外傷性脳損傷

リハビリや薬物療法で障害最小限に
−後遺症に多い高次脳機能障害−
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 交通事故などで頭部を打撲すると、外傷性脳損傷を起こすことがある。外傷性脳損傷の後遺症とリハビリについて、産業医科大学(福岡県)の蜂須賀研二教授(リハビリテーション医学)に聞いた。
● 20%に中等度以上の障害残る

 頭部に受けた外傷で脳が損傷する外傷性脳損傷は、年間人口10万人当たり27人の割合で発生している。外傷の原因は、約50%が交通事故で最も多く、転落や転倒もある。外傷性脳損傷患者のうち、13%が死亡、1%が植物状態で、20%に中等度から重度の脳機能障害が残る結果となっている。
 脳は、打撃を受けると、その部位とその反対側が損傷するが、強い外力を受けた場合は、脳内ばかりか周囲の神経や血管、組織が破裂したり、ねじれたりして、出血やはれが生じる。
 脳損傷には、脳の特定の部位(局所)が損傷する「脳挫傷」や、脳細胞をつなぐ神経経路である軸索が広範囲に引き裂かれる「びまん性軸索損傷」がある。
 後遺症は、損傷が、局所にとどまっているか、広範囲にわたっているかで異なるが、高次脳機能障害の場合が多く、視力や聴力障害、手足のまひを伴うこともある。
 蜂須賀教授は「高次脳機能障害になると、人格形成やコミュニケーション、記憶、注意力など、社会生活を送る上で重要な脳の働きが悪くなる」と説明する。
 その結果、暴力を振るう、無気力になる、失語症になる、物の名前や操作手順、約束を覚えられない−などさまざまな症状が起こる。
● できることを生かす

 高次脳機能障害の診断は、コンピューター断層撮影装置(CT)や磁気共鳴画像診断装置(MRI)などによる画像検査、知能や記憶に関する検査、患者の行動観察などで総合的に行う。
 脳は、損傷部分自体は治せないが、リハビリや薬物療法で脳の障害を最小限にし、損傷を受けていない領域で失われた機能を補うことで、機能を部分的に回復する可能性はある。
 交通事故による脳外傷で、軽度の記憶障害が残った29歳の男性は、計算、パズル、PQRST法(物語を読んだ後で質問を読み、間を置いて質問の答えを記述し、さらに間を置いてその記憶内容を確認する)による記憶訓練、日常生活でのメモやスケジュール表活用の習慣化など、記憶力の低下を補うリハビリを3カ月間行った。その結果、家業の農業に再従事できた。
 蜂須賀教授は「高次脳機能障害のリハビリでは、患者がその時点でできることを生かしていくことが、社会復帰の糸口になると思います」と話している。