屋久島フィールドワーク講座
「植物と森林」

参加者: <前期参加者> 福島万紀、杉本尚凡、大西瑞木、名倉京子
<後期参加者> 長田知子、高橋倫子、井熊一隆、谷崎倫子、森脇誠

講師: 相場慎一郎、湯本貴和

実習の概略
 屋久島の植生帯の概略を把握できるように、前期・後期ともに一日目は、永田地区土面川流域の照葉樹林(標高300-400m)と宮之浦地区白谷雲水峡の針広混交林(標高700-800m)を観察した。土面川流域では、スギ造林地・伐採後再生した二次林・土石流後に再生した二次林・原生的森林などさまざまなタイプの森林を観察するとともに、植物を採集しながら照葉樹林の構成樹種を覚えた。前期には、さらに海岸部の植生も観察し、後期には、検索表を自作して植物の同定方法について考えた。
2日目3日目は、特に土石流後に再生した二次林にしぼって、方形区をもちいた詳しい調査をおこなった。この森林は川沿いに土砂が堆積したあとに成立したと思われ、上層を先駆性の落葉樹が占め、下層に耐陰性の高い常緑樹が見られた。前期には、土壌断面をつくって過去に土砂が堆積したことを確かめ、生長錐を用いて上層の落葉樹の年輪を読んだ結果、土石流は44年以上前に起こったと推定した。後期には、樹高の測定方法について学び、高い木については三角計算を使って角度から樹高を推定した。また、幹直径の毎木調査をおこなって、過去のデータと比較してかんたんな生長解析をおこなった。以下に、実習参加者の作成したレポートの写しを示す。

前期参加者のレポート1
二次林と原生的森林の比較

<目的>
2つの二次林の違いを原生林との比較も含めて観察する。

<調査した森>
1. 人が伐採後59年おかれた森
2. 土石流後44年以上経過した森
3. 原生林

<それぞれの森に入った印象>
1. 木が密集して、つまっている感じがした。苔むしていた。
2. 木がすいている。
3. 太い木と細い木、さまざまな木があった。苔むしていた。

<木の種類>(相対胸高断面積合計値が大きい順、上位3つをあげた)
1. 人が伐採後59年おかれた森
落葉広葉樹6種(エゴノキ・ハゼノキ・ヤマザクラ)
常緑広葉樹25種(スダジイ・コバンモチ・ヤマモモ)
2. 土石流後44年以上経過した森
落葉広葉樹8種(アブラギリ・ヤクシマサルスベリ・ヤクシマオナガカエデ)
常緑広葉樹25種(ウラジロガシ・バリバリノキ・ヤマモモ)
3. 原生林
落葉広葉樹0種
常緑広葉樹23種(スダジイ・イスノキ・タブノキ)

<結果と考察>
1. 人が伐採後59年おかれた森
 比較的大きな常緑樹が優占種を占めている。それは土壌そのものが残されるため、シイの仲間が萌芽更新によって成長することができるためと考えられる。遷移の最終段階(原生林)の状態に、bの土石流の後44年以上経過した森より近いといえる。
2. 土石流の後44年以上経過した森
 落葉樹が優占種を占め、下層には常緑樹の幼木が見られた。これは土石流により、土壌が流されてしまったため、遷移がより前段階に戻され、パイオニア植物(ここではアブラギリ・ヤクシマサルスベリ・ヤクシマオナガカエデ)が先に入り込んだことによると考えられる。そして下層の幼木には落葉樹は見られず、常緑樹が多く見られるため、やがては常緑樹が優占種となることが予想される。
3. 原生林
 原生林の森は落葉樹がなく、常緑樹が優占種を占めているため、遷移の最終段階といえる。cの原生林は常緑樹の中でもスダジイやイスノキ・タブノキが多く、また太い木と細い木が混合した森を形成している。この原生林に常緑樹の中で耐陰性の高い樹種がどのくらいを占めているかはわからないが、今後常緑樹の中でも耐陰性の高い樹種が定着し、長期間にわたって世代交代しながら極相林を構成していくと考えられる。このように屋久島の森林の変化はギャップ更新の他に、地滑り(土石流)による更新や伐採による更新などが考えられる。地滑りは屋久島の花崗岩地帯の斜面では1000年に1度程度起こすと考えられている。また、標高800mあたりになるとスギ林が出現してくるが、このスギはパイオニアの性質を持ちながら、大木になり、しかも長寿であるという性質をもっている。スギ林は照葉樹林に反し、遷移の初期もスギ林なのである。そして照葉樹林と同じようにギャップ更新や地滑りによる更新、伐採による更新によって森林が維持される。このスギ林は九州本土では暖温帯針葉樹林としてのモミ・ツガ林と冷温帯の夏緑樹林としてのブナ林があるところに空きができたため、そこにスギが残り、極相の優占種となったのである。これだけ多くの樹木が入り乱れているが、それぞれの種の性質や好みによって、生育場所は限られている。また、植物の好みに大きく影響する要因のひとつには、土壌条件があるのではないか。雨の多い屋久島で、どれだけ雨を吸収するか、どのくらいその水を保っていられるかは、水を必要とする植物にとって大きな条件であると思う。


