屋久島フィールドワーク講座の報告
 
 第1回「屋久島フィールドワーク講座」が、1999年7月18日から26日の日程で開かれた。屋久島の自然をフィールドに、これまで現地調査を行ってきた研究者を講師にして、学生がフィールドワークの基礎を習得することを目的に参加者を公募して行われた。地元の上屋久町が主催し、屋久島環境文化財団・京都大学霊長類研究所・京都大学生態学研究センターが共催として加わった。屋久島の自然を研究してきた成果をもとに博物館的活動をおこない島の振興に役立てようとする「屋久島オープンフィールド博物館」構想の活動の一環として企画されたものだ。

 全国から多数の応募があった中から、専攻分野も学年もさまざまな14名の学生が選ばれ参加した。おもな舞台となったのは、屋久島の西部地区を中心とした世界遺産地域である。内容は、まず、四つのテーマのコースに分かれて実習を行った。各コースの実習は一回3日間で、参加者は二つのコースを選択した。「人と自然」コースでは、廃村の遺物調査やお年寄りからの聞き取り、漁港や生ごみ堆肥化工場の調査を行い、過去と現在の人の生活を考えた。「植物と森林」コースは二次林の構造、とくにアブラギリ個体群を調査してその成立過程を追った。「鳥の暮らし」コースではスギ林と照葉樹林、林内と伐採地とで鳥類群集を比較した。「ヤクシマザルを追って」コースは声や食痕を探し群を追跡調査する方法を学び、糞にくる昆虫とその種子散布への効果を調査した。それぞれ3日目には発表会が行われた。特に2回目の発表会では調査データのまとめと発表のしかたも上達し、参加者一人一人が大きな成果を得たことが伺われた。

 二回の実習の間の22日には「屋久島学講座」と銘うち、バスで移動しながら、島内在住の講師から実習をうけた。島の自然を相手に生活している人からの話は、学生たちに特別な印象を残したようだ。また、期間中毎日、夕食後に各講師が講義をおこなった。これは同時に上屋久町の「生涯学習講座」としても位置づけられ公開された。島内の受講者は質問も活発で、終了後には学生と一緒に焼酎を片手に議論する場面もみられた。

 講座終了時に接近した台風5号のために船・飛行機が欠航し、参加者の多くが滞在を一日延ばすというハプニングはあったが、予定した課程を順調におこなうことができた。協力をいただいた島内外の多くの方々・諸機関の皆様にお礼を申し上げます(なお、この講座の成果報告書や写真は、後日、インターネット上の仮想博物館「屋久島オープンフィールド博物館」のホームページ(http://www.dab.hi-ho.ne.jp/yakuofm/)に掲載します)。

<実習日程>
7月18日 現地集合・オリエンテーション
7月19日〜21日 前期実習(コース選択)
7月22日 屋久島学講座
7月23日〜25日 後期実習(コース選択)
7月26日 現地解散

<屋久島学講座の講師とおもな話題>
岩川文寛(屋久島フルーツガーデン):屋久島の栽培植物と固有植物
小原比呂志(屋久島野外活動総合センター):屋久島の地質と地形、海岸の生物
手塚賢至(足で歩く博物館):野外スケッチ入門、ヤクタネゴヨウの現状
日吉眞夫(生命の島):屋久島の森林伐採と自然保護の歴史


<講義(20:00〜21:30)>
18日 湯本貴和(京都大学)「世界自然遺産の島・屋久島:植生分布と固有種」
19日 山極寿一(京都大学)「サル社会のしくみ:世界遺産の森に生きる」
20日 相場慎一郎(鹿児島大学)「多様性の森:動態と多種共存を解く」
21日 安渓遊地(山口県立大学)「イバルナ学者・イバルナ日本人・イバルナ人間:島からのことづて」
22日 安渓貴子(山口大学)「木や花の声に耳をかたむける―植物たちに学んだこと」
23日 上田恵介(立教大学)「鳥の行動と社会:配偶システムの多様性」
24日 野間直彦(滋賀県立大学)「動物と植物との関係:花と果実をめぐって」
25日 丸橋珠樹(武蔵大学)「森をつくるサル:霊長類と森との共進化」

<参加学生>
足立隼 京都大学理学部2年
猪飼京子 愛知教育大学教育学部理科生物学教室3年
井熊一隆 慶応義塾大学総合政策学部3年
大西瑞木 北海道教育大学教育学部釧路校生物学研究室3年
奥山明仁 山口大学経済学部商業教員養成課程4年
長田知子 滋賀県立大学環境科学部生物資源管理学科2年
斎藤亜矢 京都大学理学部2年
杉本尚凡 神戸芸術工科大学視覚情報デザイン学科4年
高橋倫子 日本獣医畜産大学獣医学科1年
谷崎倫子 滋賀県立大学環境科学部環境生態学科2年
名倉京子 奈良女子大学理学部生物科学科2年
根津朝彦 法政大学文学部史学科4年
福島万紀 京都大学農学部1年
森脇誠 滋賀大学経済学部企業経営学科4年

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