成年後見制度
ここでは新しく改正された成年後見制度について、脳外傷の受傷者がどのように利用できるのかを説明します.ただしここでは正確さよりもわかりやすさを優先して説明していますので,ここで述べられていることが完全に法的に正しいかという点については責任を負いかねます.制度利用に当たっては,専門家と十分相談のうえ登録されることを強くおすすめします.

新しい成年後見制度とは
成年後見制度とは、判断能力の不十分な成年者(痴呆性高齢者・知的障害者・精神障害者など)を保護するための制度です.従来の制度では,主に禁治産・準禁治産者を対象とした制度でしたが,これが見直され新しくなりました.この制度は,判断能力の不十分な人(例えば脳外傷の受傷者)に,財産管理や契約,悪徳商法などに関わるトラブルが発生したとき,これに対処できる一つの方法となるかもしれません.すなわちたとえば脳外の人が金銭的なトラブル(何も考えずに車を買う契約をしてしまった,悪徳商法によって高額な商品の購入手続きをしてしまった,など)に巻き込まれたときに,その契約を無効にすることができる可能性があるのです.

新しい成年後見制度には大別して「法定後見制度」と「任意後見制度」があります.

「法定後見制度」は,すでに判断能力の不自由な状態にある人に対して,家族や本人が「今の状態では適切な判断ができないから,○○さんに財産管理や遺産分割などの法律行為を任せます」と,東京法務局の後見登録課に登録します.またこれには判断能力の程度によって「後見」「保佐」「補助」の3種類に分かれます.

一方「任意後見制度」は,「今現在は判断能力があるのだけれど,本人が「この先ぼけちゃって何も判断ができなくなったら困るから,その時は○○さんに財産管理や遺産分割などの法律行為を任せます」と前もって登録しておくという制度です.脳外の人の場合はおそらく「法定後見制度」の登録をすることになるでしょう.

「法廷後見制度」の概要
「法定後見制度」は,現時点で判断能力が不十分な人(例えば脳外傷の当事者)について,家庭裁判所が適任であると認めた人(例えばお母さん)を,その成年後見人(あるいは保佐人,補助人)に選任する制度です.成年後見人(あるいは保佐人,補助人)と認められた人(例えばお母さん)には,判断能力が不十分な人の様々な法的事務についての権限(例えば財産の管理など)が付与されます.この制度には判断能力の程度によって「後見」「保佐」「補助」の3種類があります.

「後見」「保佐」「補助」の違いについて
これら3つは対象者の判断能力の程度によって分けられ、適用される法定事務が異なってきます.この違いについて以下にまとめてみます。

後見
自分の財産を管理・処分できないほどに判断能力を欠いている
(例えば,日常的に必要な買い物もできず,誰かに代わってしてもらう必要がある人)
保佐
財産の管理・処分に当たって常に援助が必要なほどに判断能力が不十分
(例えば,日常的な買い物程度はできるけれど,不動産・自動車の売買,自宅の増築・改築,金銭の貸し借りなど重要な財産行為はどれも自分ではできない人)
補助
財産の管理・処分に当たって援助が必要である
(例えば、重要な財産行為は自力でできるかもしれないけれど,できるかどうか微妙なところなので誰かに代わってしてもらった方がよい人)
より詳しくはこちらを参照してください.脳外傷の場合は「補助」か「保佐」を利用することになると思われます。

「任意後見制度」の概要
これは本人が,自ら選んだ任意後見人に対して,将来精神上の障害により判断能力が不十分な状況になったときの生活,療養看護,および財産管理に関する事務の全部または一部について代理権を付与することができる制度です. これを利用するためにはまず任意後見契約の締結をします。つまり、「私の判断能力が不十分になったときには、この人(任意後見人)に私の法的事務に関する権限をあげます」という約束をするわけです。その後月日がたち、例えば痴呆になってしまったりして判断能力が不十分な状況になったときに、この制度を利用するための申し立てをします(この申し立ては本人、配偶者、親族などが行います)。これによって家庭裁判所は任意後見監督人(任意後見人がわるさをしないように監督する人)を選任し、この時点から任意後見人が代理権を使うことが出来るようになります。

申し立ての方法
それでは脳外傷の人が成年後見制度の申し立てすることについて見てみましょう。具体例として、法定後見制度のうち「補助」を利用することを想定して、必要な書類や経費などを調べてみます。

法定後見制度の「補助」の対象者となるのは、「重要な財産行為などを自力ですることは出来るが、本人の利益のために誰かに代わってしてもらった方がよい人」です。脳外傷の人は認知障害によって適切な判断を下すことが出来ない状況がでてくるので、これに該当すると言えるでしょう。

この申し立てができるのは本人や配偶者などです。ただし本人以外の人が申し立てをするためには本人の同意が必要です。申し立ては家庭裁判所に必要書類を提出することによって行います。「補助」開始の申し立てに必要な書類は以下の通りです。

裁判所で受け取る書類
補助開始申立書*1
収入印紙(1件につき600円)*2
登記印紙(収入印紙とは別物です)4000円分*3
郵便切手(80円×10枚、500円×1枚、1040円×3枚:4420円)
本人の診断書(判断能力が不十分であることの証明)*4
*1:本人以外が申し立てする場合には「申立書付票」も必要です
*2:申立書にはります
*3:手数料の代わりです
*4:成年後見用の診断書用紙がおいてあるので、病院で記入してもらいます
*すべてそろえるとおよそ9000円+診断書の料金がかかります
役所で受け取る書類
申立人の戸籍謄本
本人の戸籍謄本および戸籍附票
補助人の戸籍謄本
補助人の住民票および身分証明書
*すべてそろえるとおよそ3000円かかります
法務局で交付申請する書類
補助人の成年後見に関する登記事項証明書(成年後見制度の登録をされていないという証明)
本人の成年後見に関する登記事項証明書(まだ成年後見制度の登録をされていないという証明)
*登記事項証明書(ある人が成年後見制度の対象者になっている/なっていないことを証明する書類)の交付申請をする場合には、まず申請書を、最寄りの法務局・地方法務局、テレフォンファックスサービス(登記インフォメーションサービス)、または法務省のホームページから取り寄せます。その後申請事項を記入の上、登記印紙(手数料:登録されていないことの証明のときは500円)をはり、返信用封筒とともに東京法務局後見登録課へ郵送しましょう
*すべてそろえるとおよそ1200円かかります
概算すると、必要書類すべてでおよそ15000円程度必要になります。これらをすべてそろえたら、必要事項を記入し、裁判所に提出します(これを「申し立て」といいます)。「申し立て」をすると家庭裁判所で審判が行われます。結果は1ヶ月ほどでわかると思います。