前期参加者のレポート2
土壌調査

<目的>
 今回調査した区画は、照葉樹林帯にあるが、落葉樹が優占している区画である。本来なら照葉樹が優占しているはずなのに、落葉樹が優占している理由として、過去に何らかの環境の変動、例えば土石流などが挙げられる。この可能性を探るために、実際に穴を掘って土壌の様子を観察し、その後原生林の土壌断面と比較してみる。

<予備調査>
用具:検土杖・スコップ・シャベル・メジャー・ビニールシート
1. 調査方法
 40m×10mの方形区画をつくる。
 検土杖を用いて、5m間隔で土壌の深さを調べ、土壌の様子をある程度把握する。
検土杖を30cm、60cm、90cm、1mの順番で地面に差し込む。その際に検土杖の先端が石に当たったり、鉱物質のものにつき当たった場合はその深さを計測する。
 一か所につき、3回計測し、その平均をデータとして扱う。また、どれくらいの深さから土壌の質が変わっているかも確認する。
2. 結論
 深さ50cmのあたりから土壌の質が変わっていた。また4−6の地点の深さは約1mだったので、その部分を掘って土壌断面を観察すればよいことがわかった。

<土壌断面調査>
調査区画の土壌断面
 方法約1m2の穴を掘る(掘り出した土はビニールシートの上にのせ、後で土を戻す。見たい側面の木の根や埋木などを除ける。
1. 観察結果
Anew層7cm黒褐色(茶色)
Bnew層6cm黄褐色(マサ混じる)>
Aold層20cm黒褐色(こげ茶色)
Bold層74cm以上黄褐色
2. 原生林の土壌断面
A0層2cm
A層22cm黒色
B層88cm茶褐色
C層67cm白っぽい(風化した基岩)

<総合結果>
 土壌断面調査をおこなったところ、A層B層という組み合わせが二段にわたって積み重なっていた。上のほうのB層はマサ(花崗岩の風化物)が混じり、未発達の土壌だった。この土壌と原生林の土壌断面を比較してみると、各層の厚さは両方ともたいして変わりはなかったが、各層の色が異なっていた。原生林の方が、A層はより濃い黒色で、B層はより赤みを帯びていた。また、原生林の方の土壌断面は、A層B層の下にC層という風化した基岩からなる白い層があった。

<考察>
 原生林と調査区画の土壌断面を比較した結果、Bnew層とAold層の間に何らかの環境の変化が起こったことが確認できた。また、Bnew層の様子から、川からの土砂によって、Aold層の表面が覆われ、それが新しいBnew層となったことが予想された。そしてBnew層にカラスザンショウやアブラギリなどのいわゆるパイオニア植物が入り込むことによってAnew層とBnew層が分化したと思われる。また、原生林の土壌断面と比べてAold層が未熟であることから、この層はまだ発展途上にあることがわかった。


前期参加者のレポート3
アブラギリの木の年輪より

<序章>
 アブラギリの木の年輪を調べることにより、そこから幾つかのデータを読み取り、成長の変化を調査。

<年輪のできる理由>
 夏と冬の生長量の違いにより年輪が生じる。
夏:太陽の光の量が多く光合成量が増す。→栄養が多くつくられる。→その栄養を通すために道管が太くなる。
冬:太陽の光が少なく、光合成量が減る。→栄養が生成が少ない。→栄養の通り道の道管が小さくなる。熱帯などのように一年中温度変化がない所では年輪は生じない。

