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報告4:糞分析(下部域)
<採集方法>
 下部域(標高100-200m)では、西部林道を歩いたり、車で走ったりして新しい(当日、前日)糞を見つけ、採集した。上部域(標高500-900m)は大川林道を車で走り、出発地点からの距離を車のメーターで読みとり、地図にポイントしてその地点の標高を読んだ。

<糞分析の方法>
1. 糞に付いている石、葉、枝などをよく落とし、ナイロンの袋に入れて、採集日時、場所、大きさなどを記録する。
2. ふるいに乗せて、手または割り箸で水を流しながらそっとほぐして洗う。
3. 内容物を新聞紙の上に広げる。
4. ルーペを用いて観察する。

<結果>
No 大きさ 果実 植物繊維 昆虫 きのこ その他
1 20% 3% 77%    
2 30 5 65    
3 50   50    
4 72 7 21    
5 80     5%   15%
6 90     2 5%  
7 85   5 5    
8 90   2 2 5  
9 18     1 80  
10 60   30 5 5  
11 90     10    
12 40   50     10
13 ? 82     5 10  
14 ? 95       5 4
15 ? 90     6   5
16 ? 40   40 10 5  
17 ? 100          
18 ? 60   30 5 5  
19 ? 70   30      
20 ? 40 5 50     5
数値は各食物カテゴリー体積比(%)で示してある。 +:少々


内容の内訳
No 果実 昆虫
1 Ficus(イヌビワ、アコウ、 オオイタビなど)の種子のみ  
4 Ficus 70%
アカメガシワ 2%
 
5   アオバハゴロモ
6   甲虫破片
7   甲虫 1%
昆虫 4%
8 サンカクヅル 20%
Ficus 60%
アカメガシワ
 
9 Ficus 15%
アカメガシワ 3%
甲虫破片
12 Ficus 30%
アカメガシワ 10%
 
13 Ficus 80%
クス 2%
 
15   幼虫        5%
甲虫        1%
17 イヌビワ 70%
アカメガシワ 30%
 
18 Ficus 40%
アカメガシワ 20%
 
19は単子葉植物の葉、20は枯れ木の破片が含まれていた。

<まとめ>
大きさ サンプル数 果実 植物繊維 昆虫 きのこ その他
4 86(80-90) 0 2(2-30) 4(2-5) 4(0-5) 4(0-15)
2 39(18-60) 0 15(0-30) 3(1-5) 43(5-80) 0
2 65(40-90) 0 25(0-50) 30(10-50) 0 5(0-10)
12 62(20-100) 2(3-7) 30(0-77) 2(0-10) 2(0-10) 1(0-5)
20 65(18-100) 1(0-7) 23(0-77) 3(0-50) 6(0-80) 2(0-15)
各食物カテゴリーは平均値(%)と最小値、最大値を示している。

果実の種類:イヌビワ、アカメガシワ、サンカクヅル、クス
昆中の種類:アオバハゴロモ、幼虫、甲虫
1. 上部域と違って、糞の体積の半分以上(平均値)を果実の種が占める。どの糞も果実を含んでおり、全体で観察された果実の種類も豊富である。
2. 植物繊維を全く含まない(0%)の糞が多かった。
3. 葉を食べる者には個体差があり、全然食べていない者もいれば、80%近くも食べている者もいる。
4. 子供の糞では昆虫の占める割合が他と比べて高い。昆虫はタンパク源であり、子供の成長に必要とされるようだ。オトナの糞からは甲虫の羽。、足などが見られた。オトナは堅い甲虫も食べている。
5. きのこは見つけるとその1ケ所でまとめて食べ続けるようだ。あまり消化されずに出てきた。
6. クスノキ科の葉は、糞にもその匂いがよく残っていた。
7. 単子葉植物の葉は、20cmぐらいの長さで出ていた。かみ切ったり砕いたりしないのだろうか。
8. No.1-4とそれ以外では糞を採集した場所が違う(前者は大川林道、後者は西部林道)。内容物の違いは群の違いを表しているのかもしれない。


報告5:糞分析(上部域)
<結果>
No 標高 果実 植物繊維 昆虫 きのこ その他
1 200m 5% 2% 93%      
2 600 5 30 65 + +  
3 600 +          
4 690     30   70%  
5 740 25 2 73      
6 850 80         20%

内容物の内訳
No.1  果実はFicus
No.2  果実はFicus
No.3  果実はFicus
No.5  果実はヤマモモ(70%)とイチゴ(5%)
No.6  果実はヤマモモ

果実 植物繊維 昆虫 きのこ その他
平均値 23% 7% 52% + 14% 4%
範囲 5-80 2-30 30-93   0-70 0-20

サンプル数は5(No.2は古い糞なので除外した)

1. 糞の内容物の平均割合は葉が一番大きい。
2. 果実は一般的には少ないが、多く含まれている糞もある。昆虫は少ない。
3. 糞の内容物の割合は個体差が大きい。
4. 糞1個に含まれる果実の種子の種類数は最大でも2種である。
5. 上部域の中においても、摂取された果実の種類を見ると、比較的標高の低いところではFicus、高いところではヤマモモと標高による違いが見られる。
6. 一般的に、果実、葉、繊維などさまざまなカテゴリーを含んでいるが、それぞれの葉の内容はある特定のカテゴリーに偏っている。
7. どの内容物も割合の範囲(最小値から最大値)の幅が大きい。

<考察>
 上部域の中でも、標高の高いところと低いところで果実の種子の種類に違いが見られたのは、生えている植物の種類が異なるか、実の熟す時期が異なるからだと思われる。しかし、高いところで食べられていたヤマモモやイチゴは低いところにも生えるので植物の種類が違うわけではない。ヤマモモの実は低地では6月頃に熟すが、標高の高いところでは気温が低いので低地よりも遅くなると考えられる。だから、サルが実を採食する時期も遅くなり、糞から出てきたのではないだろうか。また、標高の高いところはFicusが見られないので、これは低地のみで食べられていると考えられる。
 古い糞を除いて、5個中3個の糞が半分以上葉を含んでおり、低地のサルに比べて葉を多く摂取していると考えれる。きのこを含む糞は2個しか採集できなかったが、そのうちの1個は多量に含んでおり、きのこ類は集中して採食することがあると考えられる。



 以上の報告1〜5は5人の班員がそれぞれ分担して皆の記録や意見を聞き、まとめたものである。観察したことについて十分に討論する時間がなかったので、多少思い込みや考えすぎの目立つ記述もあったが、個人の感想としては興味深いのであえてそのまま掲載してある。参加者それぞれは独自の視点を持ち、鋭い観察眼を働かしていることがわかる。ただし、誤った判断もあるので今後それぞれが自分の体験を人と会話し、文献等を調べるなどして補正し確認して欲しい。そうした作業を通じてフィールドワークの技術は磨かれていくと思う(山極)。

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