屋久島の秘密に触れて-フィールドワーク講座最終日の受講生の感想から

記録 安渓遊地

 これは、7日間の講座を終えた受講生の感想と、来年以降への要望の記録です。湯本貴和さんの司会で、「校長」として山極寿一さんが話し、そのあとめいめいが話しました。その場でパソコンに入力をして、その晩の交流会の間に、自分の発言部分の修正・補足をしてもらったものです。この報告書に載せるにあたっては、氏名を公表することへの事前の了承を受けていませんでしたので、受講生の個人名を割愛させていただきました。話し手ごとのタイトルは、安渓遊地がつけました。
 わずか一週間のフィールドワーク入門で、若者たちは屋久島のふところ深い魅力に触れ、生命の連鎖を感じ、見えない世界の重要性に気づき、これからの自らの生活についても考え直すきっかけを得ることができたようです。
 次年度以降への反省点として、スケジュールがやや過密であったことや、もう少し快適に過ごせる工夫の必要性への指摘もありましたが、あまり都会的な快適さのある空間でなかったことはかえって歓迎されていたようです。

屋久島のすばらしさを世界に発信する語り部として

山極寿一 「屋久島フィールドワーク講座の校長です(笑い)。7日前、この講座が始まる時、私はこづかいですと自己紹介しました。おかげでこれまでずっと、こづかいとして働かされるはめになりました。もはや遅かりしの感がありますが、今日は校長ということでやってみたいと思います。この1週間あっという間に過ぎ去ってしまいましたが、みなさんずいぶん逞しくなったと思います。ちょっととなりの人の顔を見て下さい。初めて会った時と比べて、色も黒くなって眼光鋭くなったと思いませんか。この講座の成果が出てきたとうれしく思っています。フィールドワークをする人をフィールドワーカーといいますが、フィールドワーカーには、今から申し上げる5つの能力というか条件が必要だと私は思っています。それは、
  1. 自己管理能力、
  2. 語らせる能力、
  3. 記録する能力、
  4. 考える能力、
  5. 自らが語る能力の5つです。
 そして、みなさんは、この1週間の合宿を通して、みごとにその能力があることを示されたと思います。
 まず、自己管理能力ですが、自分勝手で自己顕示欲のかたまりのような講師陣にもめげず、よく自らを律されて、心身ともに健康に過ごされました。自己管理能力があることを立証されたと考えていいでしょう。
 次は、木や花や虫やサル、そして人々に語ってもらう能力です。普通は聞こえそうもないものに耳を傾け、語らせる能力は、私達フィールドワーカーが長年研鑽を積んできた奥義です。それをきっと学んでいただけたと思います。
 さらに、そうして聞こえて来たものをきちんと記録していく能力が必要です。それは決して言葉で記録することだけを意味するわけではありません。さまざまな能力を用いて語られたものを記録するのです。それはすでにみなさんが経験されたように、とても楽しい作業です。
 そして、さらにその記録に基づいて考えていく能力があります。みなさんは、講師達が時にはとっぴょうしもない質問をすることに驚かれたかもしれませんね。いったいどうやってあんな発想ができるんだろうと思われたかもしれません。でも、それは、語らせる能力と、記録する能力がきちんとある上に花開いた能力なんだということを忘れないでいただきたい。一見ばかみたいな質問をしているようでも、それは、しっかり見て記録するという基礎の上で、色々なことを自由に考えて出している質問なんですね。でも、これはやりすぎるとはまります。あまり考えすぎると、私達研究者のような『ほとんどビョーキ』の状態になってしまいます。気をつけて下さい。何も研究者にならなくたってフィールドワークはできるのですから。
 最後に付け加えたいのは、様々な能力を駆使して聞けたことを人に伝える、語る能力です。あなたがたは、この滞在で屋久島の秘密を知りました。ぜひ、屋久島から帰られたらあなた方のひとりひとりがフィールドワークのすばらしさを、そして屋久島のすばらしさを伝える語り部になっていただきたいと思います。しかし、これは単に
饒舌になれということではありません。常に言葉で語れということでもありません。
時には語らないことが伝えることになる場合だってあるのです。秘密をもつことによって私達はまた出会えるかもしれません。そのことに充分留意して、ぜひとも屋久島と世界をつなぐ役割を果たしていただきたいと思います。
 最後に、この1週間の講座を支えてくださった温泉の管理人の方やお弁当屋さん、講義に来ていただいた方々、上屋久町役場環境政策課の方々をはじめ島の多くの方々に深く感謝したいと思います。ありがとうございました。これで校長のあいさつを終わります(拍手)。」


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