<アブラギリとは>
学名:Aleurites cordata(トウダイグサ科)
特徴:油をとることができる。
屋久島では、下駄をつくる材料に使用された。

<成長錐によるコアサンプルの採取>
 成長錐という道具を使用し、木を切り倒さずに、コアサンプル(幹を鉛筆上に抜き取ったもの)を採取し、アブラギリの年輪を調べる。
採取方法
1. 成長錐を差し込む。
2. 時計回りにねじ込む。
3. 中心に到達したら刃をいれる。
4. 刃をいれた後反時計回りに一回転する。
5. 刃を抜き取る。
6. 刃の中にコアサンプルが取れる。
7. 最後にクリームを塗り穴をうめる。

<コアサンプルの観察>
 樹皮に近い(新しい)側の白い辺材(生きている細胞)と茶色い心材(死んでいる細胞)が区別できる。計算によるとサンプルした木の断面積のうち心材は10%(134cm2)辺材は1197 cm2で、90%の部分は生きている。

<コアサンプルの測定>
 成長錐を使用し、取り出したコアサンプルから年輪を読み、その生長量を測定。測定結果:年輪の数44以上→樹齢44年以上

 平均年輪成長幅の結果より、年を経るごとに年輪成長幅が減少している。
その理由として考えられること:実を作る方に栄養を送るため、木の成長に栄養がまわらない。木は成長し、どんどん大きくなり、幹が太くなるが、葉は周りの木に邪魔され、多く茂らせることができない。そのため、木の幹の成長量が少なくなる。

後期参加者のレポート1
樹高と直径の関係

<目的>
人間の身長と胸高直径の関係
タイミンタチバナの葉の幅と長さの関係

<方法・日時・場所>
7月24日 土面川上流標高350m
44年前に土石流が起きた場所で、40×10mの面積内ではかる。
樹高は測桿・角度計を用いる。
測桿は12mまで測定できる。
12m以上の木は測桿を用いる。

角度計からの樹高Hの求め方
目の高さから木の先端までの角度:T
目の高さから目やす棒までの角度:P
目の高さから地面までの角度:B
とすると
H = (tanH−tanB)/(tanP−tanB)
木に番号をつけ、T・P・Bの角度をはかる。
幹の周囲長をπでわり直径を求める。

人間の身長と胸高直径はメジャーで身長と胸囲をはかり胸高直径をだす。男15人を測定。葉は、タイミンタチバナの枝一本についている葉すべての長さ・幅をはかる。

<結果>
$

<考察>
 3つのグラフを比較すると、1.樹高と胸高直径のグラフと3.葉の長さと幅のグラフは関係がはっきりしているのに対して、2.人間の身長と胸高直径のグラフには、ばらつきがある。
 木は光合成をして成長するので、高くないと不利であり、葉も大きいほうがよい。そのため、直径が大きくなれば、樹高は高くなり、葉も幅と長さが相対的に成長する。つまり制約があるのである。一方、人間には制約がない。そのためばらつきがある。また、1と3をくらべると、1は安定する部分がはっきりしている。木はある程度のびると、台風で倒れる、もしくは水を全身に送る力に限界があるため、ほぼ一定の高さにとどまる。

後期参加者のレポート2
木の直径と成長速度の関係について

<目的>
木の直径と成長速度に関係はあるのかないのかを調べる。

<調査方法>
日時:7月25日(日)午前
場所:永田地区土面川上流。標高350m。44年前に土石流が発生。40m×10mの調査地区を設定し、そこに生えている木の周囲長(5cm以上)を全て測定し、それを直径に直して記録。4年前同じ調査地区で調べたデータと比較。4年間の幹の直径の増加量を調べ、それを落葉樹と常緑樹に分けてグラフ化した。

<結果>
木の枯死率
  4年前の本数 枯死数 一年当たりの枯死率
落葉樹 27 2 1.8%
常緑樹 69 3 1.0%

<考察>
 44年前に土石流が起こり、まだ遷移途中の森林内では胸高直径が約10cm以上の場合は陽樹である落葉樹の成長速度が速い。逆に胸高直径が10cm以下の場合は陰樹である常緑樹の方が成長速度が速い。これはいち早く成長し、高いところにある落葉樹が太陽の光を浴びて大きく成長し、逆に林内の暗いところは常緑樹が成長しやすいのではないだろうか。また、落葉樹の枯死率が高いのは落葉樹から常緑樹に遷移しつつあることを示している。

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