彼の表情が少し想像できる。
 
  声聴きたいけど、時間が止まってアーロンをずっと感じていたいし
 

混濁してくる思考。考えても非現実すぎて無駄だとしても少年は堂々巡りを繰り返す。
今日は何から何まで情緒不安定で、しかも泣きそうになってしまった。 ここで泣いたらあまりにも馬鹿馬鹿し過ぎるので、堪えたが。
 

「ティーダ」
 

その声が 好きなんだ。
 
もしもの時。選択が二択だったときには、どうしようか。
 
「眠いのか?」
「んー、別に」
 
眠ったら、俺の感覚は閉ざされてアンタ感じられなくなる。
それって、すっごい損だし、ね。
 

「寝たらさ、困んない?」
「何がだ」
 
何がって、
 
「魔物が出たら困るじゃん?」
 
  言えるワケ、ないっしょ?
 
「なら、俺が夜番をしておいてやる」
 
だから寝ろ。
 

その昔から揺らぐことを知らないような表情と、安定感と深みのある低い声が自分に向けられた。
こうして自分だけの存在を見て欲しいとふと思うことは否定しないが、今はそれが少し希薄だった。 自分が居て、そばに彼が居る、そのことを感じたい方が強いのはどうしてだろう。
 

「ん、わかったけど、途中で起こせよ?んで交代だから」
「ああ、明け方になったら起こしてやる」
「意味ないじゃん!」
 
寝ている時間が長いということは、それだけ彼を体が認識して記憶に刻みつけられる量が減るということだから。
けっこうこっちも無意味に必死になったりする。向こうは子供のくだらない意地にしか見えないに決まっているが。
 
「仕方なかろう、ここに時計がないのだから」
 
子供に言い聞かせるような口調は二人だけの時に妙に頻出するのは気のせいだろうか。
けれどこちらもただでは済まさない。
身を、焚き火の方に向かって傾けた。男との接着点を無くしたくないからその体勢はかなりの無理があった。男の長衣から抜け出た上半身に、洞窟内の空気は少し冷たい。それでも身を出来るだけ伸ばして炎の音を立てている横に積まれた木片を手に取った。それを火にくべる。
 
「じゃ、これ燃えたらオレ起こして」
「……わかった」
「絶対ッスよ?」
 
くどいと言いたげに男が肩をすくめた。わざとらしそうなその仕草一つも様になって魅せられている自分が居る。
少し体を男にもたせかけると、背中に布地がかけられた。布地からほのかに匂う、独特の微香は鼻につく不快感ではない。
居心地を確かめるように少し瞼を下ろしたつもりだったのに、その一瞬で上げられなくなる。
 
 

「     」
 

  あ、アーロンが、なんか言った気がする
 
  何だろ
 
  なあ、何?  聞こえ、  ない
 

問いかけを発そうと開いた唇から漏れたのは力の抜けた吐息だけだった。
 
眠りに堕ちる。
 
その感覚の遮断されるその時まで、彼の熱を、感じていた。だから、安心して気が緩んで眠気に捕まったのかも知れない。
 

幸せでこころもちいびつな空間。
それは、次に自分が目を覚ますその時まで存続しているのだろうか。
 
 
 

さっきの二択。
 
一つ、離れても、なんでもいいから、いつ手にはいるか知れない彼のカケラを追い求めること。無論時間の流れるリアルタイム制。
 
一つ、離れるのが嫌で、彼だけに満たされていたいから、満たされているその瞬間に『死んでしまう』こと。今みたいな。でもその後はどうなのか知らない。それが永遠に繋がると思うのは間違いかも知れない。『異界』の捕らえようによりけり。
 

どうせ回答のわかりきった二択でも、いつか違う答えを選ぶのかもしれない。
 
違う選択肢が、今までと成り代わるのかもしれない。
 

そうだとしても
 
彼の熱を求め声を求め言葉を求め
 
自分が彼を「糧」に「生きる」ことの本質は、きっと変性しない。
 
 
 
自分はちっぽけな存在であるというのに、この広い世界は彼だけを感じることを赦してくれない。
ごく狭い空間すらも、世界は貪欲にはぎ取って、捕らえ込み、「全体」に内包してしまう。
 
 
 
 
 
この、世界の片隅で。
彼と永遠を築けたらどんなに────
 
 
 




"Words Worth"の真澄様から頂いたキリ番小説でした。
キリリク内容は今考えるとけっこう恥ずかしいものでして、大まかに言えば「ラブラブな二人」
それがもうこの小説を読んだ瞬間、「エエっこんな素敵なものを頂いてもいいのか?」と、ビビッてしまいました。
なんかティーダがいじらしくて可愛くて切なくて。
アーロンさんも寡黙ななかにもティーダへの思いとかがさりげなく感じられて、マジうっとりしてしまいます。
あああ、アーロンさん好きだぁぁぁぁぁぁ。
本当に真澄さん有り難うございます。
キリ番踏めて幸せ。