屋久島フィールドワーク講座 「ヤクシマザルを追って」 参加者: 高橋倫子、谷崎倫子、斎藤亜矢、猪飼京子、足立 隼 講師: 山極寿一、早石周平、半谷吾郎 目標
日程と実施内容 7月19日 海岸域のサルの生息域踏査とサルの直接観察(半山地区) 7月20日 上部域のサルの生息域踏査とサルの糞採集・観察(平瀬地区) 7月21日 海岸域のサルの直接観察とサルの糞採集・観察(半山地区) 報告1:サルの生息域踏査(上部と下部の比較) 7月19日 晴れ 03:30-16:60 半山1-3号橋の間を海岸まで下り、半山1号橋の北の林道まで登る (標高0-150m) 7月20日 くもり時々晴れ 12:00-13:35 瀬切川(平瀬)周辺を歩く(標高800m) 上部域の方が海岸域に比べて 1. 樹高の高い木が多い。 2. 幹の太い木が多い。 3. 果実をつけた木が少ない。 4. 植物の種類が少ない。 5. 苔がよく木々を覆っている。 6. 湿度が高い。 7. 日光があまり当たらず暗い。 8. 斜面が険しく、ヒルが多い。 上部域でとくに印象の残った木は、スギ、クロバイ、ヤマグルマ上部域、海岸域ともに共通して見られた木は、アブラギリ、スギ、アカメガシワ、イスノキ、ヒサカキ、サカキだった。 <考察> 上部域の苔の多さから、降水量が下部域より格段に多いと考えられる。繁茂 している植物や果実の種類、量から、サルたちは下部域では主に果実を食べ、上部域では果実以外の物を食べていると思われる。これは糞分析をした結果、葉であることが分かった。 外見は同じサルであるが、住んでいる場所が全く違うことに驚いた。体の特徴は一緒でも、生えている植物・地形・気候にそれぞれ適応して生活していると思う。 <シカの観察> 7月19日、半山2号橋の下の斜面を海岸へ向かって歩いている途中で、シカ3頭(母親1頭と年齢の違う子ども2頭と思われる)に出くわす。初めはじっとこちらを凝視したり、耳をピクピク動かしてこちらの様子を窺っていたが、こちらがじっとしていると葉を食べたり、うろうろし始めた。しかし、こちらが少しでも物音を立てると首をあげてこちらを見ていた。 半山1号橋の北100mでシカの糞を拾った。糞は固くて黒い。形は楕円形で2-3cmの筒状をしている。糞を洗ってみたが、形のある物は何も出てこなかった。これは、臼歯が発達していて腸が長く、食物が完全に消化されているためである。 報告2:採食行動
<印象>
<食物の特徴>
<まとめ> サルの採食行動全体として採食に意識を集中する時間が短いように見受けられたが、アカメガシワの果実のように採食に集中する時間が長いものも見受けられた。これはアカメガシワの果実に対してサルがとくに興味を示していることにもよるのか、またはこの個体の採食だけに見られる特徴かもしれない。ヤクシマザルが特定の食物に対して興味を示すことは、キノコだけが検出された糞があることから憶測できる。一度に採食するイヌビワの果実量が多いことも、このことを示しているようだ。また、アカメガシワの木の上でヤクシマザルが仲間と5mより近い距離で採食していたことは、他の場合のヤクシマザルの採食の一般的傾向(5m以上の距離をとる)と比較して、採食していた2個体の仲がよいことか、2個体が採食に集中していたためかもしれない。イヌビワやアコウの果実の採食時に、ふだんは地上か地上に比較的近いところに生息しているヤクシマザルが下の果実を採食せずに上の果実を採食にきたのは、上の方の果実が熟しているからか、上の方の果実の方がヤクシマザルの好みに合う味で、サルがそれを知っているからかもしれない。採食速度がアカメガシワの実の場合のみ異様に速かったのは、観察した2個体のみの特徴か、もしくはアカメガシワの果実をこの個体かヤクシマザル全体が好むのか、ヤクシマザルが果実を好んでいてアカメガシワの果実がイヌビワの果実よりも小さいので、同程度の量を採るためせわしく食べているからかもしれない。 採食中にヤクシマザルがある一定以上の距離を他の個体ととっているのは、近づきすぎると緊張関係が生まれるからであろうが、(7)の場合にそれが見えなかったのは2個体が仲の良い個体であったからかもしれない。 (8)でエゴノキの葉を採食したのは、エゴノキの葉の中に何か特定の成分があったからかもしれない。 ヤクシマザルが食い尽くしをしないのは、イヌビワの果実にまだ食べられるものがあったのに採食を止めたことから、サルが意識してそれを行った可能性もある。 次ページへ進む 目次に戻る |